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魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 第十話「龍と雷光」 忠勝は優しき雷神、フェイトの武器、バルディッシュによく似た大剣を振る。 振る度に量産型は爆発。残るは数体。 だが、その数体を大剣で一掃しようとはしなかった。大剣を黒い宝石に戻すと。地面へと降りる。 (ヴィヴィオを救うにはやはり突入か・・・!!) 今度は金色の宝石を取り出すとその腕を天に掲げる。目の色から金色から雪の如き白へ。 宝石が光り、杖へと姿を変えた。 「あの杖って・・・!」 「シュベルト・・・クロイツやて・・・・!?」 その杖は最後の夜天の王、八神はやてが手に握る杖「シュベルトクロイツ」に似ていた。 忠勝は両手で杖を構えると十字の先の部分から白い稲妻が発生。稲妻は異様といえるほど大きくなる。 刹那、その大きすぎる稲妻は量産型とガジェットドローンを巻き込みながら聖王のゆりかごへ迫る。 案の定展開してあった結界にぶつかる。それでも忠勝は諦めない。叫び声にもよく似た鋼の唸るをとが響く。 大きな爆発の後結界が一箇所だけ見事に割れ、潜入できるほどの穴ができていた。 「・・・・忠勝さん!なのはちゃんとヴィータちゃんと一緒にゆりかご内部へと潜入!フェイトちゃんは先ほどの指示通りにスカリエッティの研究所へと潜入!」 指示された皆は頷くと、それぞれの場所へと飛ぶ。戦いはまだ、続く。 「ぐはぁぁぁっ!」 その戦場から少し離れ、吹き飛ばされたのはエリオだ。壁をぶち抜いてビルの中で倒れこむ。 吐血するエリオだがガリューは容赦なくエリオの腹に蹴りを入れていく。 「ぐふっ・・・!!」 「エリオ君っ!きゃあぁ!」 エリオの方に注意が逸れたところをルーテシアにつかれ、攻撃されるキャロ。 しかしルーテシアやガリューの方も優勢とはいえ次第に体力を奪われていく。そう、エリオとキャロのガッツで。 だが召喚のほうに問題がある。フリードリヒは今巨大な龍となってルーテシアの召喚虫を蹴散らしているがキリがないのだ。 おまけに地雷王という巨大なのもいるし、ルーテシア達の後ろでヴォルテールと戦っている白天王というのもいる。 「く・・・!」 エリオは槍を杖代わりにして立ち上がるがすでに満身創痍。 キャロも同じような状態である。 「ルーちゃん!私のお話を聞いて!」 「・・・消えて・・・!!」 ルーテシアは再び魔力を放つ。魔力に襲われ吹き飛ぶ二人。その足元には蒼い渦だった魔方陣が。 「え・・?キャロ・・・・これ!!」 「魔方陣・・・!?」 その瞬間晴天のはずの空から稲妻が落ちる。 稲妻の落ち方は尋常ではなく、何本もの稲妻が一本に集結、大きな一本となって落ちてきたのだ。 「Ha!楽しそうなpartyじゃねぇか・・・・!俺も混ぜろや・・・・・!」 そこには、一人の蒼い侍が立っていた。 蒼い侍は腰に挿していた六本の刀を片手に三本ずつ構える。 「さぁ行くぜぇ!イカレたパーティの始まりだ!Let s rock!!」 ━━━━"The dragon without the right eye" runs(「右目の無い龍」は走る。) ━━━━The sword that it is called "the nail of the dragon" to grasp in the hand.(その手に握るのは「龍の爪」と呼ばれる刀。) ━━━━"The dragon" infringes upon an enemy as far as there is a fight there and cuts it down.(「龍」はそこに戦いがある限り、敵を蹂躙し、切り倒す。) ━━━━Orbit of the lightning that it is blue that a nail weaves. But the blue does not have the cloudiness.(爪が織り成すのは蒼い稲妻の軌道。だが、その青に曇りはなく。) ━━━━And the dragon gives its name.(そして龍は名乗る。) 「この奥州筆頭、伊達政宗を楽しませてくれるヤツぁ、ここにいねぇのかい?」 奥州の龍、伊達政宗推参、その背後には斬り捨てられた召喚虫の群れ。 だがその中の一匹が立ち上がり、腕を振るう。腕は当たることなく、「龍の右目」に防がれた。 「政宗様、背中が隙だらけとあれほど・・・・!!」 ━━━━To a dragon without the right eye, there are the right eye and a man to be able to invite.(右目の無い竜には、右目と呼べる男がいる。) ━━━━The man did not have the nail of the dragon, but there was scathing brightness of the eye named the sword.(その男に龍の爪はないが、刀という名の鋭い眼光があった。) 「あぁ?俺の背中はお前が守るんじゃなかったのか?」 「無論、この片倉小十郎。命を賭けて政宗様の背中をお守りいたします!」 「Coolじゃねぇか。それでこそだ。」 槍使いの少年と龍使いの少女の前に現れたのは、一匹の「龍」だった。 「小十郎、俺は黒いあいつと戦う。他のは任せたぜ。」 政宗はガリューへと目標を変え、走り出す。すぐにぶつかり合う刃と刃。ガリューは背中から生えた触手で政宗の腹を打ち、吹き飛ばす。 ビルに突っ込む政宗だが体勢を立て直してまた突撃。顔は、笑っていた。 「やれやれ、困ったお方だ・・。さて・・・嬢ちゃん、俺はできればアンタと戦いたくないんだが・・・?」 小十郎は刀を肩で背負い、ルーテシアを見据える。 ルーテシアは小十郎の問いかけにも答えず、魔力の球を撃ち出す。 素早く刀を前に突き出して球を斬る。真っ二つに割れた球はかなり後方で爆発。 「こっちも困ったやつだ・・・。流石に斬るわけにはいかねぇけどな。」 そう言って刀を反す。にらみ合いが続く中で何かを思いついたように後ろにいるエリオに声をかけた。 「おい、そこの坊主。」 「は、はいっ!?」 「ちょいと手を貸してくれねぇか?作戦があってな・・。」 小十郎はエリオに背を向けたままできるだけ小声で話す。 「Hey!よーく耳を澄ませな、俺の心臓はここだぜぇ?」 自分の左胸を親指で指し、ガリューを挑発する。ガリューはそんな挑発に乗るほど短気ではない。 じっとしてたら政宗が接近、三本の刀で斬り上げる。 「!」 攻撃を防御するガリューだが政宗の攻撃は終わりじゃない。そのまま空中に上がり、もう片方の三本の刀を振り下ろしてくる。 「DETH FANG!!」 その攻撃も防御したが明らかに先ほどの斬り上げより重い。すこし手が痺れ、震えている。 自分も負けてはいられない。触手をまた政宗の腹に打ち込むと今度はそのまま接近。手首についた刃を突き出す。 ギリギリのところで避けたから兜の緒が切れ、兜が地面に落ちる。 「ヒュウ、やるねぇアンタ。」 「・・・・。」 また刀と刃のぶつかり合いへと変わるが、直ぐに両者は離れた。 政宗は片手に六本の刀を持ち、ガリューへと接近。六本の刀を横に凪ぐ。 「PHANTOM……」 「!!」 横凪ぎは今までの政宗の攻撃を遥かに凌ぐ重さ。ガリューの体が浮いた。政宗はジャンプし、ガリューへと迫る。 手には六本の刀。六つの斬撃が、ガリューの体に向けて振り下ろされた。 「DRIVE!!」 その四肢は宙を舞い、地に落ちる。刀を仕舞い、倒れているガリューへと言葉を送る。 それは一言だけだったが今の気持ちを伝えるには十分な言葉。 「楽しかったぜ。」 「……というわけだ。いけるか?坊主。」 「はい、やってみます。」 エリオは立ち上がり、ストラーダを再び構える。 小十郎はその隣に立ち、腰を落とす。ルーテシアは何もしないままだ。 静寂が場を支配する。何も動かず、聞こえるは風の音と自らの心臓の音。静寂は十秒、五十秒、一分。長く続く。 先に動き出したのは小十郎だった。一歩踏み込み、二歩目で地面を思い切り蹴る。 刀を前に突き出して蒼いオーラを纏いながらルーテシアに突進していく。 「穿月!」 穿月はルーテシアを捕らえることはなく、横を通り過ぎる。 「うおぉぉぉぉ!」 小十郎のあとに続きエリオがストラーダを構え、突進してきていた。ルーテシアは思わず飛び退くがエリオは止まる。 ルーテシアが飛び退いた先に小十郎がいた。刀を上に掲げ、肩と首を叩くと気絶。その場に倒れこんだ。 「今は静かに眠れ・・。」 刀を鞘へと納めると同時に政宗が近づく。どうやら終わったようだ。 エリオとキャロが近づき、少し戸惑いながらも二人の武将の前に立つ。フリードリヒもキャロの近くに降りてきて元の小さい竜へと戻り、 ヴォルテールの方も決着がつき、消える。白天王を含めた召喚虫はルーテシアが気を失ったと同時に消えてしまったみたいだ。 「あの、ありがとうござい・・・」 「おっと、礼はまだだ。オメェらにはまだ行かなきゃならねぇ所がある。だろ?」 言い切る前に政宗が喋る。言葉に対してエリオとキャロが頷くと政宗と小十郎は顔を見合わせて微笑。 フリードリヒの上にルーテシアを乗せ、四人はゆりかごへと走り出した。 戻る 目次へ 次へ
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1話 時を越えろ 空を駆けろ 第97管理外世界 地球 ゴルゴム神殿 今、仮面ライダーBLACK 南光太郎とゴルゴムとの決着が付こうとしていた。 「最後だ! 創世王!!」 BLACKが、サタンサーベルを創世王に向かって投合する。 投げられた剣は創世王のバリアを貫き創世王を串刺しにした。 「フグァッ・・・・、見事だブラックサンだがこれで終わったわけではない・・・・・」 「貴様をシャドームーンとともに異世界へ飛ばす!シャドームーンを倒し創世王になれば元の世界に戻ることも容易い・・・・」 「そうはさせんぞ! 創世王!!」 BLACKは阻止するため、ライダーキックを放つ。 「創世王を決める戦いは終わらん! さらばだ! ブラックサン!!」 BLACKの抵抗も虚しく創世王による移転は発動する。 「――ッ・・・創世王ォォォォォォオオ!!」 創世王が消滅するとともにゴルゴム神殿は崩壊する・・・・・ そして仮面ライダーBLACK、南光太郎とシャドームーン、秋月信彦はこの世界から消えた・・・・ ■■■ 「これは・・・ゴルゴムの仕業か?」 光太郎は空港の屋上で目覚めた。 だが、その空港は普通ではなく、火に包まれ地獄を連想されるものだった。 「おのれゴルゴム、罪の無い人々の幸せを引き裂くとは・・・・絶対に許さん!!」 t突如、光太郎の耳に助けを求める声が響く。 「――聞こえる・・・・助けを求める声が・・・・今もどこかで助けを求めている!」 少しでも早く、苦しんでいる人々を助けるために・・・・ 光太郎は精神を集中させ両拳を引き寄せ、強く握り締める。 「変―― 腰に拳をあて、左手を逆方向に伸ばし半円を描くように回転 ―――身! 掛け声と同時に両手を一気に右側へ振り切る! 瞬間、光とともにエネルギーが吹き荒れた! ―――その時、不思議なことが起こった――― キングストーンは瀕死の創世王の時空移転により傷つき キングストーンは光太郎の体から分離し、変身が不完全になってしまったのだ。 そして、その体はキングストーンの魔力によって構成される。 そして光太郎は,仮面ライダーBLACKに変身する、・・・はずだった 「この姿は・・・・BLACKの姿ではない・・・・」 その姿に仮面は無く、それはBLACKの格好を魔術師にしたようなものだった。 共通点といえばベルトと胸の世紀王のエンブレムぐらいだ。 姿は違うものの感覚は鋭くなり、体は軽い、熱も遮断したようでただの服ではないようだ。 「間に合ってくれ! トゥア!!」 どんな姿になろうが助けることができれば関係ない・・・・ 光太郎は救助に向かうため空港の屋根を拳で突き破り火の海に飛び込んでいった。 「だめだ!だめだ!こっちはだめだ!」 「この先にはまだ少女が・・・クソッ!」 数人の男たちが己の無力さを嘆く時、天井が崩れ瓦礫が崩れ轟音が響く。 黒いバリアジャケットを纏う青年、南光太郎だ。 その本人はバリアジャケットのことなど、知るよしもない。 「大丈夫ですか!?」 「管理局の魔術師か!こっちは大丈夫だ!それよりもこの先にまだ少女が取り残されているんだ!」 聞きなれない単語に光太郎は考える。 (管理局?魔術師?やはり僕は異世界に来てしまったのか?それにこの姿はいったい・・・・) 「頼むぞ・・・!」 「わかりました!」 光太郎は男の願いを聞き、火に突っ込んでいく。 「すごい・・・・火に飛び込んで・・・」 「・・・大丈夫そうだな、彼に任せてみよう。時期に彼女も来る」 女神像の傍で少女、スバル・ナカジマは泣いていた。 「こわいよう・・・・家に帰りたいよう」 火に取り残された少女は、泣いて、力なく助けを求めていた。 そんな少女に残酷にも、女神像の台座が砕け始めスバルに向けて崩れてきた。 「あ・・・・!」 時すでに遅し・・・・このままではスバルは女神像に押しつぶされてしまうだろう。 だが・・・! 「ライダーチョップ!!」 直径100mmの鉄棒を切断をも切断するライダーチョップが女神像を一刀両断していた。 切断された女神像は見事にスバルを押しつぶさず、その両脇へ倒れる。 「もう大丈夫だ・・・よかったな・・・ッ!」 光太郎は嬉しそうな表情でやさしく少女を両手で抱き上げた。 その時だった管理局魔術師、高町なのはが遅れて到着したのは・・・ 見たこともないBJを纏う光太郎になのはは声をかける。 「あなたは・・・・?」 突然の呼び声に光太郎は瞬時に振り向き叫ぶ。 「空を飛んでいる!貴様ゴルゴムかッ!?」 優しかった光太郎の表情は一瞬にして鬼の形相に変わる。 そのあまりの変化にスバルは小さく咽せてしまった。 南光太郎・・・人生最大の勘違いである。 「ゴ、ゴルゴ!?・・・ち、違います!私は時空管理局魔術師、高町なのはです!」 「管理局・・・!では貴方が!」 光太郎は先ほどの男たちから管理局や魔道士の言葉を聞き、なのはを味方と判断した。 「この子を頼みます!僕は次の救助へ向かいます!」 光太郎は勝手に一人合点したようで、なのはにスバルを預け、すさまじい跳躍で視界から消えていった。 あまりの速さになのは唖然とするばかりだった。 スバルの救助を終えたなのはは、さっきの青年を探しへいく。 そう思ったよりも時間はかからず青年は救急車の瓦礫に座り込んでいた。 沈んだ表情をしていて考え事をしているようだった。 なのはは青年へ近づき声をかける。 「救助お疲れ様」 青年ははっとした表情でこちらを向き、愛想よく微笑む。 「まだ名前聞いてなかったね、あなたは?」 「僕は南光太郎といいます。なのはさんでしたね?あの・・・管理局とは?」 「あなた・・・時空遭難者みたいだね」 「時空遭難者・・・そうだと思います」 「なら、管理局に来てくれないかな?もちろん悪いようにはしないし、いろいろ聞きたいこともあるから・・・・」 「わかりました・・・もう僕には行く場所はありませんから」 光太郎は考えていた。 (創世王が戦わせるために、この世界に送ったなら・・・信彦は・・・・信彦は生きている! 信彦、僕は諦めない・・・僕は運命を変えて見せる!) 異世界に来て戦友も、家族も、故郷までも失った光太郎にとって信彦は唯一の希望だった。 信彦を救う、そう決意すると光太郎はなのはについて行くのであった。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS 第2部 ―――1 第17無人世界にある惑星ホスは、鉄とニッケルから成る核の部分以外は総て氷で出来ている不毛の世界である。 表面は猛烈なブリザードが常に吹き荒れていて、例えしっかりした防寒装備を身にまとっていようとも、数時間も 経てば氷のオブジェと化してしまう。 広域次元犯罪者の刑務所がここに作られたのも、その苛酷な環境が脱走を防ぐのにうってつけだったからである。 収容されているのはジェイル・スカリエッティ以下JS事件の主犯全員で、惑星の核の中に作られた監房区画に 隔離されている。 外部との接点は、表面にある居住・運営区画からエレベーターを通じて毎日決まった時間に送られる食事のみであり、 侵入・脱獄共にほぼ不可能という点において、まさに理想的な重罪犯の刑務所と言えた。 猛烈な風と共に横殴りに吹き付ける雪で日中も薄暗い空を切り裂いて、隕石が一つ落ちてきた。 激突時の物凄い爆発音はブリザードの轟音に掻き消され、立ち上った煙も雪と風によってたちまちの内に吹き散らされる。 雪が積もり始めたクレーターの底では、隕石が例のゴガガギギという音と共に変形を始めた。 第97管理外世界ではジャガーまたはピューマと呼ばれる、獰猛な猫科の大型捕食生物へと姿を変える。 違いは全身金属製である事と、一つ目で腰の上に機関銃付きのミサイルランチャーが付いている事だ。 “デストロン軍団諜報破壊兵ジャガー”は、身体を揺すってこびりついた氷を払い落とすと、強力な肢を振るって一気に クレーターを駆け上がって行った。 “ピッ” 警告音と共にオペレーターの眼前にある空間モニターに、“隕石が衝突”というデータが表示された。 近くに小惑星帯があるホスでは、隕石の落下は日常茶飯事で気にする者など誰もいない。 この時も、焦点の見当たらない眼に骸骨そのもののような顔立ちをしたオペレーターが、うんざりした様に 首を横に振っただけだった。 「おかしいな…」 オペレーターはそう呟きながら表示を消すと、天井を仰ぎながら背伸びをする。 「近くの基地と連絡はまだ付かないか?」 ライオンの頭に四枚の鳥の翼を背に生えている士官からの問い掛けに、オペレーターは姿勢を正してから 振り向いて答える。 「はい。更に付け加えるなら、軍用通信はおろか民間用のネットワークも使用不能になっております」 「確かにおかしいな…」 士官もそう呟くと、腕を組んで考え込む。 「警戒レベルを引き上げますか?」 オペレーターの言葉に、士官は渡りに船とばかりに頷いて言う。 「うむ、そうだな。 所長とちょっと話し合ってみよう」 普通の生物なら足を取られる深い雪の中を、滑って転びそうな氷河の上を、ジャガーは強力な肢と岩をも砕く鋭い爪 でもって難無く駆け抜ける。 障害物はミサイルポッドの上にあるレーダーで探知するので、行く手を妨げるものは何もない。 やがてジャガーの眼前に、ブリザードを除ける為に深く丸く掘り下げられた窪地が見えてきた。 窪地の縁に立つと、ジャガーはゆっくりと縁を廻りながら、光学・赤外線・紫外線などの映像やレーダーで下の状況を 詳しく調べ上げる。 窪地の中心には、イヌイットのイグルーと同じドーム型の造りをした刑務所への入口がある。 