約 2,188,129 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2132.html
2話 南光太郎は砕けない 夜遅も遅いということで光太郎はなのはに寝床を紹介してもらった。 明日は自分についての事情聴取があるらしい。 ゴルゴムとの決戦、空港火災での救助を経て光太郎の体力は限界だった。 精神的にはゴルゴムの壊滅によって少し気が楽になったが、 信彦の事を考えると、シャドームーンの魂がまた何かをしてしまうのではないかと考えてしまう。 そして、ここは異世界。 やはり、光太郎に安心はおとずれなかった。 体力も限界に達している今、 意図せずとも瞼が落ち、光太郎は眠りに落ちていった。 ここはどこだろうか? そこは、何もない真っ暗闇の空間。 光太郎が辺りを警戒しながら見渡すと、太陽のように輝く球体があった。 『光太郎、光太郎…』 脳に直接、声が響いてくる。どんな抵抗をしても聞こえてきそうだ。 「だれだ貴様は!?」 予期せず事態に、光太郎は反射的に構え、警戒をする。 『私はキングストーンお前の魂さ…』 「僕の魂・・・」 『光太郎・・・創世王の無茶な移転から、この世界に導くために我が体は傷つき お前の変身が不完全になってしまった』 『おそらく、シャドームーンも同様だろう…』 『そしてお前はこの先、再びシャドームーンと戦うことになるだろう それがお前の宿命でもある』 「そんな宿命なんて嫌だ!僕はみとめない!」 光太郎は即座に否定する。 (創世王との戦いの時、シャドームーン・・・いや、信彦に渡したシャドーサーベルが 僕が求めた時に確かにここへ来た!信彦が握っていたはずなのに! あの時も、僕が信彦に敗れ死んでしまった時に とどめを!キングストーンを取り出さなかった!!) 光太郎は信彦が人間の心にもどる可能性を信じ続ける。 ・・・信じ続けたい・・・それは彼の願いかもしれない。 『やはり受け入れぬか・・・』 『光太郎、今のお前の力は不完全だ』 『だが、光太郎・・・ゴルゴムとの戦いは、お前に自身にも凄まじい力を与えた 力だけでない、経験、判断、機転、すべてを成長させた』 『その力を使えば初めは賞賛するだろうが やがて人々はお前を恐れるだろう』 『賢き道をゆけ、光太郎・・・』 「……夢だったのか?……」 そう呟いた、朝を迎えた光太郎の首には 太陽の光を受けながら輝く、一つの赤い宝玉が掛かっていた… 「これから、いくつかの質問をしますので、それに答えてください」 金色の髪をした女性、フェイトがハキハキとした声で言う。 なのはのことといい、この世界ではこの年で働くのは当たり前なのだろうか? そんなことを考えながら、光太郎はフェイトの事務的な声につられ、丁寧に返事をする。 まず聞かれたのは、出身世界のことだ。 出身世界という彼の常識ではまず聞かないような言葉だ。 幸い、なのはからは事前にこの世界の常識や管理局の仕事についてはある程度説明されている。 当然だが地球と答えた。 次は、デバイスの出所だ。 今確かに、光太郎はデバイスをもっている…ということにしている。 あれはキングストーンなのだが、今は同じようなものだ。 光太郎は、ゴルゴムという組織から逃げ出すために奪ったと答えた。 ……あながち間違えでもないかもしれない。 そして自分は、ゴルゴムと戦い、滅ぼした時に道ずれにこの世界に飛ばされたと答える。 大まかな内容はこんなものだ。 光太郎は言っていないことがある。 一つ目は自分と信彦はゴルゴムによって改造された改造人間であること。 改造人間といっても、ゴルゴムの王、創生王になるために造られたもので ゴルゴム脅威の技術力を結集させたものでもある。 そして、信彦はゴルゴムによって洗脳され、自分と戦っていたことだ。 自分は改造人間だ。 こんなことを言ったとしても、そう簡単には信じてもらえはしないだろう。 それに人間ではないなんて思いたくも、言いたくもない。 「それで光太郎さんって、どないひとやったの?」 茶髪の女性、八神はやてが目を輝かせながらなのはに質問をする。 「一言でいえば熱い人かな? 初対面の時に敵と勘違いされてね、その時の表情はすごく怖かったなぁ でも、女の子を助けた時の表情はとても優しくて、とてもうれしそうだった…」 「まさか、なのはちゃんが敵と間違えられるなんてなあ なのはちゃん、かぁいいのに」 「あはは…魔術師を初めて見たからかな?」 さすがになのはも初対面でいきなり敵扱いはショックだったみたいだ。 「でも、いいひとなんやろ?」 「うん、そうだと思うよ」 救助を終え、再び出会った時にみせた時の笑顔 それはなぜか、なのはにはその笑顔がなぜかさみしそうに見えた… 2回ドアをノックする軽快な音が響く。 「なのは、はやて、私だけど」 フェイトが光太郎の聴取を終えてきたらしい。 「フェイトちゃん、待って、今あけるから」 そういうとなのははドアの鍵を開ける。 「ありがとう」 そう一言いって、フェイトは公務用の服を脱ぐと なのは達がいるベッドに、フゥと一息はいて腰をかけた。 「お疲れ様。どうだった?」 「まず、あの人はなのはとはやてと同じ地球出身、 それだけだったら、もう解決なんだけど…」 「なにかワケありみたいやね」 「彼、向こうの世界で、ある組織と戦って身寄りの人々を失ってしまったの」 フェイトの言葉に、なのはとはやての顔から笑みが消える。 「それに、転移の影響で兄弟同然の友達と離れ離れになってしまっていて その人を見つけない限り、自分だけ帰ることなどできない ……そう、言っていたの」 なのは、フェイト、はやての3人は並々ならぬ親友である。 もし、誰か一人でもいなくなってしまったなら、どんなことをしてでも見つけたいと思うだろう。 その点、3人は親友を失ってしまうことの辛さがよくわかっていた。 自分にとって、大切な人がいなくなってしまったらどんなに辛いか、 そんな暗いことをだれもが思い、重い空気がながれる…… 「す、少し、暗くなってしもうたな、光太郎さん実践経験はあるそうなんやろ? なんやら、実力を見てみたいな、もちろん本人がよかったらやけど」 重い空気を変えようとはやてが、新しい話題を持ち出す。 「なら、私が相談してみる」 そうフェイトが言い、話を進める。 「じゃあ、フェイトちゃん、よろしく頼むな。 あと、もう一つ、聞いてもらいたいことがあるんやけど……」 そして、彼女は新部隊を造るというを夢を話し始めるのであった。 夢を語る彼女は、確かに輝いていた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/314.html
どうして、其処にいるの──。どうして、此方に来ないの──。 其処には何も無いよ──。辛いだけ。苦しいだけ。寂しいだけ。虚しいだけ。 だから、早く此方に来ようよ──。皆が待ってるんだよ──。最初は怖いかもしれな いけれど、そんなの全然大丈夫だよ──。 此処には──。 此処には──神様がいるの──。 / アースラ艦橋の艦長席に腰掛け、クロノ・ハラオウンは思案気に頬杖をついていた。 艦内は今休憩中であり、殆どの艦橋要員は現場を出払い、各々が艦内の箇所で息抜き をしている。 彼は私的な電子書簡の画面を閉じると、長文を読破した疲労や其れに付随する心労に 嘆息を吐いた。 「また義妹さんから? 本当、仲がいいのね」彼の婚約者は湯気の立つ湯呑みを手に近 寄る。 「なのはは教導隊の長期実習で多忙らしいしな。反面、此方は軽い偵察続きで暇は暇だ し、話し相手位なら御安い御用さ」 「まさか、話し相手以上の事、してないでしょうね?」 エイミィは茶色い髪の下で、表情に女としての疑念を閃かせる。クロノは意外な指摘 に間の抜けた声を上げ、彼女の的外れな嫉妬を笑い飛ばした。 「そんなわけ無いだろう。全く。……それにしても、妙だな」 「何がよ」 クロノはエイミィの言及に返答するように、先程まで眼を通していた義妹からの電子 書簡を再び開く。二人の眼前に光学画面が展開された。 エイミィが彼女からの近状報告を黙読していくうち、クロノが抱く疑念に同調するよ うな顔色を見せた。 「此れ、本当に?」 「流石に、真面目な彼女がこんな嘘八百を並べないだろう。確かにヴォルケンリッター が八神はやてと常に合流していなければならない、という処遇規定は無い。だけど、 こんなに急な人事異動は不可解だ」 「本局で何かあったのかな。民間企業への保護観察の特例委託……? しかも地球みた いな辺境次元世界の?」 決して他意の無いエイミィの発言に、将来の夫は少々責めるような目色を向けた。即 座に彼女も幾度かの馴染みを経た世界への冷淡な表現に気付き、気拙そうな愛想笑い で場を取り繕う。 「海鳴市所在の橘総合研究所。電機関連の企業で、会社規模は然程大きくはない。寧ろ、 人員其の他の部分で言えば、中小企業と何ら格差は無い。何処かのダミー企業か? 何故、そんな辺鄙な会社が時空管理局と流通出来ている?」 エイミィが用意してくれた茶を啜りながら、クロノは義妹からの平凡な電子書簡を種 にして様々な憶測を拡大させる。片手間に橘総合研究所の詳細を調べ、其方の結果一 覧を書簡の横に表示する。事業内容には何ら如何わしいものは見当たらないが、英利 政美という社員の事故死を原因にして、会社の風向きが芳しくなくなっている事が彼 の眼を留めた。 「さぁ……。で、四人の主様は今?」 「遠方の管理世界で発見されたロストロギアの調査に出張中だ。学校が春休み明けだと 言うのに、本局は彼女じゃなく、他に誰か嘱託魔導師でも回せなかったのか。何て人 事だ、今度苦情をくれておいてやる」 一度頭に引っ掛かった疑いに釣られ、彼は認識する物事の一つ一つに不平を漏らして いく。そんな艦長を、第一の理解者は包容力のある笑みで見守っていた。 「でも、あの四人が一般社会の厳しさってのを知るいい機会になるんじゃないかな? ザフィーラ以外はOL勤務かな?」 暢気に解釈するエイミィへ、湯飲みを傍の操作盤に置いたクロノは呆れた微笑をした。 「さぁな。簡単に言ってくれるよ」 しかし、その朗らかな顔付きは瞬時に厳然としたものへと移行する。それは積み重ね られた経験からの予感の胎動に触発された、魔導師としての鋭敏な勘によるものだった。 「なのはと八神はやてを欠いた海鳴市……。若しかしたら、地球で再び何かが起ころう としているのかもしれないな」 「……」 クロノの豹変した声色に感化され、エイミィも俄かに頬を強張らせる。アースラ艦内 は依然として長閑な空気に包まれていた。 / 夜を知らない繁華街は、蠢く人の群れに蹂躙されていた。仕事帰りの会社員の酔った 叫び声、奔放な若者の闊歩する裏路地、大通りには列を成す自動車の走行音や警笛音 が引っ切り無しに行き交う。 そんな電飾の世界に、人の眼に紛れて活動する四つの影があった。 「ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、其方は如何だ?」 シグナムは平素を忍ぶ背広姿の儘、切れのある美貌に僅かな焦燥を浮かべていた。往 来に群がる人々の間を器用に潜り抜け、魔導師としての超感覚で目標の所在を捜索する。 「ダメだ、この結界みたいなモンを消さない限り手が打てねぇよ」 ヴィータの弱気な返事にシャマルの戸惑いが続く。前者はビルの上で広域を見回し、 後者はシグナムとは別方角で地道に行動している。 「魔法じゃないんですよ。いえ、魔法なんですけど、魔力が全く感じられないんです。 魔力じゃない魔法……こんな事、絶対に有り得ないんです。有り得るわけがないんです。でも……」 「確かにな。一体何なのだ此れは? 魔法で現実を改変しているのか? いやしかし、 それだけ強力な魔法ならば一切魔力が感知できないなど!」 「狼狽するな。現実を直視しろ」 盾の騎士が同士の困惑を諌める。しかし、その語気には判然と彼女達同様の胸中が滲んでいた。 シグナムが付近で何かが激突する物音を聴き、強烈な不安に駆られて現場に急行する。 残る三人も同じ騒ぎを間も無く察し、澱んだ空気に動揺が漂い始めた繁華街の路地へと騎士が合流する。 「何だ?」「おい、飛び降り自殺だぜ」「か、関係ねぇ! 俺は関係ねぇよ!」 まさに事件の瞬間を目撃した通行人連中が、それぞれの反応で場を騒がせ始めた。 崩れた電光看板の灯火に、悲惨な朱色の液体が混ざっていく。 雑居ビルの屋上から落下し、直下の看板に身を打ちつけて物言わぬようになった小柄 な姿は、私立聖祥大附属中学校の制服を着ていた。 騒然となる女子中学生の自殺現場の一歩後ろで、四人の騎士は異様に冷静な面持ちで 佇んでいた。沈黙に耐え切れず、ヴィータがシグナムを見上げる。 「間違い無い。あの娘は四方田千砂……。任務は失敗だ。撤収し、報告を済ませよう」 四つの騎士の影は、そうして明るい夜の街から消え去っていった。暫くし、パトカーの 警報音がこの路地に近付いてきた。 / フェイト・T・ハラオウンの目覚めは、何時もより沈んだものだった。高町なのはに 続き、八神はやてという大親友の日常の不在が決定してから今日迄、彼女は何処とな く憂鬱な毎日を送っていた。 別に、あの二人だけが自分の人間関係の全てじゃない……そう内心に言い聞かせ、着 替えを済ませたフェイトは、居間に顔を出す。義母は既に朝の家事をしており、和や かに娘へ挨拶を寄越す。 女二人のハラオウン家の朝食も、心成しか沈黙が増えていた。 義母もこの娘の最近の退屈を察してはいたが、言い条何の得策も与えられずにいた。 嘱託魔導師としての仕事も少し間が空き、本業である学生を満喫出来るものの、其処 を存分に実感するには大切な要素が二つ欠落していた。 「また夜遅くまでクロノとメールしていたの?」 弁当を渡しながら、リンディは娘の浮かない顔を覗き込む。 「うん……なのはは忙しくて中々連絡取れないし、はやても邪魔すると悪いから。昨日 はお義兄ちゃんの他にも、すずかとアリサにも」 先日の遣り取りの中で、フェイトは義兄にもヴォルケンリッターがこの街に帰ってき た事を報知していた。しかし、四人は保護観察委託先の業務に手一杯らしく、あまり フェイトとの付き合いは取れていない。 「あんまり自分の都合で、相手に迷惑をかけたら駄目よ」 やんわりとだけ忠告し、リンディは娘の登校を玄関迄見送った。フェイトは靴を履く とリンディについてきたアルフの頭を撫で、通路の向こうへと消えていった。アルフは、 自分の頭に触れるフェイトの掌が、少しだけ寂しげに思えた。 味気の無い学校生活が、淡々と流れては終わった。朝の学級活動で、担任の教師が何 やら同学年の生徒が先日自殺した、その生徒の名を借りた悪戯が横行している、と注 意を呼びかけていたが、フェイトは上の空で聞き流していた。 すずかとアリサから放課後の遊戯に誘われたフェイトだったが、何かと理由をつけて 辞退した。彼女達二人も、なのはとはやてのいない日々に思い沈んでいるフェイトを 慮ってはいるのだが、強いて彼女の心の煩いに踏み込めない空気があった。 茫漠とした気分の儘で、フェイトは帰宅した。義母は家を空けていた。留守を任され ていたアルフへは一応の愛想を見せ、吸い寄せられるような足取りで個室へと向かう。 重々しい溜め息を吐いた傍で、彼女の携帯電話が着信音を奏でた。咄嗟に喜色を浮か べたフェイトは、鞄に仕舞ってあった携帯電話を取り出して嬉々と本体を開く。 少女の顔に落胆と怪訝の色がよぎる。送信主は見知らぬアドレスだった。不気味な気 持ちになったフェイトだったが、少しの間を置いて意を決して本文を開いた。 こんにちわハラオウンさん。 私、四方田千砂。 ハラオウンさんも、私の事、名前だけは知ってるよね──。 フェイトは送られてきた電子書簡の本文を読んだ瞬間、朝の教師の連絡を一気に思い出した。 携帯電話を手にした状態で硬直し、凝然と息を呑む。窓の向こうから聞こえてくる自動 車の排気音が、やけに遠くからのように感じられた。 <続> 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1678.html