その周囲には重さを検知できる感圧センサーがびっしりと張り巡らされ、更には建物の頂上部分にはレーダーが設置 されていて気付かれずに侵入する事は不可能となっている。 ジャガーの口から、小さな昆虫型ロボットが一匹出て来た。 それは“インセクトロン”と呼ばれる、諜報と偵察を主任務とする超小型トランスフォーマーである。 あまりに小さいくてレーダーにまったく映らないこのメカイノイドは、悠々と空を飛んでレーダーサイトの基部に取り付く。 インセクトロンは基部の上を動き回ってレーダーの制御基盤と繋がっているケーブルを見つけると、そこに口吻を突き 刺してレーダーの中枢システムと直結する。 “案内人”から得たデータを基にシステムを解析すると、インセクトロンは偽のレーダー情報を流し始めた。 レーダーが無効化された旨を伝えられたジャガーは、縁から少し下がって距離を取ると、助走を付けて建物の屋根まで 一気にジャンプした。 レーダーサイトの隣にある通気孔のカバーとフィルターを前肢で破壊すると、口を大きく開いて屈み込む。 すると口の中から大量のインセクトロンが湧き出し、滝の如くダクトの中へと流れ込んで行く。 インセクトロンの大群は床に落ちる前に羽根を広げて飛び立ち、音を立てる事なくダクト内を探索する。 分岐に差し掛かれば二手に分かれ、通風口があれば二~三匹が降り立って外の様子を偵察する。 この数にものを言わせた人海戦術(?)で、たちまちのうちに刑務所内部の構造――職員の居住区画、指揮統制を行う 中央管制室、監房区画へ通じるエレベーターといった重要施設の場所――が白日の下に曝される。 ジャガーの口の中から、今度は十数体の掌サイズの小型ロボットたちが飛び出し、通気孔へと飛び込む。 彼等は“リアルギア”という名の、破壊活動や暗殺などの潜入工作を主任務とする特殊部隊であった。 リアルギア達はダクト内へ降りると、二体はエレベーターの方へ、残りは中央管制室へと二手に分かれて向かった。 刑務所内は一切の装飾が排除された実用性一点張りの造りで、勤務する人間にとっては非常に退屈な場所 である。 「くそっ。トンタークの軌道ステーションで酒と女が待ってるってのに突然警戒レベルを引き上げやがって…。 上は何考えてやがんだ?」 偃月刀型のデバイスを持った、彫りの深い顔立ちのアラビア系と思しき魔導師が、休暇を邪魔されたグチを デバイスにこぼしながら、殺風景な廊下を巡回していた。。 「私に言われても困ります」 デバイスの方はそんな様子の主に対して冷静に答えを返して来る。 「そんなこと言うなよ、お前と俺の仲じゃないか~」 「いつから私たちはその様な関係に? マスターは変態ですか? それよりとっとと任務に戻ってください」 泣き落しを受け流された上にどん底に叩き落とされた魔導師は、肩をがっくりと落としながら角を曲がって姿を消す。 それと同時に、天井の通風口からインセクトロンが湯船から溢れ出すお湯の如く、大量に湧き出始めた。 インセクトロン達は天井全体へ絨毯のように拡がると、軍隊蟻を彷彿とさせる動きで、いくつかの場所に集まって 団子を形成する。 団子は次第に大きくなり、それぞれが合体を始めて一つの大きな物体を形成する。 やがて物体は複数の鎌を持つ、一つ目のカマキリのような化け物へと姿を変えた。 “リードマン”という名前を持つそれは、光学迷彩を展開して周囲の景色に溶け込む。 しばらくして別の魔導師が二名巡回にやってきたが、天井で息を潜めるリードマンにまったく気付かなかった。 目次へ 次へ
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此処はミッドチルダに点在する隊舎内、其処にナンバーズの一人であるセインが存在していた。 彼女はこの隊舎を破壊する為に赴いており、部屋の隅や柱、壁などに時限式の爆弾を仕掛け、 最後の爆弾を設置する為にディープダイバーを用いて隣の部屋へと侵入する。 「これで…さ~いご!」 セインは最後の爆弾を仕掛け終えその場から立ち去ろうとした瞬間、後ろから制止を促す声が聞こえ、 振り向くと其処には教会騎士団のシャッハが身構えていた。 リリカルプロファイル 第三十四話 約束 「魔導師!?いや騎士か!」 「大人しく縛につきなさい!」 しかしシャッハの制止を無視して逃げようとしたところ、シャッハはヴィンデルシャフトを起動、 攻撃を仕掛けセインを壁まで追い詰めると、再度警告を促す。 「ここまでよ、大人しくしなさい」 「それは、どうかな~?」 次の瞬間、セインはディープダイバーを起動させて壁をすり抜ける、 それを見たシャッハは驚く表情を浮かべるが、直ぐに真剣な面持ちとなり、 全身を魔力で覆うと、セインと同様に壁をすり抜けた。 一方壁をすり抜け隣の部屋に逃げ込んだセインはそのまま立ち去ろうとしたが、 後方から先程まで対峙していた人物の声が聞こえ、 驚きの表情を浮かべたまま振り向くと、壁からシャッハが姿を現していた。 「私と同じ能力?!」 「さあ!観念しなさい!!」 そう言うとシャッハのヴィンデルシャフトのカートリッジを一発消費、刀身を魔力で覆いセインに襲い掛かる。 だがセインは体に対消滅バリアを張り、左手でシャッハの攻撃を受け止めると、 続けて右手を握り締め拳を作りシャッハの頭部を狙う、だがシャッハは上半身を仰け反るようにして攻撃を回避した。 しかしセインは続け様に左のジャブを三発、右のフック、左のハイキックを繰り出すが、 そのこと如くが回避されてしまい、苦虫を噛む表情を浮かべるセイン。 一方でシャッハはセインの攻撃力に対し一般的な魔導師や騎士では一撃でやられてしまうだろうと高評価をしていた。 だが動きは荒削りで付け焼き刃的な印象を感じ、シャッハの相手としては些か物足りない相手であった。 そしてこの程度の相手にこれ以上時間をかける訳にはいかないと考えたシャッハは、 カートリッジを二発消費、二本の刀身に先程以上の魔力を乗せると、床を踏み抜く。 「烈風一迅!!」 そして素早くすり抜けるようにしてセインを切り抜け、セインはなす統べなく前のめりに倒れていく、 しかしシャッハの攻撃は非殺傷設定を設けてある為に命に別状無く、 素早くバインドを掛けると仲間と連絡を取り、セインを引き渡すのであった。 一方此処はゆりかご内に存在するスカリエッティのラボ、周囲には生体ポットに保存された検体が並ぶ中、 メガーヌが入った生体ポットの前には、瞳を閉じ肩にアギトを乗せて佇むゼストを発見したアリューゼ。 するとアリューゼの存在に気が付いたのか、ゼストはゆっくりと瞳を開け、アリューゼを見つめていると、 アリューゼはゆっくりと、まるで言葉を選ぶかのように話し始める。 「ゼスト…隊長」 「………かつての部下か?」 「まさか“覚えて”んのか?」 「いや…“聞いた”だけだ」 自分には昔部下がいたという事を聞いた事があるだけであると応え、 アリューゼは静かに佇み暫くすると、ズボンから一つの結晶体を取り出す。 「それは?」 「今のアンタに“必要”なモノだ」 これを届ける為に此処まで来たと告げると、ご苦労な事だと言いながら笑みを浮かべるゼスト。 するとゼストの肩に乗っかっているアギトが信用出来ないと騒ぎ立てるが、ゼストは小さく頭を横に振り、 アギトを黙らせ、そしてアリューゼが手に持つ結晶体に目を向け、何か引かれるものを感じ受け取ると、 ゼストの額から赤い呪印が姿を現し手に取った結晶体が浮き始め、 目の前でまるで解凍されるかのようにして光り輝く球体となり、ゼストに吸い込まれ赤い呪印が消える。 そして暫く辺りは静寂が包み込むと、ゼストはゆっくりと言葉を口にし始めた。 「……久し振りだな、アリューゼ」 「隊長!記憶を!!」 アリューゼの問い掛けに頷き静かに答えアギトは目を丸くする中、ゼストはアギトに目を向け微笑む。 それはつまり昔のゼストの記憶と今のゼストの記憶、両方を持っている事を意味し、 人が変わった訳では無いと知ったアギトは嬉しそうにゼストの周りの飛び回り、 アリューゼもまた嬉しそうな表情を見せるが、直ぐに一変する。 何故ならばゼストの左肩がまるで爆発でもしたかのように飛び散り、血が滴れ落ちたのだ。 「やはり…もう限界か……」 「どういう事だよ!隊長!!」 元々ゼストの肉体はレザードによって損傷していた、だがそれをスカリエッティの手によって修復された。 だがそれだけではなくレリックとリンカーコアの強制接続により肉体を強化させたのだが、 その代償に肉体の劣化が早く進行する事になり、更に今回の戦いにより肉体の劣化は限界に達し、 いよいよ肉体の崩壊が始まったのだと、左肩を押さえながらゼストは語る。 「クソッ!そんなのアリなのかよ!!」 「……アリューゼ、構えろ」 アリューゼが悔しがる表情を見せている中、ゼストはデバイスを起動させると徐に構え始める。 ゼストの肉体は死を待つだけの状態である、ならばと最後にアリューゼとの模擬戦を望んでいた。 だがそれだけではない、たとえ本人の意思では無いとしても今回の事件に加担した、 その罪は償わなければならない、故にゼストはアリューゼと対峙する事にしたのだ。 するとゼストの意志を汲んだアリューゼはデバイスを起動、バハムートティアを肩に構え大きく間を取り始める。 そして静かに構えている中でアギトは立会人として二人の間に立ち、ジッと身構えていた。 暫く静寂が包み込み、二人は集中力を高め呼吸を合わせ始める、 そしてお互いの呼吸が合わさった瞬間、カートリッジを一発ロード、 ゼストが飛び出すようにアリューゼに迫り槍を振り上げる中、アリューゼはゼストに背を向けるほどまでに振りかぶっていた。 『うおおおおおおお!!!』 互いの気合いがこもった叫び声が重なり合いゼストは槍を振り下ろし、アリューゼもまた叩き斬るようにして振り下ろした。 そして互いの位置が反転すると、アリューゼの左肩から血が吹き出す、 一方ゼストは槍を二つに断ち切られ胸元に深い傷を与えていた。 デッドエンド、相手に背を向ける程までに振りかぶり一気に振り抜く、 アリューゼが扱う技の中で最も扱いが難しく、また最も威力のある技である。 「旦那ぁ!!」 立会人であるアギトがいても立ってもいられず駆け寄ろうとしたが、 ゼストは左手を向けて制止を促すと、振り向き右拳を握り殴りかかる。 するとアリューゼはバハムートティアを肩に構えながら振り向きカートリッジを二発消費、 刀身は熱せられたかのように真っ赤に染まると刀身をゼストに向けて突撃、 ゼストの身を貫くと大きく振り上げ、ゼストは爆炎に飲み込まれた。 そして辺りはファイナリティブラストによって燃え盛っていた炎が落ち着きを見せていく中、炎の中央では体に火が付いたゼストが佇み、 アリューゼに小声で「強くなったな…」と述べると、ゼストの姿を発見したアギトは泣きじゃくりながら駆け寄る。 「旦那!今炎を――」 「いや、このままでいい……」 既に肉体は死に絶え後は醜く崩壊を待つのみ、それを知ったアリューゼは、 ゼストに対しせめての手向けとして火葬を行ってくれたのだと、 アリューゼの計らいに感謝する気持ちで応え、右の人差し指でアギトの涙を拭き取る。 「だから泣くな、それに…お前が望む使い手に出会えたのだ」 「旦那……」 アギトの能力である炎変換資質はアリューゼの技と相性も良いし彼なら良く扱ってくれるであろうと語り、 ゼストの言葉に口を紡ぎながら涙をまた浮かべ、ゼストは小さく笑みを浮かべると、今度はアリューゼに目を向け言葉を口にする。 「アリューゼ…メガーヌを頼んだぞ!!」 ゼストの最後の言葉にアリューゼは小さく頷くと、安心したのか微笑みを浮かべ、 炎が顔まで覆い全身を包み隠すと、まるで消えるようにしてゼストは燃え尽きていった。 …そしてアギトは大声で泣きじゃくり辺りに響いていく中、 アリューゼはアギトに目を向け静かに…問い掛けるかの様に言葉を口に始める。 「…お前はどうする気だ?」 「…ヒック…旦那の…最…後の望み…なんだ……だから!!」 「…そうか」 アギトは右腕で涙を拭い決意ある瞳で答えると、アリューゼはメガーヌの入った生体ポットを見上げる、 …生体ポットの中にいるメガーヌは心無しか悲しそうな表情を浮かべているように思えた。 場所は変わり此処は聖王教会付近に存在する森の上空、 其処ではなのはとヴィヴィオが熾烈な争いを繰り広げられていた。 なのはは既にブラスター1を起動させており、ヴィヴィオもまたレリックの一つを起動させている状況であった。 その中でヴィヴィオは先ず五発の虹色のディバインシューターを作り出し、 なのはに向けて螺旋を描く軌道で撃ち抜くが、なのはは縫うようにして回避、 更に体を右回転させながらアクセルシューターを五発ヴィヴィオに向けて撃ち抜く。 しかしヴィヴィオは臆する事無くアクセルシューターを身に覆った虹色の膜で次々に弾いていきなのはに押し迫る、 聖王の鎧、古代ベルカの王が持つ遺伝子レベルに所有する防衛能力で、攻撃・防御共に高い効果を持つ資質である。 そしてヴィヴィオは左手を握り締め拳を作ると真っ直ぐなのは目掛けて振り下ろす、 だが、なのははアクセルフィンを全開にして後方へ移動、ヴィヴィオの攻撃を回避した。 だがヴィヴィオは右手をなのはに向けると手には虹色の魔力球が握られており、加速しているように見えた、 そして右手に二つの環状の魔法陣と足下に円状の魔法陣を張ると――― 「ディバイン…バスタァ!!」 ヴィヴィオは虹色のディバインバスターを撃ち放ち、なのはに迫る中すぐさまレイジングハートを向けてショートバスターを撃ち抜く、 だが威力が違う為見る見るうちに圧されていくがカートリッジを一発ロード、 威力を高めディバインバスターと変わらぬ威力にてヴィヴィオのディバインバスターを相殺して終わる。 先程放たれたディバインシューターに今のディバインバスター、 本来ベルカの人間は接近に特化した者が多く、射撃系は牽制程度が殆どなのであるが、 ヴィヴィオの放った魔法は十分な威力を誇っていた。 恐らくヴィヴィオは資質として魔力の射出・放出を持っているのであろう、 だがそれだけでは無くベルカ本来の接近にも十分順応しているとみるなのは。 そしてヴィヴィオの能力の分析終えたなのはは本来の目的である説得を促す。 「ヴィヴィオ聞いて!ベルカは対話による道を選んだ!もう争う事なんて無いんだよ!!」 「戦わぬベルカなどベルカではない!そしてあんなものを融和と呼べるものか!!」 元々ベルカは戦い勝ち取る事で強く、また大きくなっていった、言うなればそれが矜持、 それを忘れてただ相手の望むまま思うがままの行動をとるなどと融和とは呼べない、 そんなものはただの植民地支配に過ぎないと力強く答える。 「それもこれも今のベルカには王がいないからだ!だからこの私が生まれたのだ!!」 そして生まれたからには自分の使命を逐わなければならない、 ヴィヴィオの使命、それは即ちベルカの威光を復活させる事、その為ならば自らを兵器になる事すら厭わない、 そう語るとヴィヴィオは右拳を握り締めなのはに殴りかかるが、 なのははプロテクションを張り防ぐと、続け様に何度も叩き付け始め今度はなのはが言葉を口にする。 「違う!ベルカは敗戦後自分達の考えを改めた!その結果が今のベルカなんだよ!!」 誰かに強要されたわけでも無く、ましてやミッドチルダに支配されていた訳でもない、 敗戦後生き残ったベルカの人々が自ら考え選んだ道であり、ミッドの人々もそれを受け入れた、 その結果、強力な指導者が必要としなくなり、聖王もまた、 宗教的な意味合いとなったのだろうと応えると、ヴィヴィオは震えるようにして言葉を口に出す。 「ならば…私は何の為に生まれてきたのだ!!」 そして両拳に雷を纏わせ合わせると地上に向けて一気に振り下ろし、 なのはのプロテクションを破壊、一気に地上に叩きつけた。 プラズマアームと呼ばれるバリア破壊効果を持つ雷を拳に纏わせて攻撃する近接魔法である。 だがなのはがゆっくりと立ち上がり森の中に身を隠すとカートリッジを二発消費、ヴィヴィオ目掛けて次々とアクセルシューターを撃ち抜く。 一方ヴィヴィオの目線では、なのはの姿が見受けられず森の中から続々とアクセルシューターが襲いかかり、 聖王の鎧にて攻撃を防いでいく中、左手に巨大な魔力球を作り出し、森の中へと投げ込む、 そして魔力球が森の木々に触れた瞬間、一気に拡散し無数の虹色の魔力弾が辺りの木々を次々に薙ぎ倒していった。 セイクリッドクラスター、対象に接触もしくは目前で爆散し、小型の魔力弾を広範囲に渡ってばらまく圧縮魔力弾である、 しかもヴィヴィオの魔力と資質によって小型の魔力弾も相当な威力を誇っているのである。 「…いないか」 セイクリッドクラスターが撃ち込まれた場所は木々が薙倒れ大きく円を描いており、 今度は他の場所に左手を向けてセイクリッドクラスターを次々に撃ち込んでいく、 その頃なのはは森の中で木々が倒されていく事に警戒し、 上空を見上げるとヴィヴィオの周りにセイクリッドクラスターが五発用意されている事に気が付く。 「ならば!この森ごと葬ってくれる!!」 次の瞬間五発のセイクリッドクラスターはある程度の距離を置いて撃ち放たれ、 森の目前で次々に爆散、無数の魔力弾が驟雨の如く迫ってきていた。 それを目撃したなのははオーバルプロテクションを張り攻撃に備えると、 無数の魔力弾は次々に木々を薙ぎ倒し、辺りは見通しがよい風景へと変貌する。 ヴィヴィオはその風景を目を凝らして見つめなのはの姿を探していると、 倒れいる木々の中から桜色の防御壁に守られたなのはが上空へと向かっていくのを発見、 するとヴィヴィオはソニックムーブを用いて押し迫ると左のプラズマアームで防御壁を破壊し、 更に右手をなのはに向け拳から直射砲を撃ち抜く、 インパクトキャノン、近接戦闘における砲撃で、射撃系魔導師にとって重宝する魔法である。 そしてインパクトキャノンを撃ち抜いたヴィヴィオはその先を見つめると、 其処にはなのはが矛先を向けており、その姿にヴィヴィオは警戒していると、 なのははブラスター2を起動、更にA.C.Sドライバーを発動させて一気に加速、 ヴィヴィオに突撃するがヴィヴィオの聖王の鎧が自動的に発動、なのはの攻撃を受け止める。 だがなのはは臆する事無く突撃を続け、先端部分から魔力素が火花のように散り聖王の鎧にひびが入ると、 すかさずカートリッジを三発消費、すると先端部分の魔力刃が強く輝き出す。 「エクセリオン!バスタァァァ!!」 なのはの叫びと共にエクセリオンバスターは撃ち放たれヴィヴィオは飲み込まれていき、 撃ち放った先を見つめると、エクセリオンバスターを耐え抜いたヴィヴィオの姿があり、 その足下にはミッド式の魔法陣が張り巡らせ、右手をなのはに向けると、虹色の魔力が流星のように集い始める。 「まさか!それは収束砲!!」 「自分の技をその身に受けるが良い!スターライトブレイカァァァ!!」 そう叫ぶと虹色のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、なのははラウンドシールドを張り攻撃に備えた。 だがスターライトブレイカーの威力は、なのはの想像よりも高く、 徐々に圧されていきラウンドシールドにひびが入り砕けると、そのまま飲み込まれていった。 そして暫く辺りを静寂が包み込む中、撃ち抜かれた後にはなのはの姿が現れる。 収束砲の使用は流石になのはも驚きの表情を隠せないでいた、 何故ならヴィヴィオが使用した収束砲はなのはのそれと全く同じ技術を用いられていたからである。 おそらくはホテル・アグスタ戦並びに地上本部戦の際に使用したなのはの収束砲を、 レザードもしくはスカリエッティが解析し、その後ヴィヴィオにもたらしたのだと思える。 …それは奇しくもなのはの技術がヴィヴィオに母から子へと引き継がれた事を意味していた。 そして収束砲を受けたなのはは、まるで疲れ切った表情を浮かべていると不敵な笑みを浮かべるヴィヴィオ。 「少し…オイタが過ぎるんじゃないかな?ヴィヴィオ」 「……この期に及んで、まだ母親面をするつもりか!」 自分とは血が繋がってはおらず、既に親子関係すら絶たれている、その事をいい加減理解しろ! …とヴィヴィオは睨みつけながら語るが、なのはは大きく首を振り強く否定する。 なのはと兄恭也そして姉美由希とは血が繋がってはいない、 だがそれでも家族として暮らしていた、血の繋がりが重要なのではない。 一緒に笑い合い泣き合い、時には叱られたり喧嘩したり、 心を許せる存在、それが家族であり仲間であると力強く言葉を口にする。 「ヴィヴィオ!本当の望みはいったい何なの!!」 「わっ私の望みはベルカの復興―――」 「違う!聖王としてじゃなくヴィヴィオ“本人”の望みだよ!!」 聖王とはあくまで役目・役職、個人を指し示すものでは無い、 故にヴィヴィオの本当の望みは違うと考えていたなのはは強く問い掛ける、 するとヴィヴィオの中で何かが砕け散った音が響き、俯き暫く静寂に包まれると、静かに言葉を口にする。 「私の本当の望みは………な――」 ヴィヴィオが自分の想いを告げようとした瞬間、両手で頭を押さえ苦しむ表情を見せると、 体から大量の虹色の魔力が放出、その勢いと輝きになのはは右手で光を遮りながら目を凝らしていると、 額に赤い呪印が浮かび上がり胸元からレリックが二つ現れ、レリックには赤い五亡星の陣が刻まれていた。 ヴィヴィオのリンカーコアには王の印であるレリックを二つ繋がれていたのである。 するとレリックはヴィヴィオの両手袋に備え付けてある結晶体に取り込まれ、 結晶体に五亡星が浮かび上がると両腕から虹色の魔力が放出し体を纏うと、 瞳から光が消え険しい表情のままヴィヴィオはなのはを睨みつけていた。 なのははその変貌に戸惑っていると、ヴィヴィオはソニックムーブを発動、 一瞬にしてなのはの懐に入ると左拳が鳩尾に突き刺さり、引き抜くと同時に左に一回転、 左の肘が脇腹を突き刺し、よろめきながらなのはが一歩下がると右のアッパーがなのはの顎に突き刺さる。 そして上空に跳ねられると左拳を胸に叩きつけそのまま縦に一回転すると同じ場所に右の踵落としを叩き込み、 なのはは勢い良く地上に激突、その衝撃は木々をへし折り地面に大きなクレーターを作り出した。 だがなのはは立ち上がりクレーターの中央でA.C.Sドライバーを起動、一気に加速して突撃するが、 ヴィヴィオは左手に虹色の魔力を纏い、なのはの魔力刃が聖王の鎧に接触する瞬間を見計らって弾くと、 そのままの勢いを利用して左回転からの右の肘打ちを叩き込もうとしたが、 全方向性のオーバルプロテクションを張っていたようで攻撃を防がれる。 ところがヴィヴィオは左の魔力を雷に変えプラズマアームを発動させると、躊躇無く振り抜きバリアを破壊、拳が背中に突き刺さる。 だが攻撃はまだ終わらず右拳からインパクトキャノンを撃ち出し、飲み込まれながら吹き飛ばされるが、 なのははブラスター3を起動、それによって生み出された魔力を使ってインパクトキャノンをかき消した。 「……ヴィヴィオ」 今までのヴィヴィオとは全く異なる、まるで機械のような無慈悲で正確な動き、 それは表情を一切変えない事でまるで兵器を相手にしている印象を強く感じ、 なのはは戸惑う様子を見せるが、已然としてヴィヴィオは険しい表情のままなのはを睨みつけていた。 するとヴィヴィオの瞳から一筋の涙が流れ落ちる、その涙はまるでヴィヴィオの抵抗にも見えていた。 ヴィヴィオは助けを求めている、そう感じたなのはは決意を秘めた瞳で応える。 「助けるよ……何時だって…どんな時だって!!」 そしてなのははカートリッジを全て消費、レイジングハートをヴィヴィオに向け更に囲うように四基のブラスタービットを設置して魔法陣を張ると、 ヴィヴィオもまた両手で四カ所かざし魔法陣を張り、最後に真っ正面に大きな魔法陣を張ると両手を水平に構える。 すると両者の魔法陣に魔力素が流星のように集まり出し、五つの収束砲を作り出すと、なのははレイジングハートを振り上げた。 「全力!全開!!スターライト…ブレイカァァァァ!!!」 なのはの叫びと共にレイジングハートを振り下ろし、ヴィヴィオは両手を合わせて向けると両者のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、 辺りを桜色と虹色の魔力光で照らし、魔力素が火花のように散りながら収束砲はぶつかり合っていた。 その中で足を踏ん張り堪えている両者、その衝撃はまるで台風をその身で浴びるように強力で必死な形相で耐え抜いた。 両者のスターライトブレイカーの威力は互角な状態、膠着状態が暫く続き、なのはの額には汗が浮かび上がり、 それでも尚、ヴィヴィオを助ける為に撃ち続けていた。 今度こそ助ける、あの時…地上本部の時に約束した事を今こそ果たす為に… だが徐々になのはのスターライトブレイカーが押され始める、 今のヴィヴィオには自分の意志とは関係無く、両手に繋がれているレリックのエネルギーを、 直接引き出し魔力に変えて撃ち抜いているのである。 それを可能にしているのが額に浮かび上がった呪印で、ルーンの一つでありヴィヴィオの変貌もまたこの呪印が原因なのであるのだが、 不死者などに刻まれているルーンとは異なりある行動をとると、それをきっかけにルーンは発動、 対象の行動を支配・制御し、また思考を停止させて敵対象を殲滅する為の兵器へと変貌させる呪印なのである。 この呪印を施したのは勿論レザード、彼はもしも洗脳が解けた場合に備えて保険として施したのである。 つまりこの呪印とレリックを破壊すればヴィヴィオは元通りなるという事でもあった。 だが兵器と化したヴィヴィオはなのはですら押されてしまう程の実力を持ち、 スターライトブレイカーも徐々にだが、確実になのはが押され始めていた。 「くぅ!……後もう少し…もう少しで助けられるのに!!」 カートリッジは既に消費済み、懐には予備のカートリッジが存在しているが今から交換する事も出来ない… というより余裕が無いのだ、それ程までになのはは切羽詰まっていたのである。 たがなのははこの状況にも関わらず希望を捨ててはおらず、不屈の心は折れてはいなかった、 するとなのはの腰に備え付けてあるミリオンテラーがなのはの意志に呼応するように輝き出し、 白銀の魔力がなのはの体を包み込むと、今まであった負担が一気に軽くなりリンカーコアも活性しているのを感じていた。 「これは!?助けてくれるの?」 突然の助太刀に驚くも感謝を浮かべ、力強く正面を向く、 今の状態ならイケる…そう確信したなのはは力強く叫んだ。 「ブレイクゥゥ…シュウゥゥゥゥゥトッ!!!」 次の瞬間、体を纏っていた白銀の魔力がスターライトブレイカーに混ざり合い螺旋の模様を描きながら、 ヴィヴィオのスターライトブレイカーに激突、見る見るうちに押し返していき、とうとう撃ち破った。 そしてヴィヴィオの体は飲み込まれていくと、額の呪印がまるで風化するようにして消滅、 すると両手に取り込まれていたレリックが現れ、ひびが入ると砕け爆発した。 そして撃ち終えたなのはは肩で息をしながら目先に向けると、 其処には少女の姿に戻ったヴィヴィオがおり、体には聖王の鎧が纏っていた。 どうやらレリックの爆発に反応して発動したらしく、ヴィヴィオの体は奇跡的に無事なようである。 するとヴィヴィオの体に纏っていた聖王の鎧がゆっくりと消えていき落下し始めた。 「ヴィヴィオ!!」 なのははすぐさまヴィヴィオの元へ駆け寄り、ヴィヴィオの体を抱き抱え地上に降りると、 その温もりに気が付いたのかヴィヴィオは意識を取り戻す。 「……なのはママ」 「…ヴィヴィオ!無事だったんだね!」 なのははヴィヴィオの無事な姿に力強く抱き締め大粒の涙を零す、 するとヴィヴィオは今までの恐怖から解放された為か、 それともなのはに抱かれ安心したのか大粒の涙を零しながら、なのはに抱きつく。 「…ごめ…んな゛…さい……な゛の゛は…マ゛マ」 「もう…大丈夫だから……もう…安心していいんだよヴィヴィオ…」 ヴィヴィオは泣きじゃくりながら何度も謝り、そんなヴィヴィオの姿を優しく抱き締め受け止めるなのはであった…… 前へ 目次へ 次へ
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第三話「混戦」 12月2日 1955時 海鳴市 市街地 時間は、なのはとヴィータが衝突する少し前に戻る。 宗介はゴーストタウンと化した市街地を混乱しながら走っていた。 (一体何が起こっている?) つい先ほど前まで辺りは人で賑わっていた。だが今はどうだ? 自分がよく知った中東の廃墟のように辺りは、がらんとしている。 さらに分からないのは護衛対象が空を飛んでいたことである。 (俺は夢でも見ているのか?) が、すでに自分の頬を三度もつねった。 これは夢ではない、現実だ。 仕方なく自分を信じて対象が飛び去った方向に走ってゆく。 「ケット・シー、聞こえるか?応答せよ」 別の場所からヴァーチャーを監視・尾行していた情報部員に通信を入れても応答はない。 通信機は先ほどから空しいノイズを垂れ流すだけだ。 (通信機の故障、いやジャミングされている?) 様々な可能性を考えているうちに、オフィス街に差し掛かった。 完全に対象を見失ったか? そう思っていると突如ビルの外壁が崩れ、巨人が現れた。 あれは・・・ 同日 2004時 海鳴市 オフィス街 敵に止めの一撃を刺そうと、アイゼンを振り下ろすヴィータはビルを揺らす衝撃にバランスを崩した。 「な、何だ!?」 突如背後の外壁が吹き飛び、巨大な手が出現する。完璧な奇襲をくらったヴィータは回避する間もなく その手に捕まってしまい遠くに投げ飛ばされる。そうして、初めて自分に起こったことに気付く。 ビルの三階ほどある高さの巨人が背後にいきなり現れたのだ。 マッシブなシルエットに灰色の装甲、頭部から伸びるポニーテールが異彩を放ち、禍々しい印象を与えていた。 腰に2本の大型ナイフが保持されている。 「何だ、こいつ?管理局の傀儡兵か?」 傀儡兵はゆっくりこちらを向き、大型ナイフ―――ヴィータは知らないがGRAW-3という 名称の30ミリ機関砲つきの単分子を構え、発砲。 ヴィータはすんでの所で回避に成功する。 いきなり警告なしの攻撃は管理局らしくない。そもそも質量兵器を使ってること自体あいつららしくない が、そんなことを考えているうちに敵の傀儡兵は砲弾をばら撒いてきた。 「く、一体なんだって言うんだよ!」 ビルの中で苦痛に喘いでいるなのは。リアクティブ・パージのおかげでダメージが 最小限になったとはいえ、背後の壁に衝突した痛みは小学三年生には耐え難いものだった。 なんとか立ち上がろうとしたところで天井の一部が崩れなのはの上に落ちてくる。 傷ついた体で避けることもできず、反射的に目をきつく瞑る。 ? だが、いつまで経っても来るはずの衝撃は来ない。 ゆっくりと目を明けると破片は緑と金色の波紋状の膜によって受け止められていた。 「ゴメン、なのは遅くなった。」 バリアを展開しながら女顔の少年ユーノは、なのはの肩に手を乗せた。 「ここまで来るのに手間取って」 黒い外套、金髪のツインテールの少女フェイト・テスタロッサは申し訳なさそうに言い バリアの角度を変え、少し離れた場所に建材を落とす。 「急になのはが住んでる地区に大規模な結界魔法が発生して急行したんだけど 結構離れた場所にいたから遅くなった。ゴメン。」 「ううん。来てくれて嬉しいよ。フェイトちゃん、ユーノ君」 「取り合えず、ここを出よう。また崩落が起きたら厄介だ。」 ユーノは、なのはを担ぎフェイトと共にビルから出る。 (フェイト、フェイト。あの傀儡兵、なのはを襲った奴に攻撃してるよ) 念話を使って、フェイトの使い魔であるアルフがここから少し離れた場所で起きている戦闘を伝えてくる。 傀儡兵は持っている銃剣を襲撃犯に発砲しており、そのせいで襲撃犯はなかなか攻撃のチャンスに移れていない。 脱出するなら今がチャンスだ。 「ユーノ、この結界から今すぐ転移魔法を使って脱出できる?」 「ちょっと待って・・・・・・駄目だ。出る分は、また別の転送魔法を編まなきゃいけないみたいだ。」 「どれくらい掛かりそう?」 「アースラのバックアップが無いから何とも言えないけど、20分以上かかるよ。 邪魔が入らなければの話だけど。」 「分かった。それまで私とアルフでなのはとユーノを守る。」 宗介は、それを見るとすぐ様物陰に隠れた。 (なぜヴェノムがここにいる?) そんなことを考えていたが、すぐさまマオに通信を入れる。 「ウルズ2、マオ聞こえるか?こちらウルズ7、応答せよウルズ2」 最初はノイズが走り、またも無反応に思われたが今度は繋がった。 『こちらウルズ2、どうしたウルズ7』 「市街地中心から少し離れたオフィス街でヴェノムが出現した。 俺の装備では歯が立たない。こっちに来てくれ。」 『何言ってるの?・・・・いや分かった、至急そちらに向かう』 最初は、冗談だと思っていたマオも通信の向こうから聞こえてくる機関砲の砲声を聞き それが紛れもない事実だと理解した。 『日本の市街地でASって、奴ら正気?この時間帯なら目撃者は膨大な数になるでしょうに』 「それは分からん、辺りには誰もいないんだ。それと敵の主武装はGRAW-3単分子カッターだ。 早く来てくれヴァーチャーが巻き込まれかねん。」 辺りは崩れたビルの破片で煙が立ちこめ、宗介はヴェノムが発砲している先に 何があるのか確認することはできなかった。 『分かった。ソースケ、アンタは私と交代よ。』 宗介の見立てでは、近くの河川を利用して全速力で移動すれば5分以内に来れるはずだ。 それまでASの注意を逸らしたいが敵の前に出るのは自殺行為だ。 おまけにこちらは、9ミリ拳銃と予備弾倉が3つ、手榴弾が3つ、クレイモア地雷が一つ アーミーナイフ、投げナイフと各種薬物だけだ。 これで、ASの相手は無理だ。 断腸の思いで宗介は対象を探し離脱する為、その場から離れた。 ヴィータは傀儡兵が放つ砲弾を回避するのに専念していた。 フルオートならば毎分300発、しかも音速並みの速さで飛来する砲弾だ。 当たれば痛いでは済まない。即座に血煙にされてしまうだろう。 今まで避けてこれたのは回避に専念してきた事と相手の狙いが甘い為だろう。 だが、その均衡も長くは続かなかった。傀儡兵が発砲した砲弾がヴィータの背後のビルに命中し 建材の破片がヴィータに降りかかってしまい足が止まってしまう。 その隙を突いて、傀儡兵は一瞬にして間合いを詰めてヴィータに切りかかる。 「しまっ」 回避も弾くことも間に合わない。ヴィータは目の前に迫る白刃を見つめるしかできなかった。 やられる。そう思った瞬間、目の前に白いジャケットを羽織った背中が現れ・・・ 「はああああ!」 凄まじい金属の衝突音と共に巨人の刃は弾かれる。 「レバンティン、カートリッジ・ロード」 『Jawhol(了解)!』 薬莢が排出され刀身が炎を纏い、現れた騎士はポニーテールを持つ傀儡兵に突進していく。 傀儡兵は、それを一度手の大型ナイフで受け止めたが刀身が溶けていくの見て後ろ跳びで距離を取った。 「縛れ、鋼の軛 !」 傀儡兵が跳んだ先に突然、白く発光する鎖が現れ傀儡兵の片腕を縛る。 すぐに引き千切ろうとするが、ザフィーラの鎖は異様に頑丈のようだ。 「どうした、ヴィータ。お前らしくない。」 「シグナム・・・。うっせーな、弾切れを待って反撃する予定だったんだよ。」 「そうか、それはすまなかったな。で、あれは一体なんだ?」 シグナムは鎖で腕を拘束された巨人を見る。 「知らねーよ、背後にいきなり現れて襲ってきた。」 「そうか。・・・アレの相手は私がしよう、お前はザフィーラと蒐集を急げ。」 ようやく鎖を大型ナイフで切り裂いた傀儡兵はザフィーラに発砲し、こちらを見る。 「分かったよ。」 「ああ、それと落し物だ。修復もしておいた。」 飛び去ろうとするヴィータにさっき落とした帽子が投げ渡し シグナムは傀儡兵に向かって突進した。 「来た。アルフ、迎撃いくよ。」 「あいよ、フェイト。」 飛んでくる紅い娘と褐色の男を迎え撃つ為バルディッシュに刃を発現させる。 相手は、あのなのはの装甲を破った相手だ。クロスレンジでの戦闘は避けたほうがいい。 時間稼ぎが第一目標であるのでフェイトはアークセイバーを放ち距離を保ちながら戦うことにした。 (アルフ、本来の目的は脱出までの時間稼ぎだからね?それと出来る限り相手の情報も集めとこう) (了解だよ、フェイト。) その言葉とともに空中戦が始まった。 傀儡兵の弾幕を切り抜けながらシグナムは敵に肉薄していた。 ヴィータの速さも決して悪くはないが、スピードで言えばヴォルケンリッターで一番はこの自分だ。 「はあ!」 シグナムは傀儡兵を縦に両断すべく、己の得物を振り降ろす。 傀儡兵はそれに反応し左手の大型ナイフで受け、そのままシグナムを押し飛ばす。 シグナムは後退し、正面から薙いでくる敵の刃に自らの剣を這わす。 火花が飛び散る、お互い立ち位置を変えず激しい攻防が続く。 突き、薙ぎなど様々な傀儡兵の攻撃にシグナムはレヴァンティンを這わせ、軌道を変える。 一息に一回の割合の応酬が二回、三回とスピードを上げていく。 (パワーでは、やはりあちらが上・・・だが小回りは自分のほうが上だ。ならば!) レヴァンティンからカートリッジをロードし、地面に炎を放ち土煙を巻き上げる。 その煙に紛れ背後からの一撃を加え、その攻撃は敵を真っ二つにし――――― しかし、そこでシグナムは目を疑う。 「なにっ!?」 レヴァンティンの刃が壁にぶつかった様に虚空で止り、逆にシグナムは弾き飛ばされた。 反撃が来る。シグナムは、そう思い身構える。 だが、追撃は来なかった。 傀儡兵はシグナムには興味を失ったかのように道路の先を見つめていた。 突如、何もないはずの空間から砲弾が飛び出してきた。 だが、またもや傀儡兵の前で攻撃は防がれ砲弾が弾け飛ぶ。 (なんだ?) そうシグナムが不思議に思っていると、インクが滲み出してきたように新たな巨人が姿を現した。 