余裕 「彼」が立っていたのは森の中。 夜の冷たい風が吹きぬけ、がさがさと葉がこすれあう風景は、これから始まる狂気の殺人ゲームの空気を的確に表現する。 しかしながら、「彼」はその場に似つかわしくないほど、ひどく落ち着いていた。 「…ひとまず、支給品とやらを調べてみるか」 「彼」――セフィロスは、持っていたデイバッグをどんと地面に置くと、その中身を調べ始めた。 目の前で唐突に命を奪われた、金髪の少女と鎧の男。 明らかに異常な光景だったが、それは彼の心を震わせるには至らない。 何故なら、当にセフィロスは殺しまくっていたから。 軍人だから、というわけではない。 確かにソルジャークラス1stという栄光は、彼が斬り伏せた数多の人間の血によって塗り固められたものである。 しかし、この男の「殺した」とは、そういう人が人を殺すこととは違う。 強いて言うなら、道端を歩く虫を殺すのと同じ感覚。 セフィロスにとっての人間は、犬や猫などの動物と同じ。 何故なら、当のセフィロスが人間ではないのだから。 「武器として使えるのは――これか」 『 クロスミラージュ 「機動六課」前線フォワード部隊の一員が用いる、拳銃型インテリジェントデバイス。 通常形態のガンズモード、クロスレンジ用のダガーモード、ロングレンジ用のブレイズモードに変形』 見覚えのある武器だったのは幸いであろう。 これはティアナの使用している二挺拳銃のデバイスだ。 各種レンジに対応したモードが備え付けてあり、あらゆる戦況でそつなく使用することができる。 しかし、それでも尚、セフィロスには腑に落ちないところがあったようだ。 「…よりにもよって銃か…」 ソルジャーは銃を使わない。彼らの超人的な肉体を活かすのは、銃ではないからだ。 普段剣で戦っている彼にとって、銃はあまり使い慣れたものではない。どうしても不便な印象が残る。 ダガーモードがあるだけましかもしれないが、それも正宗に比べれば絶望的なリーチ差だ。 せめてレヴァンティンならばよかったのだが。 そんな思考が、セフィロスの脳裏をよぎった。 愚痴っていても始まらないので、彼は再び荷物を漁り始める。 新たに見つけたのは、1枚の紙切れ。 一般に言うトレーディングカードゲームだ。聖職者のような服装をした、中年の女性が描かれている。 『 治療の神 ディアン・ケト デュエルディスクにセットすることで発動可能。自分のライフポイントを1000回復する』 ライフポイントを回復する、ということは、要するに治療のためのものなのだろう。 セフィロスはそう解釈することにした。 「それにしても…何故そのデュエルディスクとやらも付属していないんだ…」 そしてまた愚痴をこぼし、ため息をつく。 それらしいものが見られない以上、どうやら今のところ、この治療用具は宝の持ち腐れらしい。 まったくもって装備に不満が多すぎる。 しかし、これが基本なのだろう。でなければゲームとしては面白くない。 少なくとも、傍観している側からは。 ならば、欲しいものは相手から奪い取れ、ということか。 「…クロスミラージュ・セットアップ」 セフィロスはそう呟き、待機状態のクロスミラージュをアクティブにする。 すぐさま、ティアナが愛用していたハンドガンの片割れが姿を現した。 「今は俺がお前を使うことになっている」 『Yes,Sir.』 あまりにあっさりとした返答だ。 普通の人格型デバイスなら、持ち主以外が使用する時には何らかのリアクションを示すだろう。 であれば、何らかの改造が施されているということか。 メモリーを消去するなり、あるいは、誰が所有者であろうと命令を聞くようにするなり。 「技は何が使える?」 だとすると、機能の方にも何らかの変化があるのかもしれない。 そう判断し、ひとまずセフィロスは問いただす。 『クロスファイアシュート、ファントムブレイザー、…』 読み上げられた名称は、全てティアナが用いていた技のもの。 どうやら彼女個人のテクニックである幻術魔法以外は、一通り使用できるらしい。 「十分だ」 そう独りごちると、セフィロスはデイバッグを持ち上げた。 そのまま周囲を見回し、適当な木の洞を見つける。 そこそこに大きな木の根元にぽっかりと空いたそこは、人1人が入るには申し分ない大きさだ。 セフィロスはそこにデイバッグを投げ入れると、自身もその中に入り、どっかと腰を落ち着かせた。 あぐらをかいて座ること数分。参加者の名前が載った名簿を読むことすらしない。 『どうされるつもりですか、サー?』 クロスミラージュが問いかけた。 常人を遥かに凌駕した、侵略者ジェノバの力をその身に宿す魔人。 そのセフィロスは、今後この狂気渦巻く戦場でいかに立ち回るつもりなのか、と。 「特に何も」 返ってきた返事は、あまりに予想外なものだった。 『What?』 無口なはずのクロスミラージュが、たまらず聞き返す。 「俺は特に何もしない。じたばたするよりは、周りが殺し合ってくれた方が楽に生き残れるだろう」 セフィロスはそう答えた。 彼は知っている。 こういう極限状態ならば、必ず何人かは、制限時間切れの死亡を避けるために進んで殺人者となることを。 自分が無理に動く必要はまるでない。手間がかかるだけだ。 普通は思いつかない戦術。それをすんなりと思いつけるほどに、セフィロスは落ち着いていた。 人が死んだ? 目の前で殺された? そんなこと、元より知ったことではないのだから。 『もしも、敵に見つかった時は?』 「さすがにその時は反撃するまでだ」 逆に、自分が誰かを殺すことにも心は痛まない。 そもそも彼にとって殺人は願望だ。自分の住む星の人間を皆殺しにし、支配することがジェノバの――そして、セフィロスの悲願。 『仮に、お知り合いが攻撃を仕掛けてきた時は?』 クロスミラージュは尚も問いかける。 脳裏に浮かぶのは、機動六課で共に戦った者達。あの会場にも見られた、孤独な自分を受け入れてくれた人達。 ジェノバとしての使命を受け入れて以来できた、初めての仲間。 誰よりも、全てのきっかけとなった、あの短い茶髪の女。 「…どうにでもなるさ」 しかし、非情な声で、セフィロスは答えた。 【一日目 AM0 13】 【現在地:H-1 森林】 【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [状態] 健康 [装備] クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS [道具] 支給品一式・魔法カード「治療の神 ディアン・ケト」@リリカル遊戯王GX [思考・状況] 基本 事態を静観し、潰し合うのを待つ 1 とりあえず禁止エリアだけを警戒すればいいか 2 向かってくるのならば、六課の連中だろうと問答無用で殺す 3 一応食料は探しておこう [備考] ※能力・思考基準はゆりかご攻防戦直前です ※ヴァリアブルバレットは、コツが分からないので使用不可です 002 本編投下順 004
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3740.html
早朝、シグナムは起きると、庭に出て稽古にいそしんでいた。 背後にかすかだが気配を感じる。本当に些細な気配だが、覚えがある。昨夜の十二神将だろう。 (私の監視といったところか) 昨日、殺気が漏れたのは失敗だった。要注意人物になってしまったらしい。 「確か六合殿と言ったかな?」 声をかけると、六合が姿を現す。夜色の外套に、顔には黒い痣のような模様がある。 「もしよければ稽古に付き合ってもらえないか?」 六合は無言で頷く。もし戦うことになったら、手の内を知っていたほうがやりやすい。互いの利害は一致している。 六合の左腕の銀の腕輪が、長槍に変じる。その構えには一部の隙もない。 「ほう。これは面白くなりそうだ」 シグナムのレヴァンティンと六合の槍の先端が触れる。それを合図に激しい打ち合いが始まった。 「見て見て、シグナム!」 シャマルがはしゃいだ声で近寄ってくる。シグナムも六合も互いの武器を収める。 「こんな素敵な衣見たことない!」 シャマルは色鮮やかな衣を何枚も重ね着していた。動きにくそうだが、とても美しい。はしゃぐのも無理からぬことだろう。 「ああ、よく似合っている」 「って、二人して何してたの?」 シャマルは二人の様子に首をかしげる。 六合もシグナムも息を切らして、顔から大量の汗が流れ落ちている。 「いや、六合殿に稽古に付き合ってもらっていたのだ」 「稽古?」 シャマルはますます首をかしげた。二人はどう見ても全力の試合の後だ。 「いや、あまりに楽しくてな。つい時間を忘れてしまった」 シグナムは朗らかな顔で笑った。 単純な強さだけなら、昨日の化け物のほうがはるかに上だろう。先日戦ったフェイトもスピードは素晴らしかったが、剣の腕前ではシグナムに分がある。 剣の技量だけで自分と互角に戦えるものと出会ったのは、初めてかもしれない。 「・・・・・・シグナム」 シャマルが半眼でつぶやく。 相手の手の内を探り、いざというときに備えるはずが、相手を好敵手として気に入ってしまった。これでは高潔なシグナムが裏切りなどという卑劣な真似をできるはずがない。 「だ、大丈夫だ。使命は忘れていない」 シグナムは必死に弁解するが、その慌て振りが自分の言葉を裏切っている。 「そ、それにあの化け物を退治すればいい。それで万事解決だ」 「本当にバトルマニアなんだから」 シグナムは強引に自分を納得させると、六合に向き直った。 「さて、続きをしようか」 その顔は、まるでお気に入りのおもちゃを見つけた子供のような、明るい笑顔だった。付き合いの長いシャマルも初めて見る表情だ。 六合は無言で頷く。その顔がいささかげんなりとしているのを、シャマルは見逃さなかった。 「動きにくい。わかりにくい。動きにくい」 ヴィータは不機嫌な顔で家の中をうろうろしていた。シャマルに無理やり着せられた着物が、足にまとわりついて歩きにくいことこの上ない。しかも昌浩の家の中は、広くてややこしく迷子になっていた。 「どうしたの?」 部屋から出てきた昌浩と出くわす。 「何でもねーよ。てめえこそどうしたんだよ」 昌浩は髪を結い上げ、黒く長い烏帽子をかぶっている。おそらくこれが彼の正装なのだろう。 「俺はこれから仕事。陰陽寮に出仕しないと」 「仕事~?」 ヴィータは眉をひそめた。目の前の少年はどう見ても、はやてより少し年上くらいだ。それが仕事に行くのは奇妙に思えた。それとも子供っぽいだけで、実年齢はもっと上なのか。 「お前、いくつだよ」 「十三歳」 「おもいっきし子供じゃねえか!」 「こら。俺はこれでも元服を終えた立派な大人なんだよ」 昌浩の台詞にもっくんが半眼になる。 「半人前のくせにえばるな。晴明の孫」 「孫言うな」 言い合いを始める昌浩ともっくんをヴィータはじっと見つめた。おもに肩に乗っているもっくんを。 「どうしたの、びたちゃん?」 「違う! 人を勉強も運動もできない小学生みたいに言うな! ヴィータだ、ヴィータ!」 「ご、ごめん。まだ慣れなくて。それでもっくんがどうかした?」 「もっくん言うな」 文句を言う物の怪を、昌浩は無視する。 「よかったら、触ってみる? もふもふして気持ちいいよ。温かいし」 「おい、本人の承諾も得ずに勝手に話を進めるな」 「ふ、ふん。別にいいよ」 ヴィータはそっぽを向いた。しかし、ちらちらともっくんを見ているので、触りたいのが丸わかりだ。 「はい」 昌浩は笑顔を浮かべて、もっくんを差し出す。 「へっ。仕方ないな。どうしてもって言うなら、触ってやる」 「だから、俺は承知しとらんと言うのに」 もっくんの文句は再び無視された。 ヴィータがおずおずと物の怪に触れる。物の怪はされるがままになっている。 なめらかな手触りに、ぎゅっと抱きしめると適度に柔らかく温かい。その抱き心地のよさにヴィータの顔がほころぶ。 「あ、ありがとう。昌浩」 思わず素直に礼を言ってしまい、ヴィータの顔が赤くなる。それを見られまいとうつむくと、頭を優しく撫でられた。 「触りたくなったら、いつでも言ってね」 「…………お前は気安く触るなー!」 ヴィータの拳が昌浩の鳩尾に突き刺さる。うずくまる昌浩を尻目に、ヴィータはどすどすと足音を立てながら歩いて行った。 (あいつ、むかつくな) どうも誰かに似ている気がする。それがヴィータの心を波立たせるのだ。しばし考えたが、誰に似ているのか答えは出なかった。 朝食の席で、ヴォルケンリッターたちは昌浩の両親に挨拶をした。扱いは晴明の客人ということになっている。 どう考えても怪しいが、晴明の客人ということで、昌浩の両親は無理やり納得したようだった。 朝食を終えると、昌浩と父親はすぐに仕事に行った。 それを見届けると、シグナムたちはあてがわれた部屋に集まる。 「はやての作るご飯が懐かしいぜ」 ヴィータが遠い目で呟いた。焼いた魚やご飯など、食事自体は悪くなかったのだが、全体的に薄味で淡白な物しかないのだ。特に砂糖がないので、甘いものは皆無だった。 「アイス。ケーキ」 「言わないで。私まで恋しくなる」 シャマルも悲しそうだった。早く目的を遂げないと二人がホームシックにかかりそうだった。 シグナムは強引に話を進めることにした。シグナムも朝食の前に、この世界の服装に着替えている。 「とにかく窮奇の居場所を突き止めなければ。シャマル、探索は?」 「今朝からやってるけど、この町にはいないと思う。魔力の痕跡を追っても、途中でぷっつり切れちゃってるの。 あれだけの魔力を持っているのに、隠れることがすごく上手いみたい」 「たちが悪いな」 シグナムが唇を噛みしめる。しかし、十二神将も隠形を会得している。同じ世界にいる窮奇も会得していたとしても不思議ではない。あれを使われては、よほど近くにいない限り、シャマルの探索にも引っかからないだろう。 「一応、探索は続けてくれ。後は我々が地道に探すしかないか」 「でも、この世界の女は顔をさらしちゃいけないんだろ。外に出られないぞ」 それでなくとも、まだこの世界の常識を知らないのだ。自分たちだけで町を歩くのは危険だ。 「私が行こう」 のっそりと狼の姿のザフィーラが立ちあがる。 シグナムたちは気まずげに視線を交わした。 「どうした? 犬の振りをすれば怪しまれないと思うのだが」 「いや、こんなでかい犬が一匹で歩いてたら、大騒ぎになるだろう」 「……ならばこちらなら」 ザフィーラが人間の姿に化ける。シグナムたちはますます難しい顔になる。 「耳と尻尾が生えた人間って、もっと駄目だろう」 「うむ。狼の姿以上に大騒ぎになるな」 ザフィーラは狼の姿に戻って座り込んだ。心なしか寂しげな表情を浮かべている。 あの隠形と言う魔法を本気で学びたくなってくる。 「やっぱり晴明さんの協力を仰ぐべきじゃないからしら?」 「これ以上、あの老人を頼りたくないのだが」 借りを作ったら最後、どんな方法で返せと言われるかわかったものではない。出会った翌日にして、晴明の印象は最悪だった。昌浩が信用できる人柄なだけに、腹に一物ある晴明が際立って悪く見える。 今だってかすかに視線を感じる。恐らく十二神将の誰かが監視をしているのだろう。 こちらのこともどれだけ知っているか、わかったものではない。本当に食えない爺だ。 「やっぱり昌浩が帰ってきてから、夜、一緒に探すしかないか」 ヴィータが片膝を立てながら言った。それに妖怪は夜行性と聞く。昼間に探しても見つけられる可能性は低いだろう。 「それしかないか。シャマルは昌浩殿の母上から、なるべく情報を収集してくれ」 「わかったわ」 シグナムに言われ、シャマルが昌浩の母親の元に向かう。家事手伝いをしながら、この世界の常識を学んでいくのだ。 「わたしたちは?」 「特にすることはないな。体がなまらないよう、気をつけていてくれ」 シグナムがいそいそと立ちあがる。それと同時に騎士服を装着する。六合と稽古の続きをやるのだろう。 「まったくバトルマニアはいいよな」 ヴィータはとことん憂鬱になる。ヴィータとて戦いが嫌いなわけではないが、さすがに一日中武器を振りまわしていたいとは思わない。ゲームもないこの世界では、時間をどう潰していいかわからない。 「ザフィーラ、ゲートボールでもやるか?」 「いや。おとなしくしていよう」 「そっか」 ヴィータは一人で庭に出た。そこに昌浩より少し年下らしい黒髪の少年が立っていた。放たれる魔力から、ヴィータはそれが十二神将であると悟った。 「お前は?」 「十二神将、玄武だ。晴明より、お前の暇つぶしに付き合ってやれと指示された」 玄武が淡々と言った。 どうも子供扱いされている気がしてむかつくが、相手がいないよりはましだ。 「お前、ゲートボールってやったことあるか?」 夕刻、昌浩は仕事を終えて帰路についていた。 「しかし、昌浩や、本当にあいつらを信用していいのか?」 「どうして? 悪い人じゃなさそうだよ?」 「それはそうかもしれんが……」 純粋な眼差しで言われると、もっくんは反論できない。 昌浩は新しい家族が増えたようで嬉しかった。特にヴィータは、末っ子の昌浩にとって、初めての妹同然だ。少々口が悪いのが難点だが。 「ただいま」 昌浩が玄関をくぐると、そこには信じられない光景が広がっていた。 まるで全力疾走の後のように息を切らした六合とシグナム。 無言で、柄の長い金槌のような不思議な道具を使って、球転がしをしているヴィータとよく知らない十二神将。 台所では、夕食の用意をしながら、シャマルと母がまるで旧知の仲のように談笑していた。 昌浩に気がつくと、ヴィータがまなじりを釣り上げて迫ってきた。 「遅い!」 「ええ!?」 「もっと早く帰ってこれねぇのか!?」 「無茶言わないでよ。退出時間は決まってるんだから。これより早くは帰れないよ」 「言い訳するな!」 「はい!」 ヴィータの剣幕に、昌浩は背筋を伸ばす。 ヴィータが不機嫌なのには理由があった。玄武とゲートボールに興じていたのだが、玄武は勝っても負けても無反応で、退屈この上なかったのだ。 「おし、あの化け物を探しに行くぞ!」 「みんな、ご飯よー」 気の抜けたシャマルの声が、ヴィータの気勢をそぐ。 「お、ま、え、はー!」 「まあまあ、腹が減っては戦はできぬっていうし」 昌浩が必死になだめる。その時、ヴィータの腹の虫が盛大な音を立てた。 「ほらね」 「笑ってんじゃねぇ!」 ヴィータの拳が昌浩の顎に炸裂する。 「ほら、さっさと飯にするぞ」 ヴィータがすたすたと歩いて行ってしまう。 「……なんか俺、今朝から殴られてばっかりだ」 「いろいろ大変だな。晴明の孫」 「孫言うな」 痛みに呻いていても、いつものやり取りは忘れない昌浩ともっくんだった。 その頃、都の外れの草原に、なのは、フェイト、クロノの三人が降り立った。 「ここにヴォルケンリッターがいるんだよね?」 「間違いない」 白いバリアジャケットを着た、なのはの問いに、クロノが静かに答える。目の前には古めかしい町並みが広がっている。ヴォルケンリッターの主を見つけ出し、捕まえなければならない。 「行くぞ」 クロノが一歩踏み出す。 その瞬間、虚空から突然人間が現れた。青い髪をした青年に、筋骨隆々とした壮年の男。それに五歳くらいの少女だ。 「何者だ!」 クロノたちはそれぞれデバイスを構える。そこにオペレーターのエイミィから通信が届く。 『気をつけて。分析したところ、そいつら守護騎士に限りなく近い存在みたい』 「奴らの仲間か」 クロノは顔をしかめる。まさかまだ仲間がいるとは思わなかった。それとも集めた魔力で新たに作り出したのか。 「我らの主から、貴様らに伝言がある」 青い髪の青年が声を張り上げる。彼らは十二神将だった。青い髪の青年が青龍、筋骨隆々としているのが白虎、それに女の子が太陰だ。ここに来たのは晴明の指示だ。 「“ここはひいてくれ”以上だ」 「ふざけるな。それだけでおめおめ帰れるものか!」 クロノが怒鳴る。今はっきりと主と言った。つまり闇の書の主はここにいるのだ。絶対に逃がしはしない。 「ならば、力ずくだ!」 青龍が青い光弾を放つ。 クロノたちはとっさに飛行して回避する。 「ほう」 「ちょっと、青龍。相手が人間だったら、どうするのよ」 太陰が苦言を呈する。十二神将には人間を傷つけてはならないという掟があるのだ。 「はっ。足から翼を生やして、空を飛ぶ人間などいるものか。間違いなく妖怪だ」 「今なんか失礼なこと言われなかった?」 なのはが若干涙目で言った。 「覚悟!」 青龍が信じられない跳躍力で、なのはに肉薄する。 「ひっ」 鋭い眼光に、鬼気迫る表情、全身から放射される殺気に、なのはの体がすくむ。 「なのは!」 「お前の相手はこっちだ」 なのはの援護に向かおうとしたフェイトの前に、白虎が立ちふさがる。掘りの深い顔立ちに、たくましい体躯。まるで筋肉の軋む音が聞こえてきそうだ。白狐は険しい顔のまま、鋭い風の刃を放つ。 咄嗟に回避するが、白虎は執拗に攻撃を繰り出す。 「フェイト!」 「行かせない!」 クロノの前には太陰が立ち塞がった。クロノの魔法を、素早い動きでことごとく避けていく。太陰が放つ竜巻を、クロノはどうにかバリアで防ぐ。 戦いはこう着状態だった。お互いに決定打を繰り出せない。 「なのは、フェイト、撤退だ!」 不利を悟ったクロノが撤退を指示する。 青龍たちは、それ以上追撃してこなかった。 アースラに戻ったなのはたちを、リンディ艦長が出迎える。 「お帰りなさい。随分苦戦したみたいね」 「すみません」 クロノは素直に頭を下げる。あんな幼子に翻弄されて、クロノの自尊心はいささか傷ついていた。あまりに幼い容姿なので全力で攻撃できなかったのだが、そんなものは言いわけにならない。 「ですが、こちらの思わぬ弱点が発覚しました」 クロノは、なのはたちを振りかえる。 なのはたちは若干青ざめた表情で立っていた。 「二人とも、どうしたの?」 リンディは心配そうに二人に駆け寄る。これまで二人がこんな様子になったことはない。 「つまり、こういうことです」 クロノがディスプレイに青龍と白虎の顔をアップで映す。 「「ひっ!」」 なのはとフェイトが怯えた顔で抱き合う。 ディスプレイを消してクロノはゆっくりと言った。 「どうやら二人は怒った大人の男性に弱いようです」 「へっ?」 リンディは思わず間の抜けた声を出してしまった。 なのはの父と兄は普段は温厚で、滅多に怒らない。怒る時は怖いのだが、いい子のなのはが怒られたことは、これまで数えるほどだ。 そして、フェイトは母親やアルフなど、生まれてから、大人の男性と接したことがほとんどない。クロノやユーノでは子供すぎる。険しい顔のおっさんと向かい合ったことなど皆無だろう。 「なるほど。二人とも耐性がなかったのね」 リンディが苦笑いを浮かべる。 もしあの戦いで、なのはやフェイトが全力を出せていれば、勝ち目はあっただろう。攻撃力ではこちらに分があるし、あの青い髪の青年は空が飛べないようだった。しかし、完全に委縮してしまっているあの状態では、半分の力も出せるかどうか。 「相手がどこまで考えてあいつらを投入してきたかわかりませんが、状況はかなり厳しいです」 こういった苦手意識は一日や二日で克服できるものではない。徐々に慣れていくしかないのだ。 しかし、クロノ一人でヴォルケンリッターすべてを相手に出来るとも思えない。頭の痛い問題だった。 「だ、大丈夫なの。今度は我慢する」 「そ、そうだよ。私たちなら大丈夫」 なのはとフェイトが拳を握って勢い込む。 クロノが再びディスプレイを映す。 「「ひっ!!」」 「……今度はアルフとユーノを連れて行った方がいいかな」 怯える二人を見ながら、クロノは静かに溜息をついた。 夜警に出かけた昌浩たちは、とりあえず窮奇が逃げて行った方角に向かうことにした。シャマルは家に残ってみんなの支援をすることになっている。 窮奇が町の中にはいないのは間違いないので、かなり遠くまで行かないとといけない。 「そう言えば、君の髪飾り面白いね。ちょっともっくんに似てるかも」 道すがら、昌浩がそっとヴィータの帽子についているウサギの飾りに手を伸ばした。 「触るな!」 パンッと乾いた音がして、ヴィータが昌浩の手を弾く。 よほど強い力で叩かれたのか、昌浩の手が軽く腫れている。さすがにやり過ぎたと、ヴィータはばつが悪くなる。 「ごめん」 しかし、謝ったのは昌浩の方だった。 「なんで謝るんだよ?」 「きっと大事な人からの贈り物なんでしょう? わかるよ。俺にもそういうのあるから」 昌浩は胸元を握りしめた。そこには匂い袋がぶら下がっている。 昌浩は場の空気を変えるように明るい声を出した。 「それにしても、町の外となると行くのが大変だね」 「おい」 歩みを続ける昌浩の服の裾を、ヴィータがつかむ。 「何?」 「どうして飛んでいかない?」 「……だって、俺、飛べないから」 「ふざけんな! あんだけの魔力持ってて飛べないって、どういうことだよ!?」 「いや、俺人間だし、普通は飛べないって」 「んなわけあるかー!」 ヴィータの絶叫が夜の町に轟く。 「落ち着け。近所迷惑だ」 シグナムがそっとヴィータの肩に手を置く。 「この世界ではそれが常識なんだろう。ならば、我々が配慮すればいいことだ」 シグナムがぐいと昌浩を抱き寄せる。体のあちこちに触れる柔らかい感触に、昌浩の顔は真っ赤に染まる。 「シ、シグナム!?」 「喋ると舌をかむぞ」 シグナムの体がふわりと宙に浮く。そのままぐんぐんと高度を上げ、町並みが足元のはるか下に広がる。 「へぇー。都って上から見るとこんな感じなんだ」 昌浩が感嘆したように呟く。 「おい、何赤くなってやがる」 ヴィータが同じ高度まで上昇しながら軽蔑するように言った。隣ではザフィーラも宙に浮いている。 「だ、だって、こんな……」 「おー。おー。一人前に赤くなって。こうして人は大人になっていくんだなぁ」 「もっくん、うるさい。それにしても、みんな飛べるんだ。すごいね」 晴明とて飛行の術は知らないはずだ。十二神将でも飛べるのはごく一部だろう。それができるシグナムたちを昌浩は素直に称賛した。 「私たちにしてみれば、魔力さえあれば、そこまで難しい魔法ではないのだがな。では、このまま探索を続けよう」 その日は窮奇の足取りはつかめなかった。しかし、町の中を暴走していた車の妖を見つけ、昌浩はそれを自分の式にした。仲間が増えた上に、空の散歩を楽しめて、昌浩はご満悦だった。 窮奇の手がかりがつかめないまま、数日が過ぎた。 時折、窮奇配下の妖怪とは出会うが、敵は決して口を割らない。 ヴィータたちの焦りは日に日に高まっていく。こうしている今も、はやての命は危ぶまれているのだ。 それは昌浩も同様だった。時間をかければかけるほど、窮奇に狙われている娘の命が危ない。 昌浩は地上から、空からヴィータ、シグナム、ザフィーラが散開して捜索を行っているのだが、それでも結果は芳しくなかった。 そんなある日、いつものように夜警に出た昌浩たちだったが、シグナムが不意に固い声で言った。 「尾行されているな」 「まさか窮奇の仲間?」 「いや。尾行のしかたが素人だ。おそらく人間だろう」 昌浩たちは路地の角を曲がると、追跡者を待ち伏せた。やがて人影がきょろきょろと周囲を窺いながら現れる。 その時、風が吹いた。馴染んだ香りが昌浩の鼻孔をくすぐる。 「観念しろー!」 「ちょっと待ったー!!」 不審者を取り押さえようするヴィータを、昌浩が押しとどめる。 「あっ。昌浩、そこにいたんだ」 人影が朗らかにそう言った。 「どうしてここにいるんだよ、彰子!」 月明かりが人影を照らす。そこには見るからに上等な着物を着た、長い髪の少女が立っていた。年齢は昌浩と同じくらい。ただ立っているだけなのに、振舞いに優雅さがある。 「誰だ?」 「藤原彰子。左大臣……ええと、この国で一番偉い大臣の娘で、この子が窮奇に狙われているんだ」 シグナムの疑問に昌浩が答えた。 「なるほど。どうりで優雅なわけだ」 「昌浩、この方たちは?」 「ええと、協力者というか、仲間というか……」 昌浩が今度は彰子の疑問に答える。 「初めまして。私はシグナム。しかし、狙われているのに出歩くとは感心しないな」 彰子の住む所には晴明が直々に結界を張っている。そこにいる限り、窮奇とておいそれと手が出せないはずなのだ。 「そうだよ。彰子。早く帰った方がいい」 「嫌よ。私だって昌浩の役に立ちたいわ」 口喧嘩を始める昌浩と彰子から、もっくんは距離を取る。その背をむんずとヴィータがつかんだ。 「もっくん。あいつらどういう関係だ?」 「もっくん言うな……一口に説明すると難しいが、昌浩の大事な人……かな?」 「大事な人?」 「お前も見たことあるだろう。昌浩が首から下げている匂い袋。あれは彰子が贈ったものだ」 「なるほどね」 昌浩が以前、大事そうに胸元を握りしめていたことを思い出す。そこに匂い袋があることをヴィータが知ったのは、それからすぐのことだった。 「へっ。色気づきやがって。これだからませガキは」 「おい。手に力を込め過ぎだ。痛いぞ」 「ヴィータ!」 ザフィーラが注意を促す。 咄嗟にとびのくと、さっきまでヴィータがいた地面を鋭い爪が抉った。 「誰だ!」 全員が瞬時に戦闘態勢に移る。 月を背にして、人間ほどの大きさの鳥が翼を広げていた。鳥妖、シュン。窮奇配下の中でも屈指の実力者だ。 「窮奇様の邪魔をする愚か者ども。この場で朽ち果てるがよいわ!」 シュンの声を合図に広がった結界が、昌浩たちを飲み込む。 周囲の光景は変わらないが、虫の声やかすかな人の気配が途絶える。異界に引きずり込まれたのだ。 民家の屋根や道の向こうから妖怪たちが続々と姿を現す。完全に囲まれている。 もっくんがヴィータの手を振りほどくと、シュンと正面から向き合う。 「こちらも連日の捜索に飽き飽きしていたところだ。貴様をひっとらえて、主の元まで案内してもらおう。幸い、ここなら全力を出しても問題なさそうだしな」 「もっくん?」 ヴィータが声をかけると、もっくんは凶暴な笑みを浮かべた。 「ちょうどいい。お前たちにも俺の真の姿を見せておこう」 真紅の炎がもっくんから立ち上る。 炎をかき分けて長身の青年が現れる。 ざんばら髪に褐色の肌。仏像のような衣をまとっている。放たれる魔力は凄絶にして苛烈。これまでヴィータたちが会ったどの十二神将よりも強い。 「紅蓮!」 昌浩がもっくんのもう一つの名を叫ぶ。 紅蓮。またの名を騰(とう)蛇(だ)。地獄の業火を操り、あらゆるものを焼き尽くす十二神将最強にして最凶の存在だ。 「こいつもザフィーラと同じかよ」 紅蓮の全身から、炎で形作られた蛇が無数に放たれる。蛇は妖怪たちを飲み込んで次々に焼きつくす。 「昌浩、彰子がいないぞ」 ザフィーラが緊迫した声で言った。 「しまった!」 最初に結界を張った時、彰子だけ中に入れなかったのだろう。昌浩たちを足止めしている隙に、彰子をさらう計画だったのだ。 「シャマル! 彰子殿の居場所はつかんでいるか?」 シグナムが叫んだ。 『大丈夫。敵は鳥型の妖怪一匹だけよ。でも、すごい勢いで町から出ようとしている』 「シグナム。この異界から脱出はできるか?」 紅蓮が攻撃の手を緩めることなく聞いた。 「可能だ」 転移魔法を使えば、どうにかなるだろう。 「しかし、転移するには少し時間がかかる」 「ならば、昌浩とお前たちは彰子を追ってくれ。その時間は俺が稼ぐ」 一人で大丈夫かと、喉まで出かかった言葉をシグナムは飲み込む。紅蓮の顔は自信に満ち溢れていた。 転移に入ったシグナムたちに、妖怪たちが一斉に襲い掛かる。 「行かせない!」 吹きあがる炎の壁が妖怪たちを阻む。 「邪魔はさせん!」 壁と蛇の間隙を縫って、シュンが爪を振りかざす。 「紅蓮!」 紅蓮の手が燃え上がり、赤い槍が出現する。 「行け!」 シュンの爪を紅蓮が槍で受け止める。 次の瞬間、昌浩たちは元の世界へと転移していた。 「ふふ。消えぬ傷。癒えぬ傷。これが獲物の刻印よ。窮奇様もさぞお喜びになろう」 彰子をつかんだまま飛びながら、鳥妖、ガクが微笑む。 「それはどうかな?」 声と同時に、ガクを取り囲むように魔法陣が発生する。その中からシグナム、ヴィータ、ザフィーラが現れた。 『転送成功』 シャマルが勝ち誇った声で言う。 「おい、重いぞ」 「だって、しょうがないじゃない」 ヴィータが不機嫌に言う。