色は、目の前の傀儡兵と同じだ。スマートで華奢なシルエットをしているが力強い印象を見るものに与える。 新しく現れた傀儡兵は、こちらを見て一瞬呆然とした感じがしたが ポニーテールを持つ傀儡兵が攻撃の構えを執るのを見て、そちらに集中したようだ。 (どういうことだ、味方同士ではないのか?) シグナムは困惑するが、すぐに自分の目的を思い出す。 傀儡兵が自分達を邪魔しないのなら、蒐集を急ぐべきだ。 そう考え、ヴィータとザフィーラの援護に向かう。 上空の戦いを見ながら、なのはは自分の無力感に打ちひしがれていた。 今も、自分を倒した娘と戦っている親友のフェイトちゃん。転移魔法を編んでいるユーノ君、大柄な褐色肌の男を足止めしているアルフさん。 (私は何もできないの・・・?) レイジング・ハートは中破し、自分もボロボロ・・・でも何か、何かできることがあるはず 「なのは、敵の新手が来たみたいだ。二対三は流石のフェイト達でも不利だ。僕も戦闘に参加してくる。君は動かないで」 敵の来襲を察知したユーノ君が告げ、飛び立つ。 でも、ユーノ君は戦闘向きじゃない。私が何とかしなくちゃという気持ちに拍車がかかる。 そう思っていると、手に握っているレイジング・ハートがなのはに言う。 『マスター。スターライト・ブレイカーを撃ってください』 「それは・・・だめだよ。今、撃ったらレイジング・ハート壊れちゃうよ。」 『このままでは、ジリ貧です。状況を打破するには結界を破壊しなければいけません。』 確かにそうだ。相手には自らの魔力を爆発的に上げる何かがある。 下手をすれば、助けに来てくれた三人も自分の二の舞になってしまう。 だけど・・・・ 『私は大丈夫です。信じてください、マスター』 その一言が背中を押してくれた。そうだ、一緒に困難を乗り越えてきた相棒を信じなくてどうするだろうか? 今、この場を何とかできるチャンスがあるのは自分達だけだ。 「行くよ。レイジング・ハート!」 「Yes,master.」 (フェイトちゃん、ユーノ君、アルフさん、私がSLBで結界を破壊するから!) 他の三人はなのはの行為を心配するが、構わずチャージを開始する。 『10』 デバイスの先端にディバイン・バスター以上の魔力が集まりだす 『9』 自分の魔力だけに留まらず、周りの魔力も集める。相手もこちらの狙いに気付いたらしいが、みんなが決死の思いで足止めをしてくれている。 『5』 半年ぶりに撃つ分、制御は慎重に・・・だがダメージを受けてる分、前に撃ったときより負担が大きい。 『3・・・・3』 レイジング・ハートが壊れかかった声を出す。相棒のことを心配するが、レイジング・ハートは先を促す。 魔力は十分に収束し、後は発射するだけだ。なのははデバイスを振り上げる。 「スターライトッ!?」 最後の仕上げである魔法の名前を放とうとしたとき、それは思わぬ痛みによって止められた。 手だ。自分の胸から手が生えている。ホラー映画のワンシーンのような現実に眩暈を起こしそうになる。 その手には光る何かが握られていたが、もうそんな事を気にしている暇はない。 痛みに耐え完成した魔法を放つ為、レイジング・ハートはカウントを再開する。 『2・・1・・0』 「スターライト・ブレイカァァァァァ!」 自身最高の威力を誇る収束魔力砲を放ち、結界が破られるのを確認してなのはは気を失った。 前へ 目次へ 次へ
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第八話「第二ラウンド」 12月12日 1916時 時空管理局医療ブロック 蒐集されたことでリンカーコアに悪影響が出てないか調べる為の検査も 異常がなければ今日で最後となるはずだ。他にもエイミィさんがカートリッジの適性検査とか 魔力の限界圧縮率検査とか云々言っていたが何の事なのかよく分からなかったので とりあえず黙って受けることにした。 「体は健康そのもの、リンカーコアも異常なし。これで通院も終了だね。」 担当医がカルテを見ながら満足そうに頷き、目の前のなのはに言った。 「ありがとうございました。」 「まあ、『闇の書』の蒐集行為は過去にも何度かあったから 医療データだけはたくさんあるんだよね。」 「そうなんですか。」 「ああ、前回は11年前だったかな。あの時も多くの人が運ばれてきたよ。 『闇の書』は厳重に封印されてここに護送される予定だったんだけど途中事故がおきてね。 L級巡航艦が轟沈したよ。タカ派の連中が騒いで当時はすごくもめたものさ。 自分達に一任させていればこういう事態は起きなかったって・・・ そういえば、そのとき沈んだ船の艦長は、今回の捜査の指揮を取ってるリンディ提督の旦那さんだったな。」 「え?」 なのはは耳を疑う。クロノ君もリンディさんもそんなこと一言も言ってくれなかった。 「あれ、もしかして知らなかった?あちゃー、僕から聞いたってのは内緒にしてくれよ?」 担当医は額に手を当て、やってしまったという感じに首を振った。 どうやら聞いてはいけない類の話だったようだ。 まずいことを話したと思ったらしく担当医の口数は明らかに減り、検査はそのまま終了し なのはは医務室から出る。部屋の前で待っていたフェイト達が診察結果を聞いてくる。 「なのは、結果はどうだった?」 「うん、ばっちりだよ。健康そのものだって」 「レイジングハートとバルディッシュの修理もちょうど終わったところだよ。」 自分たちの変わりに傷ついた相棒の修理も終了したとのことだ。 これでなぜあの人達が『闇の書』の完成を目指すのかを確かめることが出来る。 クロノ君は動機は後で取り調べればいいと思っているようだが自分にとってそれは重要なことだ。 「じゃあ、帰ろうか」 ユーノ君がそう言ってみんなで転送ポート向かう。 本局から海鳴までおよそ1時間といった所である中継ポートを 複数回乗り継ぎようやく到着する距離である。 それなら支部を作ればいいのにと思ったりもするが管理局の陸上部隊との 予算ぶん取り合戦でなかなか実現できないそうだ。 さらに言えば次元航行部隊は巡航艦など専門性の強い装備を使っているので これらを扱える人材を育成するのも大変なお金と時間がかかるのだ。 それからしばらくして最後の中継ポートに乗り継ごうとしたときエイミィさんから通信が入った。 「みんな、今どこ!?」 「最後の中継ポートですけど、どうしたんですか?」 「武装隊が守護騎士二名を発見したんだよ!今、12人がかりで包囲してる。 クロノ君がもうすぐ向かってるけど、残り2人の騎士と『闇の書』の主のことを 考えるとどうなるか分からないんだ。 4人は、そのまま海鳴の現場に向かって!」 遂に来た。このときの為になのはとフェイトは魔法の訓練を自らに課してきた。 今回は戦っても負けない。 なのは、フェイト、ユーノ、アルフは転送先を変え中継ポートに乗る。 早ければ10分後に現場に到着するはずだ。 同日 1920時 海鳴市 市街地上空 「君達は包囲されている。おとなしく武装を解除して投降せよ。 投降した場合、君達には弁護の機会が与えられる。」 いつものお約束の言葉である。 包囲している武装隊員は12人、これからもっと増える可能性もある。 「ザフィーラ・・・」 「心得ている」 どうやらザフィーラも同じことを考えてたらしい。 お互いに背中を預け、戦闘態勢に入る だがヴィータ達が仕掛けるために踏み出そうとしたとき、武装隊員は急に散開しだした。 「なんだ?」 その行動を不審に思い警戒を強めるが、奴らは何かしてくるわけでもなかった 「ヴィータ!上だ!」 ザフィーラの声と共に上を見上げると黒衣の執務官が百を超える魔力刃を発現させている 離れたのはこのためか、武装隊員12人程度では自分達の相手には役者不足だ。 12人は足止めが目的で、執務官の到着を待っていた。そんなとこだろう 「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」 宣言と共に大量の青白い刃がヴィータとザフィーラに殺到する ザフィーラはヴィータを庇うとようにバリアを展開するが、いくらかは貫通しザフィーラたちを襲った。 「ザフィーラ!?」 「大丈夫だ。この程度でどうにかなるほど軟ではない」 「へ、上等!」 幾分かのダメージはあるようだが、ザフィーラの言葉に少し安心した この守護獣は基本的に正直者だ。どんなにやばいときでも顔色一つ変えずに淡々と事実のみを言うのだ 「どうやら他の連中は、結界に集中するみたいだな。 あの執務官は相当信頼されてるらしいな」 集団戦法に優れたミッドチルダ式で個人戦を最も得意とするベルカ式に挑むとは腕に自信のある証拠だ だが、相手がこちらの流儀にあわせてくれるならやり易い 1対1でベルカの騎士に負けはないと自負している 「ザフィーラは手を出すんじゃねーぞ」 「それはいいが、新手だ」 馬鹿でかい魔力反応が転移してくるのを感じ、その方向に目を向けると見知った連中がビルの屋上にいた。 一人は亜麻色の髪の少女、紅い宝玉を握り締めまっすぐこちらを見ている 一人は金髪赤眼の少女、ザフィーラと同じような使い魔を従えている 「あいつらは・・・!」 同日 1926時 海鳴市 強装型捕縛結界外 「ヴィータ達はあの中か」 包囲された直後ザフィーラがすぐに思念通話でそのことを伝えてきた 管理局武装隊の強装型捕縛結界・・・・外6人、内6人で結界の維持を行っているのか 『行動を!』 自らの半身とも言うべき相棒が行動を促す 外にいる連中を倒し結界破壊を優先すべきか、それとも結界内に入りヴィータ達の援護に回るべきか 『私の主ならあらゆる困難を食い破ってくれるものと信じています』 そう付け加える炎の魔剣はどうやら先日着け損ねたテスタロッサとの決着をつけたいようだ。 「そうだな。お前の期待に応えるとするか」 『Ja(承知)!』 レヴァンティンから薬莢が排出され、圧縮された魔力が炎に変換される シグナムはそのまま加速し強装結界に己の魔力を衝突させた。 上空の騎士達を見つめるなのはとフェイト 「レイジングハート!」 「バルディッシュ!」 「「セットアップ!!」」 その言葉と共に巻き起こる桜色と金色の魔力 だが、何かいつもと違う。それは力強く、活力に満ちていた。 『二人とも、よく聞いて。今日帰ってきてから説明するつもりだったけど その子たちには新しいシステムが組み込まれてるの』 エイミィさんから通信が入る。今日受けた検査と何か関係があるのだろうか? 「新しいシステム?」 『その子達が望んだの。主である貴女たちを守る為に・・・・ ベルカ式カートリッジ・システムの搭載を・・・ 呼んであげて、レイジングハートとバルディッシュの新しい名前を!』 心に流れ込んでくる新しい名前と守りたいという願い。 その願いは自分のものでもあり、手の中の相棒のものでもあった。 「レイジングハート・エクセリオン!」 「バルディッシュ・アサルト!」 『『System all green, Set Up!』』 魔力が最高潮に高まり、新たな力が起動する。 なのは達は一応武装はしたがこれはあくまで保険に過ぎない 本当の目的はお話を聞いてもらうことだ。 「私達はあなた達と戦いに来たんじゃない」 「『闇の書』の完成を目指す本当の目的を教えて」 「あのさあ、言うと思うのかよ?」 予想はしたことである。もし話し合いの余地があるのなら 最初から問答無用で襲ったりはしないだろう。 「それでも私達は知りたいの」 強固な意志が宿った瞳がヴィータ達を見る 一瞬だけヴィータはたじろいだがすぐにこちらを睨み返した。 「うっせーな、言うわけにはいかねーんだよ どうしても聞きたいのなら、あたしらを捕まえてからにしな」 そう言って武器を構えるヴィータ どうやら話し合いの余地はないようだ 「じゃあ、約束だよ。私が勝ったら事情を聞かせてもらうよ」 そういって、なのはは周りの人に念を押すように言う。 「フェイトちゃん、みんな、手を出さないで。私、あの子と1対1だから」 「うん、分かった。それに私も・・・」 フェイトはヴィータやザフィーラがいるより先を見る 突如、凄まじい音と共に何かが落ちてくる。 それはビルの屋上に着地しこちらを見る。 「シグナム・・・」 フェイトはどうやら彼女が来るのは予期していたようだ この強装型の結界は念話を遮断する能力は備わっていない 包囲された時点で他の騎士たちに連絡が行っていても不思議ではない そして、フェイトの読みどおりシグナムは現れた。 無言で剣を構えるシグナム、それに呼応するようにヴィータ、なのは、フェイトも構える。 アルフもすでにザフィーラと臨戦態勢に入ってる 「ユーノ、僕と君で結界の外側と内側を調べる」 「残りの騎士と主がいるかもしれないってこと?」 「ああ、主はいないかもしれないが残りの緑の騎士がどこかに隠れているはずだ。 君は結界の内側、僕は外側だ。」 緊張が高まり空間が軋みだす。二人の会話が終了したのと同時に8人は空へと躍り出す。 「約束は守ってもらうよ。私が勝ったら事情を聞かせてもらうから」 「へ、やってみろよ」 『Master. Please call me load cartridge.(カートリッジロードを命じてください)』 レイジングハートが搭載されたばかりのシステムを起動するように言う なのはも同じ考えだった。 古来より相手が自分より優れた武器を持ったときに行う対抗策は 新たな戦術を作るか、相手と同じ武器を持つかのどちらかだ。 自分達は後者を取った、戦術を作るには時間が足りないし 武装隊の人たちと連携を取る訓練を受けてない自分はただ足手まといになるだけだ 「レイジングハート、カートリッジロード!」 『Yes,load cartridge! Drive ignition!』 カートリッジに圧縮された魔力が解放され、なのはの膨大な魔力がさらに膨れ上がる。 魔力の扱いには慣れていたつもりだがこれはこれで応える。 体中の血管が膨れ上がるような感覚に襲われた 「でも、制御してみせるよ」 前方の見ると赤熱する4つの鉄球が飛んでくる 距離があるので余裕を持って回避することが出来た。 しかし、相手はすでに次の手をうっていた。 相手もカートリッジを使いデバイスを変形させる時間を稼ぐ為の行動だ。 紅い髪の女の子は自分を倒した、あのスパイク付きのロケットハンマーで一撃必殺を狙ってくる 『Protection powered(プロテクションパワード)』 それに反応し、バリアを展開する。 波紋状の光の壁と相手のハンマーが衝突し、辺りに火花を撒き散らす。 今までのバリアならば3秒とたたずに叩き割られただろう だが――― 「く、かてぇ・・・!」 カートリッジから供給された魔力によってバリアの硬度は今までの比にないほど上がっていた しかしこのまま攻撃を受けているだけでは勝てない 反撃に移る為、レイジングハートはある魔法を発動させた。 『Barrier Burst(バリアバースト)』 相手のハンマーが接触している所にバリアの光が集まり点滅していき その間隔が次第に短くなり限界まで点滅した途端バリアが爆発した。 だが、爆発したといってもなのははダメージを受けてはいない 指向性の爆風が攻撃側のみにダメージを与え、相手を吹き飛ばす それがこのプロテクション・パワードの派生魔法の効果である。 『Let s shoot it, Accel Shooter.(アクセルシューターを撃ってください)』 距離を取り直したところでレイジングハートはもうすでに次の魔法を用意していてくれた 「アクセルシューター、シューート!」 魔力が水増しされたことで弾数は増えるだろうと思っていたが、それでも6発くらいだと思っていた しかし、発射されたのは予想を大きく上回る12発 制御が行き渡っていないアクセルシューターはそのまま直進していくが このままだとただの花火になってしまう。 『Control, please.(コントロールをお願いします)』 制御に集中し12個の弾丸がヴィータの周りをぐるぐると飛ぶがひとつも当たらない 相手はそれを見て先ほど飛ばした鉄球をこちらに放ってくる これほど多くの弾丸を精密にしかも同時制御するのは無理だろうと判断したのだろう。 自分もそう思った、12個同時制御なんて出来ない 『It can be done, as for my master.(出来ます。私のマスターなら)』 その言葉と共にある考えが浮かんだ。 この方法ならできる。なのはは目を閉じ集中する 飛んでくる四つの鉄球を迎撃する為こちらも4つのアクセルシューターに意識を集中する 1・・2・・3・・4! 半年の訓練でシューター系の同時精密制御は4つが限界だった それはこれから訓練すればもっと数を増やせるのだろうが今はこれが精一杯 しかし4つあれば十分だ。鉄球の迎撃に成功し、今度こそ相手は攻撃手段を失う。 「約束は守ってもらうからね!」 手を振り上げ、12個の弾丸を3つの編隊に分ける。その3つを入れ替わり精密制御していくなのは 編隊Aが攻撃し終わると編隊Bに制御を移し攻撃を始め、それが終わると編隊Cと入れ替わり A→B→C→Aという感じでローテーション組んで攻撃してゆく。 こうして波状攻撃を加えることで12個の魔力弾をフル活用する それこそが、なのはが考え出した制御方法だった。 『Panzerhindernis.(パンツァーヒンダーニス)』 ヴィータは12個の弾丸から逃げ切るのは無理だと判断したらしく防御壁を全方位に展開する だがそれも完璧ではない。アクセルシューターの弾丸が当たるたびに防御壁は削られ、あっちこっちが軋み、ひびが入る。 もちろんぶつかるたびにアクセルシューターのエネルギーも消費されて入るのだが カートリッジで供給された魔力のおかげでまだ余力がある。 「まだ、私の番は終わってないよ!」 先日の戦いと今日戦ってみて分かったが目の前の紅い娘は手数で勝負するタイプじゃない 最前線に出て防御の上からでも相手を叩き潰す一撃必殺を好むタイプのようである そうであるならば、こちらにイニシアチブがあるうちに勝負を決めるのが一番だ 『Load cartridge, ”Buster Mode”』 レイジングハートからさらに薬莢が2発排出され、三日月だった形が音叉状に変わる。 体が焼け付くような感覚に襲われるが、それを気合で押さえ込むなのは。 なのはの足元に桜色の魔法陣が現れ周囲の魔力がレイジングハートの先端に集まっていく アクセルシューターの数が減るが、それでもまだ2編隊ある 「チェックメイトだよ。この距離なら外すほうが難しいよ。」 照準は完璧、この距離で相手が動けないのならば外すことは100%ありえない 「私の勝ちだよね?事情を聞かせてもらえないかな?」 「まだ負けてねえ!鉄槌の騎士ヴィータを舐めんな!」 そうは言ったもののヴィータの顔には焦りの色があった。 なのはが言ったとおり、この状況を打破するのは難しい 下手に動けば砲撃の餌食、かと言ってアクセルシューターで削られた防御壁がいつまで持つか・・・ ヴィータは頭をフル回転させるが考えが纏まらず、相手を睨むことしか出来なかった。 