その背には昌浩がしがみついていた。転移した時、昌浩はヴィータと一緒に飛ばされたのだ。 「ええい、邪魔をするな!」 ガクの魔力が炸裂する。その隙に、ガクは包囲網を抜けだそうとする。 「アイゼン!」 「レヴァンティン!」 ヴィータが鉄球を打ち出す。鉄球は鳥の足に当たり、彰子を取り落とさせる。 続いて、鞭のように伸びたレヴァンティンがガクを切り裂く。 「彰子!」 「任せろ!」 落ちていく彰子を、ザフィーラが抱き止める。 「気を失っているだけだ。命の心配はない」 彰子の様子を確認し、ザフィーラが告げる。昌浩は安堵した。 「しかし、今回は大きな手掛かりを得られたな」 シグナムが鋭い目で、ガクの向かった方角を睨む。 「窮奇は間違いなく北にいる」 「おい、北には何があるんだ?」 「そうだな……貴船山とか?」 『シグナム、気をつけて!』 「シャマル?」 シグナムが聞き返そうとすると、上空に巨大な魔力が出現した。 「まったく使えぬ部下どもよ」 聞き覚えのある重低音。放たれる圧倒的な魔力。振り返るまでもない。真上に奴が現れた。 「死ね」 死刑宣告と共に、雨のように大量の魔力の刃が降り注ぐ。 シグナム、ザフィーラが咄嗟にバリアを展開する。しかし、昌浩を背負っていたヴィータの反応が遅れる。 (間に合わねぇ!) 刃がヴィータの眼前に迫る。その時、ヴィータの体が真横に流れた。 振り返ると、昌浩の体が宙に舞っていた。ヴィータを助けるために、昌浩が突き飛ばしたのだ。 「よかった」 昌浩がにっこりと笑う。 ヴィータが手を伸ばす。しかし、それより早く昌浩が魔力の刃に貫かれる。空中に赤い花が咲いたかのように、鮮血が散る。 「昌浩ー!」 ヴィータの悲痛な叫びが、都の空に轟いた。 「昌浩! しっかりしろ」 窮奇は一度の攻撃だけで去って行った。ヴィータは昌浩を抱き止めると、繰り返し呼びかける。意識を失ってしまったら、助かるものも助からない。 魔力の刃は昌浩の腹を貫通していた。出血で昌浩の衣は真っ赤に染まっている。もしかしたら、内臓を傷つけたかもしれない。 「昌浩!」 敵を片づけた紅蓮が、慌てて駆け寄る。しかし、昌浩の凄惨な傷を見て絶句する。 「シャマル。転送と傷の手当てを。早く!」 『やってるわよ!』 苛立った様子でシグナムとシャマルが交信する。 次の瞬間、昌浩の体は光に包まれて、姿を消した。 「おい、昌浩は大丈夫なんだろうな」 「安心しろ。シャマルは回復魔法のエキスパートだ。彼女に任せれば問題ない」 取り乱す紅蓮をシグナムがなだめる。 「とにかく戻るぞ。今は昌浩殿の容体が心配だ」 屋敷に戻ったシグナムたちを、疲れた様子のシャマルが出迎えた。その隣には六合もいる。 「一命は取りとめたわ。出血が激しいから、しばらくは絶対安静だけど、もう大丈夫。後遺症の心配もないわ」 「そうか。ありがとう。感謝する」 もっくんの姿に戻った紅蓮がほっと胸をなでおろした。 六合はザフィーラから気絶している彰子を受け取ると、送り届けるべく彰子の屋敷へと向かった。 「昌浩君には今晴明さんが付き添ってる」 「様子を見てくる」 もっくんが昌浩の部屋に向かうのを、ヴィータが足早に追いかける。 部屋では、静かに眠る昌浩の横に晴明が座っていた。普段はなんのかんのと言っても、やはり孫のことが心配なのだろう。 部屋に入ってきたもっくんとヴィータに、晴明はそっと人差し指を口に当てる。 昌浩は青ざめた顔はしているが、呼吸は安定している。命の心配はないというシャマルの言葉をやっと鵜呑みにできた。 ヴィータは昌浩を挟んで晴明の対面に座ると、そっと目を伏せた。 「爺さん、悪い。昌浩は私のせいで」 「気にすることはありません。昌浩はヴィータ殿を助けようとしただけ。むしろ、あの時助けようとせなんだら、この晴明、決して許しはしなかったでしょう」 「でも……」 「まあ、この晴明ならば、ヴィータ殿を助けて、自分も無傷で済ませたでしょうがな。まったく昌浩は未熟でいかん」 晴明が大げさな身振りで嘆く。 「おいおい。怪我人に鞭打つなよ」 もっくんが晴明をたしなめる。気のせいか、眠っている昌浩の眉間に皺が寄っている。 晴明は、ヴィータを励まそうと思ったのだが、ヴィータは暗い顔のまま沈みこんでいる。 「ヴィータ殿」 「……似てるんだ」 「?」 ぽつりと呟いたヴィータの言葉に、晴明は首を傾げる。 「昌浩はずっと誰かに似てると思ってた。でも、今晩ようやくそれがわかった。昌浩は、はやてに似てるんだ」 はやてが誰かとは晴明ももっくんも尋ねなかった。 はやては、ヴィータのわがままを笑って許してくれる。でも、注意すべき時は注意する。ヴィータを子供扱いするその仕草が、昌浩とかぶる。 だが、それ以上にもっと本質が似ているのだ。 両親のいないはやて。両足が不自由なはやて。決して幸福とは呼べない状況なのに、それでも日々明るく笑うはやて。 自分ではなく、他の誰かが幸せなのを嬉しいと、心から笑えるはやて。 「わかんないよ! どうして自分以外の幸せで笑えるんだ! はやても昌浩も」 窮奇の魔力に貫かれる瞬間まで、昌浩は笑っていた。自分が死ぬかもしれないのに、ヴィータが助かって嬉しいとその顔が物語っていた。 「……本当にわかりませんかな?」 晴明が優しい口調で尋ねた。 「わかんないよ」 「では、もしあの状況が逆だったなら、どうします?」 昌浩が絶体絶命なら、ヴィータはどうしたか。かばえば自分が傷つくとしたら。 「……助けた……と思う」 「はやて殿の命が危なかったら?」 「絶対助ける! 当たり前だ!」 「つまりそう言うことです」 晴明が穏やかな手つきでヴィータの頭を撫でる。 普段の晴明は人を食ったようなことしか言わないのに、こういう時は包み込むような優しさを見せる。もしおじいちゃんがいたら、こんな感じなのかもしれない。ヴィータの心が不思議と落ち着いていく。 「難しく考えることはありません。大切な人を助けたい。それは当然の行動なのです。ですが……」 晴明は意味ありげに眠る昌浩を見つめる。 「昌浩が起きたら、ヴィータ殿には叱る役をお願いしたい。この孫は助けられた人がどんな気持ちになるか、まるでわかっていないようなので」 真に人を助けようと思うなら、自分も死んではならないのだ。昌浩はヴィータを助けるのに必死で、自分の身を守ろうとしなかった。よかったなどと呟く暇があったら、攻撃を防ぐ努力をすべきだったのだ。 「お、おう。任せとけ!」 ヴィータががぜん勢い込んで立ち上がる。 「お前ら。もう少し静かにしろ。怪我人の前だぞ」 もっくんがピシリと尻尾を打ちつける。 晴明とヴィータは顔を見合せて笑うと、この場をもっくんに任せて静かに退出して行った。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3374.html
此処はミッドチルダに点在する隊舎内、其処にナンバーズの一人であるセインが存在していた。 彼女はこの隊舎を破壊する為に赴いており、部屋の隅や柱、壁などに時限式の爆弾を仕掛け、 最後の爆弾を設置する為にディープダイバーを用いて隣の部屋へと侵入する。 「これで…さ~いご!」 セインは最後の爆弾を仕掛け終えその場から立ち去ろうとした瞬間、後ろから制止を促す声が聞こえ、 振り向くと其処には教会騎士団のシャッハが身構えていた。 リリカルプロファイル 第三十四話 約束 「魔導師!?いや騎士か!」 「大人しく縛につきなさい!」 しかしシャッハの制止を無視して逃げようとしたところ、シャッハはヴィンデルシャフトを起動、 攻撃を仕掛けセインを壁まで追い詰めると、再度警告を促す。 「ここまでよ、大人しくしなさい」 「それは、どうかな~?」 次の瞬間、セインはディープダイバーを起動させて壁をすり抜ける、 それを見たシャッハは驚く表情を浮かべるが、直ぐに真剣な面持ちとなり、 全身を魔力で覆うと、セインと同様に壁をすり抜けた。 一方壁をすり抜け隣の部屋に逃げ込んだセインはそのまま立ち去ろうとしたが、 後方から先程まで対峙していた人物の声が聞こえ、 驚きの表情を浮かべたまま振り向くと、壁からシャッハが姿を現していた。 「私と同じ能力?!」 「さあ!観念しなさい!!」 そう言うとシャッハのヴィンデルシャフトのカートリッジを一発消費、刀身を魔力で覆いセインに襲い掛かる。 だがセインは体に対消滅バリアを張り、左手でシャッハの攻撃を受け止めると、 続けて右手を握り締め拳を作りシャッハの頭部を狙う、だがシャッハは上半身を仰け反るようにして攻撃を回避した。 しかしセインは続け様に左のジャブを三発、右のフック、左のハイキックを繰り出すが、 そのこと如くが回避されてしまい、苦虫を噛む表情を浮かべるセイン。 一方でシャッハはセインの攻撃力に対し一般的な魔導師や騎士では一撃でやられてしまうだろうと高評価をしていた。 だが動きは荒削りで付け焼き刃的な印象を感じ、シャッハの相手としては些か物足りない相手であった。 そしてこの程度の相手にこれ以上時間をかける訳にはいかないと考えたシャッハは、 カートリッジを二発消費、二本の刀身に先程以上の魔力を乗せると、床を踏み抜く。 「烈風一迅!!」 そして素早くすり抜けるようにしてセインを切り抜け、セインはなす統べなく前のめりに倒れていく、 しかしシャッハの攻撃は非殺傷設定を設けてある為に命に別状無く、 素早くバインドを掛けると仲間と連絡を取り、セインを引き渡すのであった。 一方此処はゆりかご内に存在するスカリエッティのラボ、周囲には生体ポットに保存された検体が並ぶ中、 メガーヌが入った生体ポットの前には、瞳を閉じ肩にアギトを乗せて佇むゼストを発見したアリューゼ。 するとアリューゼの存在に気が付いたのか、ゼストはゆっくりと瞳を開け、アリューゼを見つめていると、 アリューゼはゆっくりと、まるで言葉を選ぶかのように話し始める。 「ゼスト…隊長」 「………かつての部下か?」 「まさか“覚えて”んのか?」 「いや…“聞いた”だけだ」 自分には昔部下がいたという事を聞いた事があるだけであると応え、 アリューゼは静かに佇み暫くすると、ズボンから一つの結晶体を取り出す。 「それは?」 「今のアンタに“必要”なモノだ」 これを届ける為に此処まで来たと告げると、ご苦労な事だと言いながら笑みを浮かべるゼスト。 するとゼストの肩に乗っかっているアギトが信用出来ないと騒ぎ立てるが、ゼストは小さく頭を横に振り、 アギトを黙らせ、そしてアリューゼが手に持つ結晶体に目を向け、何か引かれるものを感じ受け取ると、 ゼストの額から赤い呪印が姿を現し手に取った結晶体が浮き始め、 目の前でまるで解凍されるかのようにして光り輝く球体となり、ゼストに吸い込まれ赤い呪印が消える。 そして暫く辺りは静寂が包み込むと、ゼストはゆっくりと言葉を口にし始めた。 「……久し振りだな、アリューゼ」 「隊長!記憶を!!」 アリューゼの問い掛けに頷き静かに答えアギトは目を丸くする中、ゼストはアギトに目を向け微笑む。 それはつまり昔のゼストの記憶と今のゼストの記憶、両方を持っている事を意味し、 人が変わった訳では無いと知ったアギトは嬉しそうにゼストの周りの飛び回り、 アリューゼもまた嬉しそうな表情を見せるが、直ぐに一変する。 何故ならばゼストの左肩がまるで爆発でもしたかのように飛び散り、血が滴れ落ちたのだ。 「やはり…もう限界か……」 「どういう事だよ!隊長!!」 元々ゼストの肉体はレザードによって損傷していた、だがそれをスカリエッティの手によって修復された。 だがそれだけではなくレリックとリンカーコアの強制接続により肉体を強化させたのだが、 その代償に肉体の劣化が早く進行する事になり、更に今回の戦いにより肉体の劣化は限界に達し、 いよいよ肉体の崩壊が始まったのだと、左肩を押さえながらゼストは語る。 「クソッ!そんなのアリなのかよ!!」 「……アリューゼ、構えろ」 アリューゼが悔しがる表情を見せている中、ゼストはデバイスを起動させると徐に構え始める。 ゼストの肉体は死を待つだけの状態である、ならばと最後にアリューゼとの模擬戦を望んでいた。 だがそれだけではない、たとえ本人の意思では無いとしても今回の事件に加担した、 その罪は償わなければならない、故にゼストはアリューゼと対峙する事にしたのだ。 するとゼストの意志を汲んだアリューゼはデバイスを起動、バハムートティアを肩に構え大きく間を取り始める。 そして静かに構えている中でアギトは立会人として二人の間に立ち、ジッと身構えていた。 暫く静寂が包み込み、二人は集中力を高め呼吸を合わせ始める、 そしてお互いの呼吸が合わさった瞬間、カートリッジを一発ロード、 ゼストが飛び出すようにアリューゼに迫り槍を振り上げる中、アリューゼはゼストに背を向けるほどまでに振りかぶっていた。 『うおおおおおおお!!!』 互いの気合いがこもった叫び声が重なり合いゼストは槍を振り下ろし、アリューゼもまた叩き斬るようにして振り下ろした。 そして互いの位置が反転すると、アリューゼの左肩から血が吹き出す、 一方ゼストは槍を二つに断ち切られ胸元に深い傷を与えていた。 デッドエンド、相手に背を向ける程までに振りかぶり一気に振り抜く、 アリューゼが扱う技の中で最も扱いが難しく、また最も威力のある技である。 「旦那ぁ!!」 立会人であるアギトがいても立ってもいられず駆け寄ろうとしたが、 ゼストは左手を向けて制止を促すと、振り向き右拳を握り殴りかかる。 するとアリューゼはバハムートティアを肩に構えながら振り向きカートリッジを二発消費、 刀身は熱せられたかのように真っ赤に染まると刀身をゼストに向けて突撃、 ゼストの身を貫くと大きく振り上げ、ゼストは爆炎に飲み込まれた。 そして辺りはファイナリティブラストによって燃え盛っていた炎が落ち着きを見せていく中、炎の中央では体に火が付いたゼストが佇み、 アリューゼに小声で「強くなったな…」と述べると、ゼストの姿を発見したアギトは泣きじゃくりながら駆け寄る。 「旦那!今炎を――」 「いや、このままでいい……」 既に肉体は死に絶え後は醜く崩壊を待つのみ、それを知ったアリューゼは、 ゼストに対しせめての手向けとして火葬を行ってくれたのだと、 アリューゼの計らいに感謝する気持ちで応え、右の人差し指でアギトの涙を拭き取る。 「だから泣くな、それに…お前が望む使い手に出会えたのだ」 「旦那……」 アギトの能力である炎変換資質はアリューゼの技と相性も良いし彼なら良く扱ってくれるであろうと語り、 ゼストの言葉に口を紡ぎながら涙をまた浮かべ、ゼストは小さく笑みを浮かべると、今度はアリューゼに目を向け言葉を口にする。 「アリューゼ…メガーヌを頼んだぞ!!」 ゼストの最後の言葉にアリューゼは小さく頷くと、安心したのか微笑みを浮かべ、 炎が顔まで覆い全身を包み隠すと、まるで消えるようにしてゼストは燃え尽きていった。 …そしてアギトは大声で泣きじゃくり辺りに響いていく中、 アリューゼはアギトに目を向け静かに…問い掛けるかの様に言葉を口に始める。 「…お前はどうする気だ?」 「…ヒック…旦那の…最…後の望み…なんだ……だから!!」 「…そうか」 アギトは右腕で涙を拭い決意ある瞳で答えると、アリューゼはメガーヌの入った生体ポットを見上げる、 …生体ポットの中にいるメガーヌは心無しか悲しそうな表情を浮かべているように思えた。 場所は変わり此処は聖王教会付近に存在する森の上空、 其処ではなのはとヴィヴィオが熾烈な争いを繰り広げられていた。 なのはは既にブラスター1を起動させており、ヴィヴィオもまたレリックの一つを起動させている状況であった。 その中でヴィヴィオは先ず五発の虹色のディバインシューターを作り出し、 なのはに向けて螺旋を描く軌道で撃ち抜くが、なのはは縫うようにして回避、 更に体を右回転させながらアクセルシューターを五発ヴィヴィオに向けて撃ち抜く。 しかしヴィヴィオは臆する事無くアクセルシューターを身に覆った虹色の膜で次々に弾いていきなのはに押し迫る、 聖王の鎧、古代ベルカの王が持つ遺伝子レベルに所有する防衛能力で、攻撃・防御共に高い効果を持つ資質である。 そしてヴィヴィオは左手を握り締め拳を作ると真っ直ぐなのは目掛けて振り下ろす、 だが、なのははアクセルフィンを全開にして後方へ移動、ヴィヴィオの攻撃を回避した。 だがヴィヴィオは右手をなのはに向けると手には虹色の魔力球が握られており、加速しているように見えた、 そして右手に二つの環状の魔法陣と足下に円状の魔法陣を張ると――― 「ディバイン…バスタァ!!」 ヴィヴィオは虹色のディバインバスターを撃ち放ち、なのはに迫る中すぐさまレイジングハートを向けてショートバスターを撃ち抜く、 だが威力が違う為見る見るうちに圧されていくがカートリッジを一発ロード、 威力を高めディバインバスターと変わらぬ威力にてヴィヴィオのディバインバスターを相殺して終わる。 先程放たれたディバインシューターに今のディバインバスター、 本来ベルカの人間は接近に特化した者が多く、射撃系は牽制程度が殆どなのであるが、 ヴィヴィオの放った魔法は十分な威力を誇っていた。 恐らくヴィヴィオは資質として魔力の射出・放出を持っているのであろう、 だがそれだけでは無くベルカ本来の接近にも十分順応しているとみるなのは。 そしてヴィヴィオの能力の分析終えたなのはは本来の目的である説得を促す。 「ヴィヴィオ聞いて!ベルカは対話による道を選んだ!もう争う事なんて無いんだよ!!」 「戦わぬベルカなどベルカではない!そしてあんなものを融和と呼べるものか!!」 元々ベルカは戦い勝ち取る事で強く、また大きくなっていった、言うなればそれが矜持、 それを忘れてただ相手の望むまま思うがままの行動をとるなどと融和とは呼べない、 そんなものはただの植民地支配に過ぎないと力強く答える。 「それもこれも今のベルカには王がいないからだ!だからこの私が生まれたのだ!!」 そして生まれたからには自分の使命を逐わなければならない、 ヴィヴィオの使命、それは即ちベルカの威光を復活させる事、その為ならば自らを兵器になる事すら厭わない、 そう語るとヴィヴィオは右拳を握り締めなのはに殴りかかるが、 なのははプロテクションを張り防ぐと、続け様に何度も叩き付け始め今度はなのはが言葉を口にする。 「違う!ベルカは敗戦後自分達の考えを改めた!その結果が今のベルカなんだよ!!」 誰かに強要されたわけでも無く、ましてやミッドチルダに支配されていた訳でもない、 敗戦後生き残ったベルカの人々が自ら考え選んだ道であり、ミッドの人々もそれを受け入れた、 その結果、強力な指導者が必要としなくなり、聖王もまた、 宗教的な意味合いとなったのだろうと応えると、ヴィヴィオは震えるようにして言葉を口に出す。 「ならば…私は何の為に生まれてきたのだ!!」 そして両拳に雷を纏わせ合わせると地上に向けて一気に振り下ろし、 なのはのプロテクションを破壊、一気に地上に叩きつけた。 プラズマアームと呼ばれるバリア破壊効果を持つ雷を拳に纏わせて攻撃する近接魔法である。 だがなのはがゆっくりと立ち上がり森の中に身を隠すとカートリッジを二発消費、ヴィヴィオ目掛けて次々とアクセルシューターを撃ち抜く。 一方ヴィヴィオの目線では、なのはの姿が見受けられず森の中から続々とアクセルシューターが襲いかかり、 聖王の鎧にて攻撃を防いでいく中、左手に巨大な魔力球を作り出し、森の中へと投げ込む、 そして魔力球が森の木々に触れた瞬間、一気に拡散し無数の虹色の魔力弾が辺りの木々を次々に薙ぎ倒していった。 セイクリッドクラスター、対象に接触もしくは目前で爆散し、小型の魔力弾を広範囲に渡ってばらまく圧縮魔力弾である、 しかもヴィヴィオの魔力と資質によって小型の魔力弾も相当な威力を誇っているのである。 「…いないか」 セイクリッドクラスターが撃ち込まれた場所は木々が薙倒れ大きく円を描いており、 今度は他の場所に左手を向けてセイクリッドクラスターを次々に撃ち込んでいく、 その頃なのはは森の中で木々が倒されていく事に警戒し、 上空を見上げるとヴィヴィオの周りにセイクリッドクラスターが五発用意されている事に気が付く。 「ならば!この森ごと葬ってくれる!!」 次の瞬間五発のセイクリッドクラスターはある程度の距離を置いて撃ち放たれ、 森の目前で次々に爆散、無数の魔力弾が驟雨の如く迫ってきていた。 それを目撃したなのははオーバルプロテクションを張り攻撃に備えると、 無数の魔力弾は次々に木々を薙ぎ倒し、辺りは見通しがよい風景へと変貌する。 ヴィヴィオはその風景を目を凝らして見つめなのはの姿を探していると、 倒れいる木々の中から桜色の防御壁に守られたなのはが上空へと向かっていくのを発見、 するとヴィヴィオはソニックムーブを用いて押し迫ると左のプラズマアームで防御壁を破壊し、 更に右手をなのはに向け拳から直射砲を撃ち抜く、 インパクトキャノン、近接戦闘における砲撃で、射撃系魔導師にとって重宝する魔法である。 そしてインパクトキャノンを撃ち抜いたヴィヴィオはその先を見つめると、 其処にはなのはが矛先を向けており、その姿にヴィヴィオは警戒していると、 なのははブラスター2を起動、更にA.C.Sドライバーを発動させて一気に加速、 ヴィヴィオに突撃するがヴィヴィオの聖王の鎧が自動的に発動、なのはの攻撃を受け止める。 だがなのはは臆する事無く突撃を続け、先端部分から魔力素が火花のように散り聖王の鎧にひびが入ると、 すかさずカートリッジを三発消費、すると先端部分の魔力刃が強く輝き出す。 「エクセリオン!バスタァァァ!!」 なのはの叫びと共にエクセリオンバスターは撃ち放たれヴィヴィオは飲み込まれていき、 撃ち放った先を見つめると、エクセリオンバスターを耐え抜いたヴィヴィオの姿があり、 その足下にはミッド式の魔法陣が張り巡らせ、右手をなのはに向けると、虹色の魔力が流星のように集い始める。 「まさか!それは収束砲!!」 「自分の技をその身に受けるが良い!スターライトブレイカァァァ!!」 そう叫ぶと虹色のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、なのははラウンドシールドを張り攻撃に備えた。 だがスターライトブレイカーの威力は、なのはの想像よりも高く、 徐々に圧されていきラウンドシールドにひびが入り砕けると、そのまま飲み込まれていった。 そして暫く辺りを静寂が包み込む中、撃ち抜かれた後にはなのはの姿が現れる。 収束砲の使用は流石になのはも驚きの表情を隠せないでいた、 何故ならヴィヴィオが使用した収束砲はなのはのそれと全く同じ技術を用いられていたからである。 おそらくはホテル・アグスタ戦並びに地上本部戦の際に使用したなのはの収束砲を、 レザードもしくはスカリエッティが解析し、その後ヴィヴィオにもたらしたのだと思える。 …それは奇しくもなのはの技術がヴィヴィオに母から子へと引き継がれた事を意味していた。 そして収束砲を受けたなのはは、まるで疲れ切った表情を浮かべていると不敵な笑みを浮かべるヴィヴィオ。 「少し…オイタが過ぎるんじゃないかな?ヴィヴィオ」 「……この期に及んで、まだ母親面をするつもりか!」 自分とは血が繋がってはおらず、既に親子関係すら絶たれている、その事をいい加減理解しろ! …とヴィヴィオは睨みつけながら語るが、なのはは大きく首を振り強く否定する。 なのはと兄恭也そして姉美由希とは血が繋がってはいない、 だがそれでも家族として暮らしていた、血の繋がりが重要なのではない。 一緒に笑い合い泣き合い、時には叱られたり喧嘩したり、 心を許せる存在、それが家族であり仲間であると力強く言葉を口にする。 「ヴィヴィオ!本当の望みはいったい何なの!!」 「わっ私の望みはベルカの復興―――」 「違う!聖王としてじゃなくヴィヴィオ“本人”の望みだよ!!」 聖王とはあくまで役目・役職、個人を指し示すものでは無い、 故にヴィヴィオの本当の望みは違うと考えていたなのはは強く問い掛ける、 するとヴィヴィオの中で何かが砕け散った音が響き、俯き暫く静寂に包まれると、静かに言葉を口にする。 「私の本当の望みは………な――」 ヴィヴィオが自分の想いを告げようとした瞬間、両手で頭を押さえ苦しむ表情を見せると、 体から大量の虹色の魔力が放出、その勢いと輝きになのはは右手で光を遮りながら目を凝らしていると、 額に赤い呪印が浮かび上がり胸元からレリックが二つ現れ、レリックには赤い五亡星の陣が刻まれていた。 ヴィヴィオのリンカーコアには王の印であるレリックを二つ繋がれていたのである。 するとレリックはヴィヴィオの両手袋に備え付けてある結晶体に取り込まれ、 結晶体に五亡星が浮かび上がると両腕から虹色の魔力が放出し体を纏うと、 瞳から光が消え険しい表情のままヴィヴィオはなのはを睨みつけていた。 なのははその変貌に戸惑っていると、ヴィヴィオはソニックムーブを発動、 一瞬にしてなのはの懐に入ると左拳が鳩尾に突き刺さり、引き抜くと同時に左に一回転、 左の肘が脇腹を突き刺し、よろめきながらなのはが一歩下がると右のアッパーがなのはの顎に突き刺さる。 そして上空に跳ねられると左拳を胸に叩きつけそのまま縦に一回転すると同じ場所に右の踵落としを叩き込み、 なのはは勢い良く地上に激突、その衝撃は木々をへし折り地面に大きなクレーターを作り出した。 だがなのはは立ち上がりクレーターの中央でA.C.Sドライバーを起動、一気に加速して突撃するが、 ヴィヴィオは左手に虹色の魔力を纏い、なのはの魔力刃が聖王の鎧に接触する瞬間を見計らって弾くと、 そのままの勢いを利用して左回転からの右の肘打ちを叩き込もうとしたが、 全方向性のオーバルプロテクションを張っていたようで攻撃を防がれる。 ところがヴィヴィオは左の魔力を雷に変えプラズマアームを発動させると、躊躇無く振り抜きバリアを破壊、拳が背中に突き刺さる。 だが攻撃はまだ終わらず右拳からインパクトキャノンを撃ち出し、飲み込まれながら吹き飛ばされるが、 なのははブラスター3を起動、それによって生み出された魔力を使ってインパクトキャノンをかき消した。 「……ヴィヴィオ」 今までのヴィヴィオとは全く異なる、まるで機械のような無慈悲で正確な動き、 それは表情を一切変えない事でまるで兵器を相手にしている印象を強く感じ、 なのはは戸惑う様子を見せるが、已然としてヴィヴィオは険しい表情のままなのはを睨みつけていた。 するとヴィヴィオの瞳から一筋の涙が流れ落ちる、その涙はまるでヴィヴィオの抵抗にも見えていた。 ヴィヴィオは助けを求めている、そう感じたなのはは決意を秘めた瞳で応える。 「助けるよ……何時だって…どんな時だって!!」 そしてなのははカートリッジを全て消費、レイジングハートをヴィヴィオに向け更に囲うように四基のブラスタービットを設置して魔法陣を張ると、 ヴィヴィオもまた両手で四カ所かざし魔法陣を張り、最後に真っ正面に大きな魔法陣を張ると両手を水平に構える。 すると両者の魔法陣に魔力素が流星のように集まり出し、五つの収束砲を作り出すと、なのははレイジングハートを振り上げた。 「全力!全開!!スターライト…ブレイカァァァァ!!!」 なのはの叫びと共にレイジングハートを振り下ろし、ヴィヴィオは両手を合わせて向けると両者のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、 辺りを桜色と虹色の魔力光で照らし、魔力素が火花のように散りながら収束砲はぶつかり合っていた。 その中で足を踏ん張り堪えている両者、その衝撃はまるで台風をその身で浴びるように強力で必死な形相で耐え抜いた。 両者のスターライトブレイカーの威力は互角な状態、膠着状態が暫く続き、なのはの額には汗が浮かび上がり、 それでも尚、ヴィヴィオを助ける為に撃ち続けていた。 今度こそ助ける、あの時…地上本部の時に約束した事を今こそ果たす為に… だが徐々になのはのスターライトブレイカーが押され始める、 今のヴィヴィオには自分の意志とは関係無く、両手に繋がれているレリックのエネルギーを、 直接引き出し魔力に変えて撃ち抜いているのである。 それを可能にしているのが額に浮かび上がった呪印で、ルーンの一つでありヴィヴィオの変貌もまたこの呪印が原因なのであるのだが、 不死者などに刻まれているルーンとは異なりある行動をとると、それをきっかけにルーンは発動、 対象の行動を支配・制御し、また思考を停止させて敵対象を殲滅する為の兵器へと変貌させる呪印なのである。 この呪印を施したのは勿論レザード、彼はもしも洗脳が解けた場合に備えて保険として施したのである。 つまりこの呪印とレリックを破壊すればヴィヴィオは元通りなるという事でもあった。 だが兵器と化したヴィヴィオはなのはですら押されてしまう程の実力を持ち、 スターライトブレイカーも徐々にだが、確実になのはが押され始めていた。 「くぅ!……後もう少し…もう少しで助けられるのに!!」 カートリッジは既に消費済み、懐には予備のカートリッジが存在しているが今から交換する事も出来ない… というより余裕が無いのだ、それ程までになのはは切羽詰まっていたのである。 たがなのははこの状況にも関わらず希望を捨ててはおらず、不屈の心は折れてはいなかった、 するとなのはの腰に備え付けてあるミリオンテラーがなのはの意志に呼応するように輝き出し、 白銀の魔力がなのはの体を包み込むと、今まであった負担が一気に軽くなりリンカーコアも活性しているのを感じていた。 「これは!?助けてくれるの?」 突然の助太刀に驚くも感謝を浮かべ、力強く正面を向く、 今の状態ならイケる…そう確信したなのはは力強く叫んだ。 「ブレイクゥゥ…シュウゥゥゥゥゥトッ!!!」 次の瞬間、体を纏っていた白銀の魔力がスターライトブレイカーに混ざり合い螺旋の模様を描きながら、 ヴィヴィオのスターライトブレイカーに激突、見る見るうちに押し返していき、とうとう撃ち破った。 そしてヴィヴィオの体は飲み込まれていくと、額の呪印がまるで風化するようにして消滅、 すると両手に取り込まれていたレリックが現れ、ひびが入ると砕け爆発した。 そして撃ち終えたなのはは肩で息をしながら目先に向けると、 其処には少女の姿に戻ったヴィヴィオがおり、体には聖王の鎧が纏っていた。 どうやらレリックの爆発に反応して発動したらしく、ヴィヴィオの体は奇跡的に無事なようである。 するとヴィヴィオの体に纏っていた聖王の鎧がゆっくりと消えていき落下し始めた。 「ヴィヴィオ!!」 なのははすぐさまヴィヴィオの元へ駆け寄り、ヴィヴィオの体を抱き抱え地上に降りると、 その温もりに気が付いたのかヴィヴィオは意識を取り戻す。 「……なのはママ」 「…ヴィヴィオ!無事だったんだね!」 なのははヴィヴィオの無事な姿に力強く抱き締め大粒の涙を零す、 するとヴィヴィオは今までの恐怖から解放された為か、 それともなのはに抱かれ安心したのか大粒の涙を零しながら、なのはに抱きつく。 「…ごめ…んな゛…さい……な゛の゛は…マ゛マ」 「もう…大丈夫だから……もう…安心していいんだよヴィヴィオ…」 ヴィヴィオは泣きじゃくりながら何度も謝り、そんなヴィヴィオの姿を優しく抱き締め受け止めるなのはであった…… 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2602.html