一方、その頃フェイトは剣の騎士との壮絶な打ち合いの最中だった シグナムの剣戟は長年蓄積され、裏打ちされた実に合理的なものだ。 どう打ち込まれたら相手が嫌がるか、どう相手の攻撃を払ったら次に繋げやすいか 打ち合う度に新しい発見があった。 「やるな、テスタロッサ。打ち合うわずかな一瞬で私の技術を盗んでいるようだな」 「私の手数じゃ、どうやっても貴女に及ばない。ならある所から持ってくるだけです。」 しかし、僅かの一瞬で盗めるほどシグナムの技術は簡単なものではない 「いいセンスだ。」 この少女は大きな器だ。後からどんどん物を継ぎ足せる。 シグナムはしばらくぶりに出会うことができた好敵手を見て 自分が興奮していることに気がつく。 「いい・・・センス?」 「そもそもお前のデバイスは斧型だ。しかし私の技は剣に最適化されている。 お前はそれを斧でも使えるようにとっさにアレンジしている。 ・・・まさか無意識でしているのか?」 フェイトが気付いてなかったようだがシグナムはそれを看破した その言葉にフェイトは一瞬照れてしまったが、すぐに気を取り直し武器を構える。 シグナムもそれに呼応しレヴァンティンを構える 「ハッ!」 気合と共にフェイトはシグナムに突進する バルディッシュで脳天を狙うが、シグナムはレヴァンティンでそれを弾く。 攻守が入れ替り今度はレヴァンティンが閃き、袈裟切りが放たれる。 「シャッ!」 フェイトはシグナムの斬撃をシールドで受け止め相手の重心をずらそうとする。 「レヴァンティン、カートリッジロード!」 シグナムの魔力が高まり重心がずらされる前にシールドごと叩き斬ろうとする。 フェイトも負けじとバルディッシュのリボルバーからカートリッジを3発ロードさせる。 しかし矛と盾の競争は、えてして矛が有利なのだ シールドは真っ二つにされ、フェイトは自分の企みが失敗したと判断し、すぐさまシグナムと距離を取る。 「やっぱり、まだ正面から向き合うには足りないかな?」 もう一度距離を取りながらカートリッジを1発消費し魔法を編む 「プラズマランサー、ファイヤ!」 力場に封入された4発のプラズマの弾丸がフェイトの前に出現する それは高速でシグナムに殺到するが、スピード自慢のシグナムは余裕を持って上に回避する だが、それは予想していた。自分の本当の目的はシグナムをあの場から動かすこと・・・ 「かかった!」 フェイトは手を振ってバルディッシュに命令し、シグナムの剣を受け止めるときに 仕掛けておいた別の魔法を発現させる。 「なに!?」 突如シグナムの周りに現れる魔法陣、それが煌いたと思ったら 足に金色の丸い輪のようなものが絡みつく。 「これは設置型のバインド、いつの間に・・・!?」 すぐさまバインドを破壊しようとしたが、その一瞬で決着は着いた。 「私の勝ちです。投降してください、シグナム」 目の前に戦斧を突きつけ投降を促すフェイト 「3発もカートリッジを使ったわりにシールドが脆かったのはこのためか。 ・・・・どうやらお前の策に嵌ったようだな」 「私では技量もパワーも貴女に勝てません。 だから、罠に掛けることにしました」 「久々の強敵に熱くなった私の未熟だな。 ・・・いつぞやとは立場が逆になったな、テスタロッサ。それで我々はこれからどうなる?」 そうは言うがシグナムは不敵な面構えをしていた。 地上ではアルフ、ザフィーラがパワー勝負をしている 体格ならザフィーラが、しかし主の魔力量ならばアルフが上である故に なかなか勝負が着かない。 「オラオラ、いい加減お前らの目的を吐いて楽になっちまいな」 アルフはワンインチパンチを繰り出しながら、悪役のような台詞を言う。 「言うわけがなかろう。管理局が『闇の書』をどういう風に処理してきたか知らんわけでもあるまい。」 ザフィーラが痛いところを突く様に返す。 アルフも聞いたことがある。闇の書が完成すれば手がつけられなくなる 故に被害が拡大する前に魔導砲で吹き飛ばしてしまうのだ。 もちろん主ごと・・・・ 「貴様も使い魔なら主がそのような目に遭うことを我慢できるはずがなかろう」 「そうだけどさ、完成する前ならそんなことする必要なんてないんだよ」 「信用・・・・できん!!」 ザフィーラは力を込めアルフの胸倉を掴み全力で投げ飛ばす。 距離が出来たことで結界の外にいるシャマルに思念通話を入れる。 (シャマル、聞こえるか?) (ザフィーラ?中の様子はどうなってるの?) (ヴィータは防御壁の中から動けない、シグナムはバインドに捕まって動くことが出来ない このままでは2人とも管理局に捕まる。) (そんな・・・・どうにかできないの?) (俺も相対している相手がいる。どうにかできるのはお前だけだ。 やはり『闇の書』の力の一部を解放して結界を破壊するしかない) (でも、それじゃあページが・・・・) (今、使わなかったら『闇の書』の完成自体が不可能だ。) (・・・わかっ) 突如シャマルからの思念通話が途切れる。 不審がるザフィーラは何度も思念通話を送るが返事はない。 シャマルも見つかってしまったのか?そう思い結界の外の方に目をやるところである事に気がつく あの臭いがする。 テスタロッサという魔導師の使い魔も臭いを感じ取っているようだが その臭いが何の臭いかは分かってはいないようだ。 ドンドンドン! どこからか聞こえる発砲音。ザフィーラは音のする方向に目を向けると そこには注目を集めるように上空に発砲しているM9の姿があった。 前へ 目次へ 次へ
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新暦75年9月 この月、71年より発生した『レリック回収事件』は『聖王のゆりかご』の破壊と首謀者・ジェイル・スカリエッティをはじめに彼の生み出したナンバーズの11人の逮捕により終結した。 この事件の後。この事件を経験した機動六課は期日により解散。六課のメンバーはそれぞれの道を歩む事となった。 だが、彼女らは新たな嵐が迫っている事をまだ知らなかった…………。 闇が広がる世界……そこにはまがまがしい巨大な施設があった。辺りには赤い熔岩が流れている堀が二重に儲けられている。 その施設の中。一人の男が水晶玉をほくそ笑みながら眺めている。 水晶に映るのは高いビルが立ち並ぶ異世界。 「このような世界にも強者達が居ようとはな……」 次々に切り替わる映像はかつての時空管理局、機動六課のメンバーやナンバーズの姿。 そして、数十年前に管理局員であった第359管理世界、第1590管理世界の実力者達の姿。 男は彼らに告げる。 「人界の強者達よ……その力を我に見せよ。小太郎、動け」 「クク……承知した」 男の傍らにいた小太郎はそう答え、つむじ風と共にその場から姿を消す。 「さあ、どう出る? 強者達よ!」 小太郎が行った事を確認すると男はある女性を呼び出す。 「妲己、プレシアはどうか?」 「まだ、何処に居るかさーっぱりです」 「そうか……」 新暦76年5月10日 時空管理局が保護をしている次元世界。 そこは豊かな自然が広がる平穏な世界。 木々が立ち並び、緑が生い茂り、川の流れの音、生命の音が聞こえる。 ここには、先の『レリック回収事件』に大きく関与したルーテシア・アルピーノとスカリエッティに囚われていた彼女の母、メガーヌ・アルピーノが暮らしている。 「お母さん」 草原を歩いているルーテシアは振り返り、母を笑顔で見遣る。 娘の声にメガーヌは微笑んで傍に寄り添う。 「エリオとキャロにまた会いたい」 「そうね、また会いに来てくれるわ」 友達をこいしがり、母に甘えるルーテシア。 その表情はあの時には見られない幸福に満ち溢れている。 「ガリュー」 母娘の声にルーテシアの召喚虫であるガリューが歩み寄る。 「お前がメガーヌか……」 「!?」 突然、聞こえた男性の冷たい声にメガーヌは庇うようにルーテシアの前に立つ。 「我は風魔。来たる混沌の為に来てもらうぞ」 「何を言っているの?貴方は……」 突然現れたにも関わらず風魔にメガーヌは毅然と立つ。 「ガリュー!!」 ルーテシアの声にガリューは頷き、風魔へと飛び掛かり右の拳を放つ。 だが、風魔は拳を流しガリューを掴み上げる。 「クク、お前の狗は中々に忠孝だな。遊んでやる」 「!!」 その言葉に激昂したガリューは、自身を掴み上げる風魔の腕を掴み彼の頭部へと神速とも感じられる蹴りを放つ。 紙一重で頭を動かして避ける。空を切り裂くような音が耳に響くと再び風魔へと拳が放たれる。 だが、風魔は拳を掌で受けると口の端をつりあげてほくそ笑む。 「クク、刹那の瞬間に我に当てるとはな……。時間だ」 そう言い放つと、風魔はガリューの前から姿を消し。 一瞬の間にメガーヌとルーテシアの前に現れる。 「ルーテシア、お前の母。預からせてもらうぞ」 「っ!? 嫌だ!!」 「駄目、危ないわ!!」 母を守らんと前に出るルーテシアにメガーヌは庇うように押し退ける。 そうはさせんと言うようにガリューは再び、風魔へと背後から飛び掛かる。だが…… 「!?」 「お前とはいずれ闘う。待っていろ」 風魔は背後へと右手を翳した瞬間、腕は長く伸びてガリューを掴み遠くへと投げ、一瞬で作り上げた火球を放つ。 「何ていう事っ!? かはっ!」 「クク、なんとも美しい母娘の愛よなぁ」 そう告げると風魔はメガーヌに当て身を放ち、彼女を抱え上げる。 「駄目ぇ、お母さんっ!」 怒りと哀しみが混ざった表情で風魔に飛び掛かる。だが……風魔と母の姿はそこに居なかった。 「母を返して欲しくば……これから来る試練に勝つと良い。クククク」 言葉だけが残り……ルーテシアは涙を滲ませて泣き叫ぶ。 「うわぁぁぁぁぁっ」 どうして……どうして!! やっと、やっとお母さんと!! 風魔に投げ飛ばされたガリューも悔しそうに戻ってくるが辺りに彼の存在は感じられなかった。 「お母さん……おかぁ……さん」 鳴咽混じりの声が虚しく草原に響き渡るだけであった。 そして、この事態は直ぐに管理局に察知される事なる。 無双の嵐が……やってくる。 目次へ 次へ
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覚悟君が戻ってきた。 新暦0074年10月。 あの日の約束を、ぎりぎり果たしたその日に、や。 そうは言うても、わたしだけの力とちゃうねんけどな。 わたしかて、ヘタな謙遜をする程度の日々を送ってきたつもりはないねんけど、一人じゃ単なる小娘やんか。 聖王教会の…カリムの強力な後押しがあって、ほんっとに辛うじてこぎつけた結果やな。 完成した隊舎の執務室にやってきた覚悟君と向かい合ったら、 おっきくなった背に、いろいろ言うてやりたくなったわ。 けどな、うち、覚悟君の言葉、しっかり覚えてるねん。 せやからな…戦士に、敬礼や。 覚悟君も、わたしに敬礼してくれた。 「…………」 「…………」 結局、それだけやった。 そのまんま、三十秒くらいして。 「じゃあ、みんな…呼ぶな?」 「頼みます、八神二等陸佐殿」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第八話『対超鋼・機動六課』 「みんなそろったところで、状況を整理してみよか」 「うん、そうだね」 「行き違いがあったりしたら、困るもんね」 「了解した」 今、いるのは、わたしとなのはちゃん、フェイトちゃん。 うちの子らはガジェット退治の応援その他に駆り出されてて、来週までは戻ってこられへん。 リィンも今は、そっちについていってる。 覚悟君とすぐに会わせられないのが残念やけど… あ、ちなみに、他人行儀は即刻禁止したで。 覚悟君だけそんなことやったら、なのはちゃんやフェイトちゃんにも、遠回しにそれ、押しつけることになるねんな? …それにな。 『勘違いしたらあかんて。 わたしらを結びつけるのは上下関係やない。 おんなじ、願いや。 戦う理由や…違うか? そう思うから、戻ってきてくれたんやろ、覚悟君』 『…相違なし。 謝罪する』 まあ、三年前は嘱託魔導師待遇(魔法使えないのにヘンな話やけど)で、わたしらの仕事、手伝ってもらってたから、 管理局の組織に正式に組み込まれることを自分で選んだ手前、組織の仕組み、ないがしろにできん思うたんやろな。 でもそれは、中身をしっかり守ってくれれば、形なんかどうでもええねん。 なのはちゃんにフェイトちゃん、シグナムたちもそうしとるみたいにな。 「…まず、どうしてカリムの、聖王教会の後押しが強まったのか? これは覚悟君が詳しいはずやな」 「強化外骨格、雹(ひょう)の発見ゆえに!」 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、息を呑んだ。 わたしだって、カリムから聞いたときは、同じやった。 あんなことが、あった直後やったから… 「野生の火竜が丸呑みにしていたものを、おれが回収した」 「それってつまり、この世界に飛ばされてきたのは、覚悟くんだけじゃなくて…」 「呼ばれたのは、強化外骨格そのものであるかもしれぬ」 なのはちゃんに応える覚悟君の目つきは、鋭かった。 「強化外骨格に宿るは、理不尽に蹂躙されし魂なれば。 カリムの予言の一節に符合せし部分あり」 古い結晶と 無限の欲望が 集い交わる地 死せる王の元 聖地より彼の翼が蘇る 死者達が踊り 中つ大地の法の塔は空しく焼け落ち それを先駆けに 数多の海を守る法の船は砕け落ちる 「踊る死者達、これ強化外骨格の瞬殺無音を意味するならば… ミッドチルダに吹き荒れるは、大殺戮の嵐!」 「地上本部への…」 「強化外骨格を使った…」 「毒ガス攻撃!」 真っ昼間の晴天なのに、雷が轟音を立てて落ちてくるのを、わたしらは確かに聞いた。 本部からの事情聴取では知らぬ存ぜぬで突っ張り通したけど、 わたしは確かに知ってる。 瞬殺無音がなんなのか、零(ぜろ)から聞いて、知ってる。 十秒足らずで都市ひとつ根こそぎ鏖(みなごろ)す。 姿無く、音も無く、匂いもせず、ただ瞬間的にやってきて、あとは原型をとどめない…化学兵器、戦術神風(せんじゅつ かみかぜ)。 「強化外骨格は…零(ぜろ)は、悪用されるの?」 「断じて否。 下郎にその身を許す零(ぜろ)ではない! 雹(ひょう)もまた我が父、朧(おぼろ)の超鋼なれば、不仁を為すこと、決してありえぬ」 「お父さんの?」 重々しく頷いて、覚悟君は続ける。 「零(ぜろ)、雹(ひょう)がこちらに存在する以上…現人鬼(あらひとおに)の纏(まと)いたる霞(かすみ)もまた在ると考えるべき! 外道に堕ちくさった散(はらら)ならば、強化外骨格の力、罪なき人の抹殺にふるったとて、何ら不思議なし」 フェイトちゃんが、ちょっと痛々しそうに目をそらしとる。 お兄ちゃんのことを「鬼」って呼んで、討つべき悪としてにらみ続ける覚悟君や。 たとえ冷たくされたって、虐待されたって、 それでもお母さんのこと信じ続けたフェイトちゃんには、やりきれないものがあるかもしれへん。 「でも、それをやるのが散(はらら)さんて決まったわけやない」 「だが、そう考えねばならぬのだ、はやて」 「これ見いや」 ウインドウを起こして、映像を再生する。 百聞は一見にしかずやて。 「これは、玩具(ガジェット)」 「三週間前の、ヴィータの戦闘記録や」 その日、現れたガジェットは、たった五体。 せやけど、その分、特別製やった。 数でタカをくくった地上部隊三十人が、あっさり片付けられてもうた理由は、 ヴィータがグラーフアイゼンで殴りかかった瞬間に、すぐわかった。 「…これは、まさか!」 さすがの覚悟君の顔色も、これには変わって当然やな。 あれの意味を知らなかった、なのはちゃんとフェイトちゃんだって、同じ顔したんやもん。 「わかるか、展性チタンや。 展性チタンの装甲を持った、ガジェットや」 ブースターで噴射しながら正面からぶち砕く、ラケーテンハンマー。 あれをくらって、吹っ飛ばされておきながら、ガジェットは表面が一瞬へこんだだけで。 装甲表面全体をぷるんと震わせた思うたら、元通りの形になって、元気ハツラツでミサイルを撃ってきた。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)で魔力が消されてまう上に、 通った威力、衝撃もこんな風に散らされるんじゃ、苦戦するのも当たり前や。 最終的に、ひとつ破壊している間に、残り全部に逃げられて。 「…わかるか、これがどういう意味か、わかるか?」 「展性チタンは、強化外骨格の装甲にのみ用いられし素材」 「せや。 強化外骨格の技術を解析してる、何者かがいるっちゅうことや。 もっと、聞くで? これ、放っておいたら、この先どうなるか」 「瞬殺無音の暴露…」 「わたしは、もっとおそろしいこと考えとるねん」 正直、口に出すのもイヤな可能性やけど、 目をそむけるのは、絶対にあかんねや。 だから、言う。 「強化外骨格の、量産や」 覚悟君の息が、数秒間も止まったのを感じた。 なのはちゃんとフェイトちゃんには、あらかじめ伝えておいた、一番悪い予想。 もしも…もしも、色々とタガの外れた人が、それを使って何かやらかすのなら。 そこから描かれる未来図は、この世の、破滅や。 「覚悟君だけの問題とちゃうねんて。 もう、とっくの昔に。 せやからな、探そう? 一緒に…止めなきゃいけない人達を」 「…了解。 おれの拳ひとつでは、因果は届かぬと認識した」 「うん、ええ子や」 一人で背負い込もうとするんは、覚悟君の一番心配なところ。 何も、覚悟君は、人類最後の戦士やあらへん。 支え合って、わたしらは、もっと強うなれるんや。 「…で、次は、一体、どこでそんな技術を解析しとるのか、って話になるんやけど」 「言いにくいけど、一番最初に思いつくのは…」 「零(ぜろ)だね」 なのはちゃんの後を、フェイトちゃんが引き継いで、はっきり言うた。 「ロストロギアに匹敵するものなら、管理局で解析するのは当然だから…問題は、その後」 「管理局から悪漢どもへ情報の漏洩ありと?」 「そうだとしか思えない。 そうでなければ、別の強化外骨格を… 覚悟の言っていた、霞(かすみ)を持っていると考えるしかなくなる」 「であれば…散(はらら)か」 覚悟君の拳が、きりりと握られた。 考えるな、ちうても無理なんや。 それは多分、覚悟君にしか背負えないものやから。 外野から、とやかく言えることと違う。 違うんやけど、でも、一人で背負い込むのは反対やし。 もし、対決に立ち会うようなことがあったら、わたし…何をしてあげられるんかなあ? …あかん、あかん。 今考えることとちゃうで。 「散(はらら)さんより現実的な危険は、獅子心中の虫やで、覚悟君。 姿も形もない霞(かすみ)より、現にある零(ぜろ)や」 直接的な表現を避けつつ、覚悟君流にむずかしい言葉をまぜてみる。 我ながら上出来やな。 「覚悟君、言うてくれたやんか。 零(ぜろ)は征くべき場所に打って出たのだ、って」 「…うむ」 「じゃあ、管理局外部に漏れてる展性チタンの技術。 