リリカル・ニコラス 第三話 「聖王教会」 「へえ…中々ええやんか、コレ」 ウルフウッドは袖を通した服の襟元を正しながらそう呟く。 入院患者用のパジャマから着替えたそれは、彼が前いた世界で着ていた物とほとんど同じ黒いスーツだった。 ただし以前ウルフウッドが着用していた物よりも数段上等な生地で仕立てられている上物である。 彼はしばし袖を通した感触に満足げな顔で襟や裾を何度か正す。 そんなところにドア越しに澄んだ女性の声がかけられた。 「ウルフウッドさん、着替えは終わりましたか?」 「ああ、もう終わったで~」 ウルフウッドのその返事を受けて軽くドアが開けられ、そこから輝く金髪をなびかせた頭が現れる。 少しだけ子供っぽい仕草で顔をちょこんと出してウルフウッドの姿を確認するのは、彼を助けた恩人である聖王教会騎士カリム・グラシアだった。 こちらを伺うカリムの顔を横目で確認すると、ウルフウッドは正した襟元を見せて着替えが済んだ事をアピールする。 そして彼は壁に立て掛けてあった巨大な十字架、白い布切れに包まれた長年の相棒を担いだ。 「ほんなら行こか」 その言葉と共に、彼はこの数ヶ月間生活していた病室を後にした。 △ 「うっひゃ~、ホンマに緑があるんやなぁ、それにぎょうさん人もおる」 ウルフウッドは初めて目にする管理世界の姿に、目を丸くしてそう感嘆の言葉を漏らした。 退院した彼がカリムに連れられて向かったのは聖王教会本部、管理外世界からの遭難者である彼はカリムを後見人として教会で保護される事になったのだ。 いままで砂と荒野に覆われた乾いた世界しか知らなかったウルフウッドにとってミッドチルダのような世界は新鮮だった。 初めて目にする世界を物珍しそうに眺める彼の姿はひどく童心を感じさせるもので、カリムは思わず苦笑する。 「そんなに珍しいですか?」 「当ったり前や、この前まで荒野だらけのとこで生活しとったんやで? こんな場所向こうじゃそう見られへんかったわ」 「それは大変な世界ですね。でも、ここではこれが普通ですよ」 「うはぁ……早速カルチャーショックや」 未知の世界の常識にウルフウッドは感嘆して空を見上げた。昼間でもうっすらと目視できる二つの月がまた一段とここが異世界である事を伝えている。 教会本部の正面玄関を潜り、広大な敷地を持つ教会内部に足を踏み入れた二人を最初に出迎えたのは見慣れた修道女だった。 「おかえりなさいませ騎士カリム。そしてようこそウルフウッドさん」 「ええ、ただいまシャッハ」 「おう、まあ今日から世話になるで」 シャッハに案内されてウルフウッドが通されたのはカリムの執務室。 広いその部屋には彼女一人が使うには大きすぎるほどの豪奢な机が鎮座し、その両隣を本が敷き詰められた大きな本棚が並んでいる。 正に組織の重役が使うための部屋である、ウルフウッドは初めて目にする上等な部屋の調度にため息を漏らした。 「はぁ~、随分豪華なもんやなぁ。カリムってもしかしてお偉いさんなんか?」 「ええ、騎士カリムはこれでも教会代表者のお一人なんですよ」 ウルフウッドの質問にシャッハがお茶の用意をしながら答える。 彼は少し感心したような顔をするが、当のカリムは恥ずかしそうに顔を赤らめた。 「ちょ! シャッハ、そんな風に言ったら私が教会の重鎮みたいじゃない…」 「でも教会代表者の一角である事は事実でしょう?」 「そんな……私なんて、まだただの小娘よ」 「なんやぁ? 謙遜かいな。えらい貞淑なんやな~、なんか意外や」 からかうようなウルフウッドの言葉にカリムは顔をさらに真っ赤にして彼に詰め寄る。 こんな風に異性から弄られる事などほとんどなかった彼女にとって、ウルフウッドのからかい半分の冗談は乙女心を簡単に揺さぶってしまう。 「ウ、ウルフウッドさん!? それはもしかしなくても失礼じゃないですか!? ま、まるで私が少しも淑やかじゃないみたいじゃないですか!」 「ああ~、ただの冗談やがな。あんまり怒っとるとシワ増えるで?」 「シ、シワなんてありません!!」 とうとうカリムは少しばかり涙目になってウルフウッドの襟元を掴みガクガクと揺らし始める。 ウルフウッドは冗談を言われて面白いくらい反応する彼女の様子に意地悪そうに苦笑。 そんな二人のやりとりを見ていたシャッハが、そろそろ良い塩梅とばかりに助け舟を出した。 「ウルフウッドさん、あまり騎士カリムを苛めないでください」 「“苛める”って人聞きの悪い、ただの軽い冗談やって。ほれカリム、少し落ち着きや」 「むう…」 「なら良いのですが。それでは立ち話もなんですからとりあえずお座りください」 「ああ、すまへんな」 顔を赤くして胸倉に掴みかかっていたカリムを宥めつつ、ウルフウッドは部屋の隅にパニッシャーを立てかけると、シャッハが引いた椅子に腰掛ける。 いい加減に機嫌を直したカリムも、シャッハが引いた椅子に腰を下ろし彼の正面に座る。 いつの間に用意したのか、シャッハがすかさず二人の前にカップを置いて紅茶を注いで差し出す、温かい湯気を立てて美味しそうな香りが部屋に満ちた。 カリムは“ありがとう”と小さく礼を言ってカップを傾けて少しだけ喉を潤す。 そしてカップを下ろすと共に息を整えてウルフウッドに視線を向けた。 「それでは、ウルフウッドさんの今後のお話をさせて頂きますね」 「ああ、頼むわ。っていうか、ワイはその辺の詳しい話よう分からんのやけどな」 カップに注がれた紅茶を品も何もあったものでない、といった感じに音を立てて飲みながらウルフウッドはそう漏らす。 この世界に来てしばらく経つ彼だが、そのほとんどは入院生活だった。 ミッドチルダや次元世界の言語や社会機構に対する軽いレクチャーを受けてある程度の常識は覚えてはいるが、自分がどのような処遇となるかはチンプンカンプンだった。 元いた星で受けた重傷の治療に見ず知らずの惑星の常識や言語を覚えるだけでも精一杯だったのだ、それは無理も無いことだろう。 「別にこれと言って難しい話はありませんよ。私が後見人となります、今日からはこの教会を自分の家だと思って生活してください」 「そうか……ありがとうな。こないな行き倒れがホンマ迷惑かけて」 先ほどまでカリムをからかっていた雰囲気を一変させて、ウルフウッドはすまなそうな顔で礼を言う。 何かとカリムに冗談を言う彼も、何も頼る者のない世界で救われた恩義には思うところがあるようだ。 彼らしくないしおらしい態度に、カリムは慌てて口を開いた。 「い、いえ! そんなにかしこまらないでください。寄る辺無い人を放ってなんておけません、私は当然の事をしたまでですから」 「そか……なんや、そんな事言っとったらホンマに教会のお偉いさんやな」 カリムの言葉にウルフウッドはまた冗談めいた返事で返した。 そんな態度に彼女は少しだけへそを曲げたように眉を歪める。 「むう…茶化さないでください」 「ああ~、そないな顔すなや。ただのジョークやがな」 「もう…」 ウルフウッドの苦笑にカリムもつられてカリムも思わず表情を綻ばせた。 △ 「よっこらせっと」 担いでいた十字架を壁に立てかけ、ウルフウッドは部屋の電灯のスイッチを入れた。 しばしの明滅の後に点いた電灯の光が部屋に満ちれば、随分とホコリ臭い部屋の全貌が現れる。 人が住まなくなってある程度経っているらしい部屋には最低限の家財道具以外にはなにもない。 ウルフウッドに宛がわれたその部屋は教会の中にある居住区画にある宿舎の一室、本来は修道士や司祭が使う為の部屋である。 「ふい~、ちょいと疲れたわ」 ウルフウッドは緊張感に欠ける声を漏らしながら備え付けのベッドに倒れこむ、少々ホコリが舞うが気にはしない。 退院の手続きや教会やこの宿舎に関する注意事項を説明されたりと色々と忙しい事が続いて、病み上がりの彼に少しばかり疲労を刻んでいた。 あとはゆっくり寝て休むだけだ、一応部屋に寝巻き用に着替えが用意されていたがそれに着替えることさえ面倒だ。 ウルフウッドはホコリ臭いベッドの上でも構わずそのまま睡眠の欲求に忠実に目蓋を閉じようとする。 だが、そこで睡眠とはまた違うもう一つの欲求が生まれた。 「そういえば、もう随分と吸っとらんな…」 タバコが吸いたい、それも無性に。 本来彼は結構なヘビースモーカーである、だが入院生活では病院の売店で買おうにも金が無く、カリムやシャッハに頼んでも彼女達は非喫煙者だった。 懐を探っても、無論の事だがタバコの感触はない。 数ヶ月間おあずけを喰らったヘビースモーカーの喫煙衝動は、自由の身となって抑えがたい程に強くなっていた。 「よし、買ってくるか」 ウルフウッドは気だるい気分を気合で捻じ伏せ、喫煙の願望の赴くままに立ち上がる。 事前に受けた説明で近所にスーパーや日用雑貨を取り扱う店がある事は知っている、金銭面の問題も既にクリア済みだ。 カリムから“もし必要な物があったらこれで買ってください”と幾らか渡されている。 ただ、何から何まで面倒を見られて金まで工面されるのは少しだけ彼の自尊心を傷つけていた。 「ああ~、しっかし……寝食世話されて、金まで貰っとるって……なんやヒモみたいやがな…」 ウルフウッドは少しぼやきながら立ち上がると、ボリボリと頭を掻きながら部屋を後にする。 魔人と恐れられたGUNG-HO-GUNS、ミカエルの眼の選りすぐりの殺し屋がヒモ同然の生活をする。 まるで悪い冗談みたいな話だ。 彼は部屋を後にすると、あらかじめ教えられていた教会の裏口に向かう。 裏口からの出入りに関して教会関係者用のカードキーを渡されているし、監視カメラや警備の人間にも彼のことは伝えられているらしいので障害は特にない。 頭に軽く叩き込んだ地図に従いウルフウッドは迷わず裏口へと向かう。 ちなみに“外出の際には一言声を掛けろ”とも言われていたが、面倒なのでこの際却下する。 そして突如、ウルフウッドは長年に渡ってその身に刻み込んだ鋭敏な戦闘感覚に訴えかけるものを感じた。 『なんや? これは……視線?』 “誰かに見られている”単なる思い込みではなく確実であるという確証を持ってウルフウッドはそう感じた。 どうも部屋を出たあたりから首筋に疼きを感じていたが、それが確信に変わる。 半生の多くを鉛弾が飛び交い血の海が広がる修羅場に置いた彼には、常識や理性の外にある本能の部分で敵を感じる野生的な勘が備わっていた。 その勘が告げる、誰かの視線を、自分を監視する者の意思を。 『誰や? 警備の人間か? いや、それはありえへん。それならわざわざコソコソ監視する必要はあらへん。なら誰が何の目的でワイを監視しとる?』 自分を見つめる謎の視線に思いを巡らせる。 だがこの世界にまだ疎い彼に推理可能な疑問ではない、あまりに未知の部分が多すぎる。 『まあ考えてもしゃあない、直接会って吐かせれば良いだけの話や』 考えるが先か動くが先か、ウルフウッドはその場で突然駆け出した。 病み上がりとは思えぬ俊足、監視者の目も当然追ってくるが、いかんせん突然のダッシュにペースを狂わされたのか瞬く間にまかれてしまう。 監視者の目をいくらか離したウルフウッドはそのまま感じた気配の所へと駆けていく。 まるで野生の狼が嗅覚を頼りに獲物を追うが如く、正確に迅速に距離を詰める。 そして発見したのは緑色の長髪が特徴的な白いスーツの青年。 骨の髄まで染み込んだ殺し屋の習性を最大限に生かして死角を突き足音を殺して近づく。相手はこちらの接近に気付かず無防備な背中を晒している。 そして手を伸ばせばすぐに相手に手が届くような距離まで近づくと、ウルフウッドは気迫を込めた、だが静かな声を発した。 「そこまでや」 ウルフウッドの言葉に青年は驚愕で身体をビクリと震わせる。 それはまるで大型の肉食獣の咆哮に貧弱な草食獣がたじろぐ様に、彼は振り返ることはおろか手を動かす事もできない。 背後から浴びせられるウルフウッドの気迫はそれほどまでに凄絶だった。 殺気だけで動けなくなる、そんな相手が存在する事を彼は生まれて初めて知る。 だが青年は気迫で身動きを封じられながらもウルフウッドに向かって口を開いた。 「一体……何を根拠にここへ? 足がつくようなモノは何もなかった筈ですが…」 青年がウルフウッドを監視するのに使っていたのは“無限の猟犬”と呼ばれる希少技能により魔力で形成した不可視の犬。 魔力はおろか物理的なセンサー類も簡単に察知する事はできない筈だ。 だがこの男、ニコラス・D・ウルフウッドは魔法も何も使わず自分を見つけ出した。 普通ならば考えられぬ事態である。 ウルフウッドは青年の問いに逡巡も淀みもなく、アッサリと答えた。 「そうやな、あえて言うなら勘や」 そう言い切るウルフウッドの言葉に青年は言葉を失った。 およそ戦いの場で対峙して、最も厄介なのはこの手あい。戦略・戦術の一切を捻じ伏せ、ただ闘争の神に愛されているが如くにじり寄る悪鬼。 そう形容してもおかしくはない程にウルフウッドの索敵は悪魔染みていた。 “下手な真似をすればただでは済まない”その認識に青年の背には自然と冷たい汗が流れる。 青年は耐え難い緊張が場を支配し、まるで白刃を喉元に突き付けられるような錯覚すら感じた。 そして静寂は唐突に破られる。 「あっ! ウルフウッドさん何してるんですかこんな所で!?」 空気を読まない黒衣の法衣を纏った金髪の美女が、不機嫌そうな顔でウルフウッドの下に駆けてくる。 彼女はウルフウッドに詰め寄ると、ビシっと指を彼の顔に突き付けた。 「もしかして一人で勝手に外出しようとしてましたね!? “一言声を掛けてください”って言ったじゃないですか!」 「ちょ、カリム…お前空気読めや……これ割り込める空気ちゃうやろ」 「いいえ、割り込ませてもらいます! そもそもあなたは私の言う事をもっとちゃんと…あら? ロッサじゃない? どうしたのこんな所で?」 カリムはプンスカ怒りながらウルフウッドに詰め寄りしっかりお説教をしようとするが、そばにいた義弟の存在にようやく気付いた。 「ああ…カリム……助かったよ」 「なんや、カリムこいつと知り合いなんか?」 「知り合いも何も、私の弟ですよ」 「ええっと…ヴェロッサ・アコースです……どうかよろしく」 緑色の長髪と白いスーツの青年は、ウルフウッドから発せられる気迫が消えてようやくそう自己紹介をする。 彼の名はヴェロッサ・アコース、カリムの義理の弟である管理局の査察官だ。 彼のその顔は魔人とまで呼ばれたGUNG-HOの気にあてられて幾らか蒼白に染まっていた。 「あら? そういえばなんであなたがここにいるのロッサ?」 何故か青い顔をして冷や汗を流している弟の様子を特に気にする風でもなく、カリムは尋ねた。 彼が教会に寄るという話は聞いていなかった、いつもは来る時に一言声をかけるのが普通なだけに当たり前の疑問ではある。 「いやね、カリムが後見人になったっていう身元不明の漂流者さんを一目見ようと…」 「…仕事をサボって遊びに来たと?」 「そうそう、サボって……って! シャッハ!?」 いつの間にか背後を取っていたのは聖王教会一の武闘派シスターことシャッハ・ヌエラ。 そして何故か満面の笑みでトンファー型双剣デバイス、ヴィンデルシャフトを構えていたりする。 「あ、あの…シャッハさん? 何故にそんなモノを持ってらっしゃるんで?」 「それはですね、仕事サボってやって来た査察官にオシオキする為ですよ♪」 シャッハは天使の如き笑みと共にその細い身体から先ほどウルフウッドが発していた気迫に勝るとも劣らぬ強烈な怒りのオーラが噴出してヴェロッサににじり寄る。 「ちょ! シャッハ落ち着いて…これには深い事情が…」 「問答無用!!!」 そして始まる折檻という名の拷問、この日から一週間ヴェロッサが全身打撲の激痛に耐える事となるが、それはまた別のお話。 閑話休題。 ウルフウッドはシャッハの意外な一面に目を丸くする。 「おお…シャッハって意外と容赦ないんやなぁ」 「まあ、彼女はロッサの教育係でしたから。じゃなかった! ウルフウッドさん、あなたのお説教も終わってませんよ!?」 「ちょ……勘弁したってぇな。タバコ買いに行こうとしただけやがな」 「言い訳はいけません!」 こっちもこっちで、プンスカと不機嫌そうに詰め寄ってお説教タイムを始めるカリム。 どうやらこのままでは今日中にタバコを買いに行くのは無理そうだ、そう思いながらウルフウッドはその胸中でヤレヤレと深く溜息を吐く。 ニコラス・D・ウルフウッドが聖王教会で迎えた初めての夜はなんとも騒がしいものになった。 続く。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3239.html
襲撃から一夜開け、被害を免れた一部の地上本部局員は本局と連携をとり事態の収拾に着手していた。 そして、その甲斐があってか崩壊した機動六課隊舎の瓦礫を早急に除去、避難シェルターの入口を発見し無事救助 更に近くに倒れていたフォワード陣もまた早急に聖王医療院へと搬送された。 一方でスバルの後を追っていたティアナは右腕に怪我を負って倒れているスバルを発見、 ティアナは傷口を見るや否や先端技術医療センターと連絡を取り、その後に現れた搬送車によって搬送、ティアナも同行者として乗り合わせた。 そしてなのはの身を案じていたフェイトは医療院に辿り着くと、うつ伏せの状態で倒れているなのはを発見、 すぐさまなのはを抱え医療院に向かうと院内ではヴァイスとシャッハが治療を施されてる姿があり、 フェイトは二人から事情を聞き、ヴィヴィオが攫われた事を知るのであった。 リリカルプロファイル 第二十二話 扉 …事件から一週間が経ち、ミッドチルダ全土は今回の事件で持ちきりな状態が続いている。 マスメディアの一部はスカリエッティの所業、管理局の失態などを取り扱っているが、その多くは最高評議会の声明を取り扱っていた。 最高評議会は神の三賢人と呼び名を変え、巨大な次元航行船ヴァルハラにてミッドチルダ全土を破壊すると宣告した。 つまり“未曾有の危機”は彼等三賢人の手によって起こされるという事を指し示す声明である。 その事をマスコミは管理局には責任があると報じるが、管理局側は今回の事件は最高評議会の独断による声明で、我々管理局の意向ではないと表明した。 そしてその意を民衆に伝える為、三賢人が関わる事件に関わった人物の逮捕に勤めていた。 今まで三賢人に関わる事件は改ざん、削除、抹消されていたのだが、 ある男の死によって無限書庫に存在する事件簿の情報が復活を遂げ、その情報を基に次々と逮捕する事が出来たのである。 そして今回の逮捕劇の要であるこの情報は功労者の名を取りレジアスレポートと呼ばれるのであった。 話は変わり此処聖王医療院の通路に右手には花束、左手にはフルーツの盛り合わせが入ったバケットを携えたフェイトが歩いていた。 フェイトは今回の事件で負傷・入院をしたエリオとキャロ、そしてなのはの見舞いに来たのである。 そして暫く通路を歩きエリオとキャロの病室に入るフェイト、 二人は窓側にキャロ、その隣にはエリオと並ぶように位置をとっていた。 『フェイトさん!!』 「二人共、お見舞いにきたよ」 そう言うと花瓶に花を生け、台にバケットを置くと二人の間に座るフェイト。 二人はフェイトの顔を見て明るい表情を見せるが、すぐに暗い表情を覗かせる。 二人は今回の戦闘で大きな傷を残していた、それは肉体ではない心の傷である。 ――元々…アナタ達に居場所なんて無いでしょ…―― 二人が対峙した少女、あの少女が放った言葉が今でも二人の心に深く刺さっている。 居場所……二人の居場所である機動六課隊舎は既にもう無い、それは即ち自分達の居場所はもう無いという意味と同義であると考え落ち込む二人、 すると二人の表情を見たフェイトは、椅子から立ち上がり二人に近づくと優しく頭を撫でる。 「大丈夫、私は此処にいる、二人の“居場所”はちゃんと此処にあるんだよ?」 フェイトの言葉に二人はフェイトの顔を見上げる、二人は何も一言もフェイトに胸の内を話してはいなかった。 しかしフェイトにはちゃんと二人の気持ちを理解していたのだ。 そしてフェイトは言葉を続ける、確かに隊舎は無くなってしまった。 でも“居場所”とは自分が“居る場所”だけを指し示している訳ではない、 自分が安心する・出来る所、つまり“拠り所”という意味も指し示していると優しく語る。 「…それとも私じゃ、二人の“拠り所”になれない?」 『そんなことありません!!』 二人はフェイトの問い掛けに声を合わせ力一杯否定する、自分達が此処にいるのはフェイトさんが拾ってくれたから、 もしフェイトさんと出会わなければ、自分達はずっと施設に居たかも知れない。 そう二人はフェイトに感謝の弁を述べると、自分達の心からある感情が湯水のように沸き上がる。 …自分達にはフェイトさんという“居場所”が“拠り所”あるんだ! そんな喜びと安堵の感情を感じた瞬間、二人の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。 「あっあれ?……悲しく……ないのに…何で?」 「…人は安心した時にも…涙が出るんだよ?」 「…うぅ……フェイトさん!!」 フェイトの屈託のない笑顔に二人はフェイトの胸の中で泣き続け、二人の涙をその胸で優しく受け止めるフェイトなのであった。 そして二人は泣き疲れ眠りにつくと、フェイトは次の目的地であるなのはの病室へと赴く。 その時、向かい側からシグナムが姿を現す、どうやら同じく入院しているザフィーラとシャマルの見舞いを終え、 今度はヴィータの見舞いに向かうところのようである。 フェイトは軽く挨拶を交わすとシグナムは少し影を潜めた表情で返し、フェイトはシグナムの態度に首を傾げる。 するとシグナムはフェイトに、医者に言われた事を話し始める。 シグナムは二人の見舞いに来たところ医者に呼ばれ、二人…と言うよりヴォルケンリッターに関する変化が伝えられた。 本来ヴォルケンリッターとは夜天の書の一システムで、 騎士内でのリンクや主であるはやてから魔力を供給される事で得られる、無限再生機能などが上げられるが、 それらの機能は初代リインフォースの消失によって薄まる、もしくは消失していった。 だが、それらの事は前々から分かっていた事なのであるが、 今回は更に肉体の再生能力が低下し人に近いレベルにまでに至っているという。 つまりは重傷や致命的な傷を負えば“死”が訪れると言う事だ。 だが人に近づいたとは言え、その治癒力は高く、寿命や肉体の成長は起きないと付け加えられたと話す。 「そうですか…皆さんにそんな変化が…」 「あぁ…だがまぁいいさ、せっかく手に入れた“一度きりの生”だ、有意義に楽しむつもりだ」 そして今回の内容をヴィータにも話すつもりであると、人に近づいたとは言え肉体は成長しない… ヴィータはさそがし悔しがるだろうと、意地の悪い顔をしながら笑みを浮かべるシグナム、 その笑みに頬を掻き苦笑いをするフェイトであった。 シグナムと別れたフェイトは、なのはの病室に辿り着きベッドに近づくと、その姿は見受けられないでいた。 するとフェイトはベッドの隣に置いてあるハズの松葉杖が無いことを確認、 恐らく“アノ”場所へと向かったのだろうと判断すると病室を後にした。 此処は医療院の屋上、此処にはブランコや滑り台、砂場などがあり、まるで公園のような造りをしていた。 そしてその場所に存在するベンチにて右側に松葉杖を置き、 右手にはレイジングハートを握り締めた病院服姿のなのはが座り空を見上げていた。 なのはは今回の事件で使用したブラスターシステムの反動により、肉体・リンカーコア共にダメージが蓄積、 魔力は最大値の8%も低下し、肉体も松葉杖がなければ動けない程なのである。 その為此処医療院にて治療兼リハビリを受けているのだ。 そしてなのはの姿を見かけたフェイトは優しく声をかける。 「やっぱり此処にいたんだ」 「あっ…フェイトちゃん……」 フェイトの声に気が付いたなのはは、顔を向けるがすぐに空を見上げる。 その反応にフェイトの表情は少し陰りを見せるもなのはの隣に座る、そして暫く静寂に包まれると一つの風が二人の髪を靡かせる。 その風に髪を乱されたフェイトは、指で髪を解くと、なのはの口が開き始める。 「…私、ヴィヴィオを護れなかった……」 小さくか細い声で言葉を口にすると目線を下ろし遊具を見つめる。 なのはの目にはブランコを漕ぐヴィヴィオや、一緒に砂遊びをしているヴィヴィオの姿が幻影の様に映し出していた。 そしてそれらが蜃気楼の様に消え去ると、今度は目線をレイジングハートに変え握り締めると、ゆっくりと話し始める。 自分はヴィヴィオと約束した、ヴィヴィオを絶対護ると。 そして自分のモットーでもある全力全開でレザードに立ち向かった、 しかし結果はなす統べなく倒され簡単にヴィヴィオは攫われてしまった。 なのはは自分の弱さを歯噛みするも、もう自分には何も出来ないと諦めに近い表情を見せ話し続ける。 するとフェイトはベンチから立ち上がりなのはの前に佇む。 それに気が付いたなのはは顔をフェイトに向けると、辺りに乾いた音が響き渡る。 なのはは痛む左の頬を押さえフェイトを見つめると、フェイトは怒りにも悲しみにも似た表情を表していた。 そしてフェイトの怒号ともいえる声が辺りに響き渡る。 「しっかりしてなのは!そんなの…なのはらしくない!!」 「フェイトちゃん……」 フェイトの怒号の後に風が一つ激しく吹き収まると、フェイトは話し続ける。 十年前、なのはは自分と何度も対峙した、決して諦めずに自分を救おうと、そして友達になる為にも… はやてが闇の書に飲み込まれた時、決して諦めず救おうとしていた、 そして闇の書を消し去る時も管理局の切り札であるアルカンシェルを地上に向けて発射する事に対して、 決して諦めずに策を練り見事、闇の書を撃破した。 八年前の撃墜の時も、二度と飛べないかもしれないと伝えられても、決して諦めずリハビリを受け見事に復活した。 そんないつも諦めない不屈の心を持つなのはが吐く台詞では無いとフェイトは叫ぶ。 「攫われたのなら取り返せばいい、私の知っているなのははそう言う人のハズ……」 「フェイトちゃん……」 フェイトの叱咤の混じった励ましに俯くなのは、暫く沈黙が辺りを支配し 風が二人の髪を靡かせると、なのはは俯いたまま静かに言葉を口にし始める。 「ヴィヴィオ…今頃泣いているかな?」 「そうだね…アノ子は泣き虫だから…」 フェイトはそう言うと俯いたまま一つ笑みを浮かべヴィヴィオを思い返すなのは… 最初ヴィヴィオに出会った時はシャッハにデバイスで脅され泣いていた。 機動六課で引き取った時、ザフィーラの大きさに驚き、ジクナムの顔を見て泣き出したこともあった、 シグナムが珍しく落ち込んでいたのは見物だった… 聖王教会にて話を聞きに向かおうとした時、ヴィヴィオが泣きながら離れず困り果てた事もあった、 あの時程フェイトちゃんがいて良かったと思った事はなかった。 そして…ヴィヴィオは今でも自分を探して泣いているハズである。 そんな時に自分が塞ぎ込むわけにはいかない、ヴィヴィオは自分を待っているのだから! するとなのはは松葉杖を手に持つと歩き始める、その行動に思わずフェイトは声をかける。 「何処行くの?」 「リハビリに行ってくる」 今自分に出来る事は先ず、この体を満足に動かせるようにする事 そう話すなのはの瞳には不屈の炎が宿っていた。 その炎を見たフェイトは、歩幅をあわせなのはの後をゆっくりとついて行くのであった。 場所は変わり此処はゆりかご内に存在するスカリエッティの施設… 部屋ではレザードとスカリエッティがチェスを嗜んでいた。 スカリエッティは今こそ落ち着いてはいるが、一週間前は荒れに荒れていた。 それもそのハズ、スカリエッティは綿密に立てた計画を実行に移し、計画は順調に進み見事地上本部を壊滅させた。 そしてその光景を民衆に見せつけ管理局の無力さをアピールする算段であったのだが、 最後の最後に事もあろうに三賢人に回線を乗っ取られミッドチルダ壊滅を宣言されたのだ。 三賢人はスカリエッティが行っていた計画をお膳立てとして利用し、ミッドチルダの終焉をアピール 更にはヴァルハラと言う次元航行船を見せつける事で、絶望感を与えたのである。 最も忌むべき存在である三賢人にまんまと利用されたスカリエッティはモニターを叩き割るほどに怒りに震え、 その後のメディアの対応に新聞を破り捨てテレビを消すなどと、怒り心身といった状態が続いていたのであった。 「もう、怒りは収まりましたか?」 「……正直、ハラワタが煮えくり返るほどの怒りは残っているが、その怒りは奴らと出会った時に発散するよ」 それよりも今はヴァルハラの分析が優先だとスカリエッティは話しつつ城兵〈ルック〉を動かす。 スカリエッティの見解では、ヴァルハラは此処ゆりかごとほぼ同格の能力を持っていると考えている。 何故ならば、かつて三賢人はゆりかごの解析の為スカリエッティを此処に送り込むが、 スカリエッティはゆりかごを奪取し、此処を拠点としたのだ。 本来では三賢人は奪取されたゆりかごを血眼で探すのが普通であるのだが、捜索は簡単に打ち切られた。 それには訳があったのだ、その頃には既にゆりかごに取って代わるヴァルハラを建造していたのだろう。 つまり、ゆりかごを諦める事が出来る程の能力がヴァルハラにはあるとスカリエッティは考えていた。 すると今度はレザードが話し始める、ヴァルハラが陽炎の様に消えた技術、あれはまさしくルーンによる物だと。 つまりヴァルハラにはレザードの世界の呪法が使われているという事である。 レザードの話ではルーンの一部にはレザードの世界でも失われた呪〈ロストミスティック〉と呼ばれるほどの呪式が存在する。 それらが使えているということは、レザードと同じ世界から来た者がいるか、もしくは情報を持っていることを指し示す。 「成る程、それは厄介だ、ところでナンバーズとタイプゼロの方はどうなっているんだい?」 スカリエッティの質問に対し眼鏡を動かし騎士〈ナイト〉を動かすと説明を始めるレザード。 先ずナンバーズであるが、ノーヴェは失った右足の治療を終え現在リハビリを行っている。 次にチンクであるが体に違和感を感じている為、医療ポットで治療、今はそれも終え元気に模擬戦を行っていると。 次に回収した戦闘機人を調査したところ、我々が造り出した戦闘機人とは全く異なり、人に近い造りをしているという。 そして失われた左手はギミックアームとして修理を施し、更に洗脳までも施したのだが、 只の洗脳ではなく心の奥底に存在する感情を利用していると語る。 「彼女の奥に潜む感情……それは自分が地味であるという事 即ち、彼女の地味な性格を利用する事により、もっと目立ちたいという感情を芽生えさせ その結果、派手な破壊工作を行う事が出来るのですよ……」 「…………それは…冗談かね?」 「…………当然、冗談ですよ」 手を広げ肩を竦めるレザード、その態度に頭を押さえるスカリエッティ、 レザードの説明はリアリティがありすぎると窘めると、レザードは眼鏡に手を当て本当の説明を行う。 彼女の根底にある感情、それは妹に対しての愛情、それを引き出すことにより他のナンバーズと連携をとれるようにしてあると語る。 論より証拠、取り敢えず見て欲しいと言わんばかりにレザードはモニターを開き、ナンバーズの様子を映し出す。 モニターにはナンバーズの一人、ノーヴェとギンガがリハビリを兼ねた模擬戦をしている姿や、 セインとウェンディと楽しく談話している様子、更にはオットーとディードと一緒に食事をとり、面倒を見ている様子が映し出されていた。 「………見事に順応しているね」 「えぇ、計画通りです」 ナンバーズには腹違いの姉……もとい生まれが違う姉と紹介したところ、以外とすんなり受け入れられた。 故に此処まで順応しているのだろう、と言うのがレザードの展開である。 「そう言えば聖王はどうです?」 レザードの質問に顔を曇らせるスカリエッティ、暫くすると大きくため息を吐き女王〈クイーン〉を動かし近況を報告する。 鍵であるヴィヴィオの肉体は幼くリンカーコアも弱い、其処でレリックを使って魔力を上昇させ、ゆりかごを起動させるだけの肉体と魔力を補うと話す。 するとレザードから一つの提案が生まれる、それはベリオンに搭載されているリンカーコアを使うと言うものだ。 だがゆりかごは聖王の“遺伝子”がなければ機能しないとスカリエッティが主張すると、更に話を続ける。 先程のスカリエッティの主張通り、ゆりかごを動かすには聖王の血筋、つまり“遺伝子”が必要である。 つまり別に聖王自身が必要というわけではない、“遺伝子”と言う鍵があればいいのである。 故にベリオンのリンカーコアと接続させたレリックからもたらされる魔力を、 “聖王の遺伝子”に通す事により“聖王の魔力”に変えゆりかごを起動させると言うものであった。 「可能なのかね?」 「理論上不可能では無いハズです」 リンカーコアとレリックの強制接続はゼストのデータを基に可能であり、 リンカーコアと“遺伝子”は人造魔導師と戦闘機人技術の応用で何とかなると、 そして“遺伝子”提供は鍵から手に入れればいいと眼鏡に手を当て話すレザード。 「……となると、あの“鍵”はどうするのかね?」 