これは、零(ぜろ)が撒いたエサとちゃうか?」 「!!」 ふふん、目つき、変わったやんか。 せやせや、男の子はくさってちゃダメやて。 「そろそろわたしらが、零(ぜろ)の声に応える番やて」 「敵の技術、零(ぜろ)ではなく、霞(かすみ)に由来していた場合は?」 「もし、そうなら…零(ぜろ)を取り戻す、立派な大義名分やんか。 そのときは、零(ぜろ)と覚悟君の、全力全開であたる時や!」 一人で行かせるとは限らへんねんけどな。 わたし、策士やねん。 覚悟君、それに気づいてるのかいないのか、わからへんけど… 「はやて」 「ん?」 「命令を! 機動六課が葉隠覚悟に!」 こういうツボ、しっかり心得てるとこ、ホンットにニクイわ。 覚悟君の場合、完っ璧、これが天然やから、なおさらや。 あのシグナムでさえ、なんと古風な…とか言うて笑うんやで? でも、闘志がわく。 「違うで、覚悟君」 「違う?」 「古代遺物管理部、機動六課が正式の名前や。 せやけどもうひとつ、わたしらにだけ見える三文字がある。 わたしらの背負う役目と同じように」 思い切りもったいぶって、気を引いて、 そして、力いっぱいに、名乗る。 「『対超鋼』! 『対超鋼』機動六課(『たいちょうこう』 きどうろっか)や!」 「対超鋼、機動六課!」 「たとえ相手がロストロギアだろうと、強化外骨格だろうと、 わたしらは一番最初に立ち向かって、一番最後まで立っている。 機動六課は、そういう部隊や」 居住まいを正す。 八神はやて、上官モードや! 「葉隠覚悟陸曹」 「はっ」 「貴官は本日より機動六課中枢司令部、ロングアーチに所属。 わたし、八神二等陸佐の直属として、対超鋼戦術顧問を命じる!」 「対超鋼戦術顧問、拝命いたします!」 「うむっ」 覚悟君の敬礼に、わたしも敬礼。 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、敬礼。 一人前の仕事をするには、まだまだ時間がかかるねんけど、 生まれたばかりの機動六課は、今、確かに歩き出してる。 (グレアムおじさん…見てて、な) 空の彼方に、そっと、祈った。 「是非もなし」 なのはが指揮する『スターズ』分隊の配属候補、二人の話になってすぐ、 覚悟はそう言って、なのはの選択を全肯定した。 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。 私となのはみたいに、ずっと、二人でやってきたっていうコンビらしいけど。 「両名すでに、恐怖超えたる器なり。 錬磨おこたらねば一廉(いちれん)の戦士たるも夢ではなし」 「さすが…直接見てきた覚悟君はひと味違うね。 でも、びっくりしなかった?」 「何が」 「スバルちゃんのこと」 覚悟にとっては、この世界での全ての始まりだったはずの女の子。 火事の中、生命を賭けて助けたこの子が今、機動六課に名前を連ねようとしている。 少しだけ、黙ってから…覚悟は、うなずいた。 「できることなら、平和の中に生きてほしかった」 それを聞けて安心したよ、覚悟。 戦いだけで頭が埋まっているような男の子じゃないって、三年前から知ってはいるけどね。 覚悟のあの強さは、聞けば五歳のときから仕込まれてきたものだっていうから。 …私も、境遇としては似たようなものだった。 だから、三年前、聞いたんだ。 辛くなかったか、って。 そうしたら。 『おれを宝と呼んでくれた父上の顔は、辛き日々を乗り越えし成果。 あの顔を見たくて、おれは頑張り続けていたのだと、あの時に知ったのだ。 おれほどの果報者、そうはおるまい』 私がついに手に入れられなかったものを、覚悟は手にいれることができて。 でも、一緒に辛いことを乗り越えてきたはずのお兄ちゃんに、そのお父さんが殺されて。 忘れろだなんて、言えるわけがない。 でも…それでも、私は、思うんだ。 大好きだったお兄ちゃんのこと、悪とか、殺すとか、そんな風に思い続けるなんて、哀しすぎる。 散(はらら)さんがどういう人か、まだ私は知らないけれど、戦いになるようなことは、できれば止めたい。 だけど、ね。 「だが、戦場にて勝てぬ大敵を前に一歩も引かなかった事実。 決意を身をもって示す者を前にして、おれに何が否定できよう」 小さく笑うなのはみたいに、私の意見も、覚悟と同じ。 『覚悟』に余計な口ははさめないんだ。 今は、何も言ってあげられそうにない。 「…採用、決定だね」 「二人の教練、くれぐれも抜かりなきよう!」 「何を言ってるのかな? 覚悟くんも教官になるんだけどなあ」 「む…」 「覚悟くんぬきじゃ、意味ないよ? 対超鋼戦術顧問さん?」 「…了解、未熟ながら死力をつくそう」 「うん、いいお返事。 じゃあ、まずはわたしに教えてね」 なのはが席を立って、覚悟もそれに続く。 三年ぶりの、話仕合(はなしあい)に行くんだね。 最後のあれは、確か… 『後の先を狙い続けて膠着状態に陥った場合、いかに敵を崩すか?』でもめたときだったっけ。 「零(ぜろ)は無くても、大丈夫?」 「あなどるなよ! 当方にカリムより賜(たまわ)りし爆芯『富嶽(ふがく)』あり!」 「そうこなくっちゃ! …フェイトちゃん、どうする?」 いきなり話をふられて、今までずっとぼんやりしてた私はちょっと反応が遅れたけど。 「うん、行くよ」 バルディッシュを握り締めて、私も立つ。 私の率いる『ライトニング』分隊、二人の資料をファイルにしまって。 エリオ・モンディアル。 キャロ・ル・ルシエ。 私の養子、二人。 『真に我が子を思っての決断なれば良し』 覚悟は、そうとしか言わなかった。 …言われるまでも、ないよ! レリック関係だけじゃなくて、私達が追うのは今や、強化外骨格に、謎の生物兵器人間… 死の危険が飛躍的に高まってきたのは、肌で感じる今日この頃だから。 そのために、私がいる。 なのはがいる。 むざむざ死ににいかせるような教練なんか、絶対にしない。 私も、エリオとキャロには、もっと安全に生きてほしかったけど、 二人の選んだ道には、きっとゆずれないものがあるはずだから。 だから、道半ばで倒れたりしないように、最後まで戦える力を、しっかりあげるんだ。 ―――『対超鋼』機動六課、動き出す日は、すぐ近く。 前へ 目次へ 次へ
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仄暗い玉座の間を薄明かりだけが照らす。 暗闇から七人の男女が姿を現す。 玉座には中華風の衣装で煌びやかに着飾った女性が立つ。威厳の割りに、その顔は若く美しい。 「集まったか、八卦集よ」 彼女の声に玉座の下、左右に控える七人が恭しく傅く。 「ついに我ら鉄甲龍の復活の時が来た。長く国際電脳を隠れ蓑としてきたが、もはやその必要はない!今こそ世界を冥府へと変える時ぞ!」 高らかに叫ぶ声に、全員が深深と頭を下げる。 「だが、その前にやらねばならぬことがある……。わかるな?」 七人の内の一人、仮面の男が一礼し答える。 「はっ。裏切り者『木原マサキ』の抹殺、そして彼奴に奪われし『天のゼオライマー』の奪還にございます」 「左様。だが既に木原マサキは死んだとのこと。なれば残るは、天のゼオライマーの時空管理局からの奪還。誰ぞ我こそはという八卦は居らぬか!?」 七人全員がそれに応えた。彼女はしばし悩んだ後に 「耐爬、風のランスターに命ずる!必ずや天のゼオライマーの奪還、もしくは破壊を遂行せよ!」 両目の下に八卦の証である紋を入れた青年を指した。 「御意っ!必ずや御期待に応えて見せましょうぞ!」 彼は勇ましく答える。それは彼女――幽羅帝への忠誠。だが、それだけではない。 一瞬、彼女が耐爬に送った、切なげな視線に気付く者は何人いただろうか。 また、自らが去った後の、幾人かの耐爬への嘲笑を彼女は気付かなかっただろうか。 後にこの事件は、一般には『鉄甲龍事件』と呼ばれることになる。だが、真実を知る一部の人々はこう呼んだ。『冥王事件』――と。 魔法少女リリカルなのは―MEIOU 第一話「冥王、黄昏に降臨す」 「鉄甲龍……ですか?」 居酒屋風、否、居酒屋のカウンターに男女二人が腰掛けている。 一人は八神はやて。時空管理局 本局古代遺物管理部 機動六課部隊長である。仰々しい肩書きだが、19歳という年齢からはそうとわかるものは少ないだろう。 「ああ、別名ハウドラゴン。現在は動きを見せてないがな。多分水面下で活動してるんだろう」 もう一人はゲンヤ・ナカジマ。陸上警備隊第108部隊の隊長だ。階級ははやてが上ではあるが、それを感じさせない砕けた口調だ。研修中に彼女の面倒を見た関係で、今でも相談に乗ることがある。 「せやけど、次元世界を股にかけて活動するなんてできるんですか?」 「まあ、普通は無理だろうな。だが、奴らはおそらく独自の次元空間航行船、いや要塞を持っている。本局レベルのものをな」 「そんな……」 それほどの組織が何故、今活動していないのか。疑問は尽きない。 「連中のテクノロジーは管理局と同等かそれ以上。位置を悟らせない何らかの仕掛けがあるんだろう。組織も局と違って一枚岩だ」 「何でナカジマ三佐はそんなに詳しいんですか?」 はやての疑問は当然のことだろう。一介の部隊長が知っていることではない。 はやても今まで聞いたことすらなかった。 「昔……ちょっとな」 「はぁ……」 僅かにゲンヤの顔が曇った。が、すぐに笑って誤魔化した。 「ともかくだ、八神。鉄甲龍という名を覚えておけ。だが、できればこのまま忘れることができればいいんだがな……」 「わかりました。ありがとうございました、ナカジマ三佐」 「いや、休みだってのにこっちから呼んで悪かったな」 「いえ、今日は話せてよかったです。失礼します」 鉄甲龍――店を出た後もその言葉が頭から離れなかった。 その日、ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマはいつもの休暇を満喫すべく、街に繰り出していた。 ウィンドウショッピングに買い食い等々をたっぷり楽しみ、さあ帰ろうかという頃。既に太陽は落ちかけ、街は朱に染まろうとしている。 二人乗りのバイクを走らせていると、懐かしい姿を見つけた。向こうも驚いてバイクを急停止させる。 「美久!?」 彼女は確かに氷室美久だった。二人の魔法学校の同期生。流れるような美しい栗毛、大きな瞳はまるで卒業当時から変わっていない。顔立ちも髪の長さもそのまま、背だけが少し伸びただろうか。 「スバル……ティアナ?」 彼女もスバル達を見て驚いているようだ。 「うん!久しぶりじゃん!」 スバルはつい懐かしくて手を握る。すると彼女も昔のように微笑み返してくれた。 「ほんと、久しぶりね。二人とも元気そう」 「まぁ、元気じゃなきゃ勤まらないしね」 「そうそう。身体が資本だから」 そんな他愛ない会話を交わす。それは15の少女らしい姦しいやり取りだった。 「そういえばさ、美久って確か本局勤務じゃなかったっけ?」 「何かミッドに用でもあるの?」 「あ……うん。そうなんだけどね……」 その話題になると急に歯切れが悪くなってしまった。困った顔で俯いてしまう。 「(ちょっとスバル。あんまり聞かないほうがいいかもしれないわよ。辞めちゃったとかかもしれないし)」 ティアナがスバルに念話を飛ばす。 「(あ、うん。そうだね、ごめん)」 スバルはこういったことに少々疎いので、ティアナのフォローはありがたい。 「いいよ。また今度、都合が合えば同窓会でもしよ?」 スバル達が気を使ったのがわかったのか、美久はほっとした顔で微笑む。 「うん、そうね。ありがとう」 そう言って彼女達は別れる。後はこのまま隊舎に帰り、残り少ない休日を楽しみ、明日に備えて眠る――はずだった。 「ティア!あれっ!」 二人の背後に輝いていたはずの太陽が突如、覆い隠される。 スバルの指の指す先には巨大な翼を開いた白いロボット、50mはあるだろうか。 「なに……あれ?」 バイクを横転しそうな勢いで止めたティアナはそう呟いた。いや、それだけしか話せなかった。 「どこだぁ!!ゼオライマー!!」 ロボットは訳のわからない言葉を叫びながら降下した。 足元の建物を踏み潰しながら、肩からは竜巻を放出しながら物や人を巻き上げていく。 街はあっと言う間に悲鳴に包まれ、人々は逃げ出した――しかし、どこへ逃げればいいのか?それもわからず、ただ、あのロボットから少しでも遠くへ逃げようとしている。 「と、とりあえず報告しよう!」 「そ、そうね!指示を仰がないと!」 その当然の答えにたどり着くのさえ、時間を要した。報告をしようとした時、上から自分達を呼ぶ声に気付く。 「スバル、ティア!」 「なのはさん!」 スバルとティアの上司、高町なのは一等空尉である。彼女は既にデバイスを発動させ、バリアジャケットをその身に纏っていた。 「なのはさん!何なんですか、あれ!」 「落ち着いて、二人とも!」 すっかりパニックになりかけている二人をまず落ち着かせる。 「あのロボット、こっちの呼びかけには全然答えようとはしない。私とフェイトちゃんは戦いに出ようとしたんだけど、上から強力なストップがかかったみたいなの。だから今は避難誘導を急ごう。二人も手伝って!」 「は、はい」 それぞれのデバイスを構え、 「マッハキャリバー!」 「クロスミラージュ!」 「セットアップ!」 『Standby,Ready』 同時に二人はデバイスを起動、バリアジャケットを纏う――瓦礫の撤去や障害物の破壊、攻撃を受けた時のためだ。 「それじゃあ、よろしく!」 なのはは再び飛び去り、スバルとティアナは顔を見合わせ頷くと走り出した。 なのはは避難誘導を急ぐ。 だが、何故上からのストップがかかったのか。それだけは気になって仕方がなかった。 こうしている間にもロボットは建物を吹き飛ばし、踏みにじっているというのに。 だが、その答えはすぐにわかった―― 「っ!公園が!?」 近くの公園が割れ、大きなゲートが開く。中からせり上がってきたのは、同じく巨大なロボットだった。 暴れているロボットとデザイン的には近い。各所に突起があり、特に頭部の突起は一際目立つ。 最大の特徴は、両手の甲の丸い球。同じ物が頭部中央にもある。 「またロボット?」 現れたロボットはぎこちない動作で手足を動かした後、背部のバーニアから青い炎を噴出しながら空へと飛び上がる。 「現れたか!ゼオライマー!」 暴れていたロボットは、現れたロボットに反応し、同じく空へと飛び上がる。形状から見て飛行に適しているのだろう。 間接の駆動音を響かせ、翼のロボットが殴りかかる。金属がぶつかり合う轟音は、周囲の悲鳴さえも掻き消す。 殴られたロボットは大きく飛ばされ、車、建物――人を破壊しながら地面を滑っていく。 爆音は更なる悲鳴を呼び、炎は薄暗くなった空を照らす。 倒れたロボットは再度飛び上がるが、風に煽られバランスを崩す。そこに敵の攻撃を受け転倒。 それを何度か繰り返し、やがて完全にロボットは沈黙した。 「何と呆気ない……これが天の力か……?」 エンジンが止まったのか、両手と頭の球体の光も完全に消えてしまっている。 「なのはちゃん!たった今、上から命令が下された。避難完了まで、できるだけ時間稼いで!」 「了解!」 はやての通信にも疑問が残る――この事態に攻撃にストップをかけておいて、ロボットがやられると今更戦えと言ってくる、上の指揮には明らかに不自然な点があった。 だが、今はそうも言ってられない。すぐにその考えを振り払った。 「時空管理局です!直ちに攻撃を停止し――っ!」 最後まで言い終えないうちに突風が真横を通り抜ける。ロボットは完全になのはに向き直っていた。 「邪魔をするな!管理局の魔導士!」 「そっちがその気なら……!」 なのはもレイジングハートを構える。 あれだけの巨体だ。殴られただけでも完全に防ぎきることはできないだろう。だが、懐に入ることができれば――。 『Accel Shooter』 高速で接近しつつ光弾を発射する。無数の光弾は尾を引きつつ、全てが着弾した。 「駄目っ!威力が低すぎる!」 アクセルシューターではかすり傷程度しか負わせることができない。 なのはの弱みはそれだけではなかった。 自分とロボットの下には未だ多くの市民が残っている。 彼女はロボットを市街地から引き離そうとも試みたが誘いにも乗ろうとはしない。余程もう一体のロボットから離れたくないのか。 それとも市街地の上なら全力の攻撃もできないと考えているのか――。 (距離を取って、全力の砲撃で撃墜できたとしても、あの巨体が落下して爆発すれば被害はかなりのものになる……!) それがなのはの攻撃を鈍らせている。 「邪魔をするなら、貴様から死んでもらうぞ!デェッド!ロン!フゥーン!」 ロボットの肩から六つの巨大な竜巻が放出され、外から内へ、囲むようになのはを包みこんでいった。 「きゃあああああああ!!」 竜巻の中では上下左右の感覚すら失われる―― フィールドやバリアジャケットが削られていくのを感じる―― (このままじゃ……!) なのははできる限り最大のバリアを張る。 そのことでダメージは軽減され、竜巻の中で体勢を立て直すこともできた。 レイジングハートを構える。 「ディバイン……」 狙いは一点、竜巻の隙間から見えるロボット、その肩。 魔法陣が杖を囲む――意識を集中させ、掛け声と共に一気に解き放つ。 「バスター!!」 収束された桜色の魔力光はロボットの右肩の、風の噴射口に突き刺さり爆発した。 「ぐぅぅぅぅぅ!!」 突然の反撃に驚いたのか、ロボットは肩を抑えて仰け反る。 弱まった竜巻を突破したなのはは再びロボットと対峙した。双方とも中距離で睨み合う。 一触即発の空気が流れる。下はまだ避難する市民や車の、悲鳴やクラクションでうるさいのに、上空は不思議な程静かだ。 「さっきは随分とやってくれたようだな……」 それを引き裂いた声は―― 「小さい……?」 「ゼオライマー!?」 なのはとロボットは同時に驚きの言葉を口にした。 「八卦……『風のランスター』か……」 なのはとロボットの間に浮かんでいるのは確かにさっきやられたはずのロボット――否、ロボットの形をした鎧だ。なのはと大きさはそう変わらない。 若干角が丸みを帯びているが、全体のシルエットは全く変わっていない。違う点といえば、両手の甲の球体が金色に光り、胸部の穴に光が灯っていることくらいか。 「やはりデバイスの形に切り替えたのは正解だったようだ……。ハリボテのゼオライマーとはいえ、十五年間『鉄甲龍』と管理局の馬鹿共を釣る餌くらいにはなってくれたようだな」 鎧の中から聞こえてくるのは若々しい少年の声だ。だが、その響きはとても冷酷なものに思えた。 「貴様がっ!真のゼオライマーだとでも言うのかぁ!!」 激昂したランスターが鎧に対して拳を叩きつけるも、拳は彼には届かなかった。 「バリア!?」 巨大な拳を受け止める程の強力なバリアが展開されている。 「そうだ……これこそが真なる『天のゼオライマー』!!」 冷酷で、それでいて心底楽しそうな声。 (この人……自分の力に酔っている……!) 「その証を見せてやろう……!」 ゼオライマーは右手をランスターへと向ける。手の甲の光球が光を増す。 そして光球から、ゼオライマーの何倍もの大きさの光の帯が走った。 「ぐうっ!!」 光はランスターの右腕を付け根まで消滅させる。 「次元連結システムは正常に稼動……。小型化しても威力に大差はなさそうだ」 次元連結システム――なのはには聞き覚えのない言葉だ。 ゼオライマーは左腕の光球をランスターへと向ける。 「次は……これでどうだ?」 光球が一瞬輝くと、ランスターの右足が爆発し、地面に落下する。 またランスターもバランスを崩して落下していく。 「クックック、貴様に同じ台詞を返してやろう。"何と呆気ない"」 そう言って、また彼は笑った。まるで地を這う蟻を見下すように、天から人を見下す神のように―― 「では……そろそろ終わりにするか……」 ゼオライマーは両腕を高々と天に掲げた。両手と胸の光は更に輝きを増す。 これ以上は危険だ。 「止めなさい!もう決着はついてます!」 なのははレイジングハートを構えた。 それは直感的な行動に過ぎない。後々罰を受けるかもしれない。 それでも――この光は止めなければならない。 彼はなのはを見ようともせず、 「ふんっ」 軽く鼻を鳴らしただけだった。 「ディバインバスター!!」 彼が鼻を鳴らすと同時に放ったディバインバスター。 彼はランスターの拳をバリアで受け止めていた。そのことを考慮して、制限があるとはいえ、全力全開のディバインバスターを放った。 しかし、ディバインバスターが当たる直前にその姿が一瞬幻影のように掻き消え、再び現れた。 「そんな!?」 「冥王の力の前に――」 両手と胸の光はもはや直視できないほどに輝いている。 「負けられんっ!この戦だけはぁぁぁぁぁ!!」 ランスターはなんとか身を起こし、『天』へと手を伸ばす。 「駄目ぇー!!」 「消え去るがいい!!」 なのはの叫びも空しく、ゼオライマーは両手を胸の前で突き合わせる。輝きが最大に達した時、地上に光が生まれた―― 地を覆い尽くす光は、ランスターを中心に家を、街を飲み込んでいく。『天』を見上げる数百の人々と共に―― その光は見る者全てを恐怖させた。それは指令所でモニターを見ていたはやて、少し離れていた場所で部下に指揮を出すフェイトも同様に。 身体が小刻みに震えるのを抑えることができない。厳密には、それは力への恐怖ではなく、多くの罪も無い人々を躊躇いなく消滅させることのできる者への恐怖――。 それはもはや人ではなく、まさしく――『冥王』。 「クックックッ……アーッハッハッハ――!!」 ならば今、なのはの前で笑っているこの男は――。 「そうだっ!ティア!スバル!聞こえる!?応答して!」 念話にも返事は返ってこない。 「まさか……」 眼下に広がる光を見る。広範囲に渡って街を包むそれは、まだ一向に消える様子はない。 この日、時空管理局は大規模な次元震を観測した―― 目次へ 次へ
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Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI ぎん、と。 鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。 驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。 バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。 荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。 自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。 おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。 断言しよう。こいつは強い。 自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。 それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。 いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。 仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。 もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。 どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。 それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。 つまり、アンデルセンは無敵ではない。 であれば、倒せる。 ばさ、と。 背後の片翼を羽ばたかせた。 戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。 相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。 そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。 敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。 舌打ちと共に振り返るアンデルセン。 さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。 「はぁっ!」 気合と共に、一閃。 振り向くその刹那に、一撃。 バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。 肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。 この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。 使うと擦り減る。勿体ない。 故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。 だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。 「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」 「ブリザガ!」 そして今回は、これだけではない。 ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。 故に、戦い方を変える。 突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。 マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。 迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。 命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。 自慢の再生は中断される。 「ぬおっ……」 「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」 「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」 ぴしっ、と。 ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。 そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。 込められた気合が。発揮される気迫が。 氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。 当然の帰結だ。 そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。 であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。 だが。 「――氷を砕くために、その足を止める!」 それが狙いだ。 突撃。すれ違いざまに、また一閃。 氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。 当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。 治り始めたところを、また即座に氷結。 「俺がその隙を許すと思ったか」 再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。 これが彼の狙いだ。 いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。 これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。 だが、ここにいるのは常人ではない。 アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。 互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。 回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。 これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。 無論、だからといって楽に勝てるわけではない。 普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。 自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。 ばさ、と羽ばたく。 怒濤の三撃目を叩き込まんと。 「チィッ!」 されど、回避。 まさしく紙一重。 その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。 お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。 鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。 これも回避。 振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。 大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。 (防御を捨ててきたか!) さすがにそう簡単にはいかないようだ。 この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。 素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。 「Amen!」 そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。 これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。 ぎん、と。 弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。 やはり手ごわい。 再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。 少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。 鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。 間違いない。 これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。 このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。 そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。 ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。 そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。 びゅん、と。 純白の翼が疾風と化す。 眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。 振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。 そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」 「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」 一度斬りかかれば反撃も一度。 二度打ちかかってくれば反撃も二度。 十度の攻撃は十度の反撃。 百度の猛攻は百度の反撃。 目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。 さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。 激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。 アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。 一歩も押せず、一歩も引かず。 両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。 パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。 しかし、均衡は崩れなかった。 どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。 「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」 「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」 ただありのままに、互いの一撃一撃を。 憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。 そして―― 《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》 剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。 ◆ 今のは何だ。 ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。 それはアンジール達も同じようだ。 互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。 アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。 大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。 であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。 轟、と。 地鳴りのような音が響く。 いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。 揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。 陽炎を起こす炎の音だ。 そしてその音源は――――――北から来る! 「いかん……チンク、逃げろッ!」 アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。 一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。 「なっ……!」 鬼だ。 まさしく炎の鬼の姿。 屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。 凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。 溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。 理性で判断している余裕などない。 一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。 かわせるか。いいや、かわすしかない。 あんなものを食らってはひとたまりもない。 かっ、と。 地面を叩き、バックステップ。 思い出したように、ハードシェルの準備を整える。 だが。 その時には既に遅かった。 一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。 「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」 炎がその身に襲いかかった。 ◆ 単刀直入に言おう。 この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。 その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。 クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。 事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。 だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。 召喚獣の破壊力は絶大。 骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。 まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。 そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。 まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。 雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。 続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。 たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。 間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。 真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。 そして、アレクサンド・アンデルセン。 いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。 彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。 故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。 そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは―― ――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。 ◆ 凄まじい圧力を身体に感じている。 凄まじい熱量が身体を舐めている。 抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。 くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。 そうだ。これこそが真の化物だ。 人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。 掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。 だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。 殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。 語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。 偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。 それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。 それがどうした。 そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。 絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。 既に身体は動かない。 アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。 再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。 情けない。 何だこの体たらくは。 法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。 このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。 アンジールやチンクを放置したまま。 あの男との決着もつけられぬまま。 ――アーカードを殺せぬまま。 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】 【残り人数:42人】 ※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。 道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。 ※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。 アレクサンド・アンデルセンは死んだ。 道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。 それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。 だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。 もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。 「……チンク……」 肩を震わせ、呟く。 視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。 何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。 姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。 小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。 いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。 ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。 「俺はまた……守れなかったのか……」 彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。 肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。 間に合わなかった。 イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。 その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。 地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。 自分のせいだ。 自分の力不足が彼女を殺した。 あの時回避をチンクに任せなければ。 距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。 2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。 「……くそ……ッ!」 後悔が。絶望が。 男の顔を、歪ませる。 【1日目 午前】 【現在地 G-6 大通り】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 全てを見ていた者がいた。 戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。 黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。 薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。 「……お疲れ様」 ぽつり、と呟いた。 視線の先にある、宝石のような球体へと。 マテリアだ。 魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。 人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。 そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。 対応する召喚獣の名は、イフリート。 そう。 彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。 スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。 全てはほんの偶然だった。 元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。 しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。 ――あの光と風に従ってみよう、と。 ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。 あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。 少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。 あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。 幸いにも、ここからもそう遠くない。 生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。 そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。 そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。 切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。 ちょうどいい。 3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。 起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。 見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。 体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。 しかし、1つだけ不満がある。 あれだけの猛威を振るっておきながら。 「殺せたのは1人だけ……か……」 【1日目 午前】 【現在地 F-6 大通り】 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念 【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現! 【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン 【思考】 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。 2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。 3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。 4.一応18時に地上本部へ行ってみる? 5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。 【備考】 ※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。 ※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。 ※ユーノが人間であると知りました。 ふらり、ふらり、と。 おぼつかない足取りが、前へと進む。 ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。 火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。 チンクは生きていた。 ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。 イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。 そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。 考えるべき事項はいくつかあった。 アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。 見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。 何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。 だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。 それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。 ぼとり、と。 コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。 それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。 「……参ったな、ディエチ……」 か細い声が、呟く。 天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。 地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。 爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。 その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。 全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。 だが、その代償もある。 それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。 アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。 「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」 す、と。 金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。 【1日目 午前】 【G-7 デュエルアカデミア外部】 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA s、 被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、 大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕 【思考】 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。 1.ディエチ……姉は…… 2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。 3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。 4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。 5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。 6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。 7.十代に多少の興味。 8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。 9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。 10.天上院を手駒とする。 【備考】 ※制限に気付きました。 ※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。 ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。 ※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。 ※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は 皆同一人物の可能性が高いと考えています。 ※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。 ※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。 協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車 保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた 要注意人物……十代 ※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。 ※アンデルセンが死んだことに気付いていません。 ※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。 ※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。 ※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。 Back Burning Dark(前編) 時系列順で読む Next Paradise Lost(前編) 投下順で読む Next 銀色の夜天(前編) チンク Next 過去 から の 刺客(前編) アレクサンド・アンデルセン GAME OVER アンジール・ヒューレー Next Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) ルーテシア・アルピーノ Next 過去 から の 刺客(前編)