「まぁ、レリックウェポンとしても優秀ですから、戦力として使えるでしょう」 いざとなれば、ベリオンのサブとしても利用価値はあるとレザードは話す。 そしてレザードは笑みを浮かべ城兵を動かし、チェックメイトをかけるのであった。 それから一週間以上が経ったある日、此処聖王教会に存在する会議室では、今後の対策の為の会議が行われようとしていた。 会議室にはカリムを中心に右の席にはクロノとその側近であるロウファにユーノ、 左の席にははやてとその側近であるグリフィスにフェイトとリハビリにより、 体はある程度動けるようになったなのはの姿があった。 そして予定された時間になり会議が開始され、最初にカリムが語り始める。 今回、地上本部壊滅を防ぐことが出来ず、予言は覆らなかった。 更に三賢人の発言によりスカリエッティが“無限の欲望”であると判明、 それと同時にレザードが“歪みの神”であることは間違いないと話す。 そしてレジアスレポートにより復活した無限書庫に存在するデータベースにより、様々な事実が明らかにされたと語る。 そして議題は三賢人に関する内容に移り、ロウファが席を立ちモニターへと赴き説明を始める。 先ずはヴァルハラからの説明であるが、レジアスレポートを元に調査した結果、 ヴァルハラとはミッドチルダの魔導技術を基に、アルハザードの技術とロストロギアであるレリックを使った次元航行船であると言う。 レリックは本局と地上本部に保存されていた物を横流しする事により入手、 アルハザードの技術は三賢人が元々持っていた情報である可能性が高いと指摘、 だがアルハザードの技術の情報はレジアスレポートの情報だけではなく、“独自”のルートによる情報が功をそうしたとロウファは語る。 更にヴァルハラの性能は最新の次元航行船を大きく越えた性能を持つ、まさに現代の技術によって作り出されたロストロギアであると説明を終える。 次にエインフェリアであるが、此方にはルーンと呼ばれる技術が使われており、ヴァルハラと同じ扱いであると簡単に説明を終える。 次に今回の事件の発端でもあるスカリエッティに関する情報であるが、此方はグリフィスが席を立ち説明を始める。 今回の事件でティアナが入手したディスクとレジアスレポートの情報を基に奴らの場所を特定、聖王のゆりかごと呼ばれる次元航行船に存在すると説明する。 聖王のゆりかごとは、古代ベルカの王が使用していた質量兵器で当時は戦船と呼ばれた代物である。 「歴史的価値がある聖王のゆりかごが、このような形で表に出るとは悲しいことです」 「……その通りですね」 カリムの言葉に頷くユーノ、だがグリフィスは更に話を続ける。 ディスクの持ち主の話ではゆりかごにもルーンと呼ばれる技術が使われており、 ゆりかごの他にもヴァルハラ、エインフェリアの動力源に使われ、更には不死者の脳に刻まれた呪印もそうであるという。 このルーンの情報はレジアスレポートによって復活した無限書庫のデータベースを基に手に入れた魔導書によって解ったことである。 更に元々ルーンはロストロギアともアルハザードの技術とは異なる技術で、 無限書庫の奥深くに隠すように保存されていたという。 そしてこのルーンはスカリエッティ側、三賢人側、両方にもたらされている技術であることは間違いないと判断する。 「つまり…おんなじ技術が両方で使われているっちゅう事か……」 誰かが無限書庫の情報を横流ししたのか、それともただの偶然か… だがどちらにせよ、驚異である事には変わりがないと考えるはやて。 次に対策であるが、先ずカリムは居場所が特定されているスカリエッティの方から攻略を始めた方がよいと考えを述べる。 何故ならば予言を考慮すると三賢人は“神々の黄昏を告げる笛”が鳴り響くの待っている可能性があるためだ。 ゆりかごはルーンによって存在次元をずらされているのだが、無限書庫の情報により短い時間ではあるが、 ルーンを中和する事が出来ると判明、その間に潜入・大本であるルーンを解除するという。 その役はカリムの義弟であるヴェロッサと、彼が信頼する仲間が行うという。 次の対抗策であるが、戦力として教会騎士団も協力するとは言うが、一斉に黙り込む一同。 片方は現代の技術によって作り出されたロストロギアの塊で武装した三賢人… もう片方は過去に幾つもの世界を滅ぼしたロストロギアを保有した歪みの神と無限の欲望… この二大勢力に幾ら聖王教会から戦力を借りたとしても満身創痍の管理局が向かったところで勝ち目はない。 「本局に応援要請はでけへんの?」 「…本局は次に狙われる事を考慮して戦力を温存しようとしている、十中八九無理だな」 クロノの発言にそれぞれは落ち込む表情を見せる中、ユーノがそっと手を挙げる。 「現実的じゃないけど、手は無い訳じゃないんだ」 そういうと一つの本を取り出す、本の表紙には円に囲まれ中心には正三角形が均等に並ぶ魔法陣が描かれていた。 レジアスレポートによってもたらされた情報は何も最高評議会だけではない、 削除された為、永久的に解けなかった謎が解け、新たな情報に繋がる場合も存在していたのだ。 そしてこの本は、それによって表に出た本であると説明する。 無限書庫には二通りの情報の保存方法がある、先ずは物質による保存法つまり本である、 もう一つは無限書庫の奥の奥、原初の頃から存在する今でも解析不可能なエネルギーによる電子的な保存法である。 そして物質的な保存法であるこの本には特殊な力場によって時間劣化が起こらないように出来ているという。 恐らく表に描かれている魔法陣による効果であるとユーノは興奮するように説明すると、 周りの冷ややかな目線に気が付き、自重するように一つ咳をすると話を戻す。 この本の題名は流浪の双神と書かれ、ある神の話が書かれているとユーノは語る。 …双神は時間・世界・事象のあらゆる次元を渡り歩く放浪者… 神の名は男神ガブリエ・セレスタと女神イセリア・クイーン… 神は強き者を好み、自らが生み出した世界にて強き者を待っている… そして神が与えた試練を乗り越えた者のみ神と対峙する権利を得られる、 そして神にその強さを認められれば、神は力を貸すという内容なのである。 更にこの本には神の住まう世界セラフィックゲートへの扉の位置が記されているとユーノは語るとクロノが声を荒上げる。 「バカな!こんな世迷い言を信じろと?」 「僕も最初はそう思ったさ、でも此処に記載されている扉は実際に存在するんだ」 ユーノの一言に一同は動揺しざわめく中、話を続ける。 此処に記載されている場所の説明と今の地形、更にこの時代の地形を照らし合わせた結果、その場所は此処聖王教会の地下と判定、 そこでカリムの協力を得て調査すると近くに鍾乳洞があり、そこから地下数千メートルの位置に存在する空洞を確認、 其処には本の表紙に書かれている魔法陣が描かれていたという。 つまりこの本の信憑性が実証されたと言う事である。 神の世界への道は見つけた、次に誰が向かうのかであるが、はやては機動六課のフォワード陣を現地に向かわせる事を提案する。 しかしなのはだけには留守番をするように命じた、何故ならば未だ体が万全ではない為、治療に専念させる為にである。 しかし周りの制止を無視して自分も行くと聞かないなのは、 その瞳には決意と不屈の色が宿っており、はやてはこうなったなのはを止める事は出来ない考え、渋々了承する。 そして現場には明日向かうことで会議は終了、早速なのはとフェイトは今回の決議を他のフォワード陣に伝えるのであった。 その日の夜…、此処聖王教会の敷地内に存在する中庭にて、なのはが一人ベンチに座り物思いに呆けるように夜空を見上げていると、 そこに一つの影が姿を現す、なのははその影に気が付き目を向けると、其処にはユーノの姿があった。 「あっユーノ君…」 「お邪魔だったかな?なのは…」 ユーノの言葉に首を振り屈託のない笑顔を見せると、ユーノはなのはの隣に座る。 辺りは沈黙に包まれ、虫の鳴き声が静かに響き渡る中、静寂を優しく切るようにユーノの口が動き出す。 「……ヴィヴィオの事、考えてたの?」 「……うん」 ユーノの問いかけになのはは一つ頷くと静かに話し始める。 最初はあの男、レザードの言う通り同情の目でヴィヴィオを見つめていた。 しかし共に過ごしていく内に自分の心にヴィヴィオへの思いが広がっていった。 レザードはそれを同情から生まれたの優越感だと罵ったが、自分はそう思ってはいない。 自分の心に広がるヴィヴィオへの思い…それは絶える事無く募っていく。 自分の思いは本物である!そう確信した瞬間、心の底でヴィヴィオの母親になりたいと思うようになった。 そう語るなのはの目には迷いは無く、決心に満ちた色を宿していた。 「もう自分の想いに嘘をつきたくない!」 「そうか……それじゃあ僕も自分の想いに正直になろうかな」 「えっ?」 ユーノの言葉に驚き顔を向けると、ユーノの唇がなのはの唇に重なり合う。 暫く沈黙が続き唇を離すと、なのはは頬を染めユーノに目を向けると、 其処には男の顔をしたユーノ・スクライアの姿があった。 「なのは…愛しているよ」 「ユーノ……君」 「こんな時にこんな事を言うのは卑怯かもしれないけど…」 なのはが自分の想いに正直になったように、自分もまた、自分の想いに正直なろうと。 十年前に出会ってから、二人はそれぞれの道を歩んで来た。 だがそれでも自分は、なのはの支えとなろうと努力してきた。 なのはの支えになる…その想いは昔も、今も、そして未来も変わらない、 二人の絆が消える事は無い、寧ろ堅く結ばれていくのを感じている。 そして照れ臭さそうな笑みを浮かべ更に話を続けるユーノ。 「それに…ヴィヴィオには男親も必要だと思うし……」 そんな事を口走ると今度はなのはから目線を逸らし俯くユーノ、自分はヴィヴィオを盾にして告白する破廉恥な男と感じ恥じていたのだ。 そんなユーノの態度になのはは笑顔で、そんなことは無い…ユーノはヴィヴィオの為を思って言ってくれた言葉であると理解を示し、 更に顔を真っ赤に染め小さく頷くと意を決したように話し出す。 「ユーノ君…私を“女”にして」 そう言うなのはの顔は真っ赤に染まったままだが、その目は真剣そのものである。 レザードの話ではないが、自分は母親になる前にユーノの“女”になりたいと望んでいる。 その言葉にユーノは無言になるが、その目にはなのはと同じく真剣そのものであった。 その目を見たなのはは目をゆっくり閉じると、ユーノは優しく答えるように、なのはの肩を抱き締め 唇を重ね合わせ、二人だけの夜が始まり更けて行くのであった。 夜が明けた次の日、聖王教会によって割与えられた部屋のベッドの上には上半身裸のユーノのが寝ており、その近くではなのはが制服に着替えていた。 すると着替える音に気が付いたユーノが上半身を起こすと、それに気が付いたなのはが目を合わせる。 「あっ起こしちゃった?“ユーノ”」 「ううん、今起きようと思っていたところだよ、なのは」 二人は軽く挨拶を交わすと頬を赤く染め上げるユーノ、どうやら昨晩のことを思い出していたようである。 すると着替え終わったなのはが入り口に向かうとユーノに目を向ける。 「それじゃあ、行ってきます、ユーノ」 「うん、いってらっしゃい、なのは」 二人は挨拶を交わしなのはは部屋を出る、そして凛とした態度で集合場所に向かうのであった。 集合場所にははやてを中心にフェイト、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルに スバル、ティアナ、エリオ、キャロとフリードリヒが並び立っていた。 そして道案内にユーノの秘書を勤めているメルティーナの姿も見受けられた。 「なのはも来た事やし、いっちょ行ってみますか!!」 「うん!行こう、セラフィックゲートに!!」 なのはの合図に全員は気合いを込めて返事をし、いざセラフィックゲートへと続く空洞へと向かうのであった。 その道中、先頭を歩くメルティーナに続き、はやてとフェイト、少し離れた位置になのはの姿があり、二人はなのはの印象が変わったように見えていた。 いつものような優しい顔だけではなく、ふと見せる凜とした大人の顔が垣間取れていたのだ。 たった一晩で一体なのはに何が起きたのか?…二人は首を傾げていた。 「なのは、昨晩何かあったのかな?」 「さぁ?分からんなぁ~」 「彼女はきっと“女”になったのよ」 二人のヒソヒソ話に耳を傾けていたメルティーナが二人の疑問に答える。 その答えにはやてはニンマリと不気味な…イヤらしい笑みを浮かべ、フェイトはキョトンとした表情を表していた。 メルティーナの“女”の勘では、恐らく相手は十中八九ユーノであろうと小声で話す。 はやては、そんな面白い事があったのなら、なのはの後をついて行けば良かった…と冗談混じりに考えるが、 ディバインバスターにて吹き飛ばされるのは必至と考え身震いを起こし自分の考えを自重する。 そして戻って来れたら色々な意味で祝杯として、はやて直々に赤飯を炊こうと考えるのであった。 それから数時間、道なりに歩き目的の場所である空洞へと赴く一同。 空洞は広く天井も50mはあると思われる程に高く、地面には巨大な魔法陣が描かれており、資料と全く同じ作りをしていた。 「それじゃ、私は帰るわ、後はがんばって」 そう淡白にメルティーナは挨拶を交わすと、そそくさと地上へと戻って行く。 そして一同が残されると、先手をとってなのはが魔法陣に踏み込む。 それを皮切りに次々と魔法陣に踏み込みちょうど中央に集まると、 三角形が一ずつ光り出し、最後に円が輝き出すと周りは白い光に覆われ始める。 「いよいよやな!みんなぁ、気ぃ引き締めていくでぇ!!」 はやての掛け声に一同は気合いを込めて返事をすると扉が起動、 機動六課フォワード陣は光に包まれ、この世界から消え去り神が住まう世界、セラフィックゲートへと向かうのであった…… 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/161.html
仄暗い玉座の間を薄明かりだけが照らす。 暗闇から七人の男女が姿を現す。 玉座には中華風の衣装で煌びやかに着飾った女性が立つ。威厳の割りに、その顔は若く美しい。 「集まったか、八卦集よ」 彼女の声に玉座の下、左右に控える七人が恭しく傅く。 「ついに我ら鉄甲龍の復活の時が来た。長く国際電脳を隠れ蓑としてきたが、もはやその必要はない!今こそ世界を冥府へと変える時ぞ!」 高らかに叫ぶ声に、全員が深深と頭を下げる。 「だが、その前にやらねばならぬことがある……。わかるな?」 七人の内の一人、仮面の男が一礼し答える。 「はっ。裏切り者『木原マサキ』の抹殺、そして彼奴に奪われし『天のゼオライマー』の奪還にございます」 「左様。だが既に木原マサキは死んだとのこと。なれば残るは、天のゼオライマーの時空管理局からの奪還。誰ぞ我こそはという八卦は居らぬか!?」 七人全員がそれに応えた。彼女はしばし悩んだ後に 「耐爬、風のランスターに命ずる!必ずや天のゼオライマーの奪還、もしくは破壊を遂行せよ!」 両目の下に八卦の証である紋を入れた青年を指した。 「御意っ!必ずや御期待に応えて見せましょうぞ!」 彼は勇ましく答える。それは彼女――幽羅帝への忠誠。だが、それだけではない。 一瞬、彼女が耐爬に送った、切なげな視線に気付く者は何人いただろうか。 また、自らが去った後の、幾人かの耐爬への嘲笑を彼女は気付かなかっただろうか。 後にこの事件は、一般には『鉄甲龍事件』と呼ばれることになる。だが、真実を知る一部の人々はこう呼んだ。『冥王事件』――と。 魔法少女リリカルなのは―MEIOU 第一話「冥王、黄昏に降臨す」 「鉄甲龍……ですか?」 居酒屋風、否、居酒屋のカウンターに男女二人が腰掛けている。 一人は八神はやて。時空管理局 本局古代遺物管理部 機動六課部隊長である。仰々しい肩書きだが、19歳という年齢からはそうとわかるものは少ないだろう。 「ああ、別名ハウドラゴン。現在は動きを見せてないがな。多分水面下で活動してるんだろう」 もう一人はゲンヤ・ナカジマ。陸上警備隊第108部隊の隊長だ。階級ははやてが上ではあるが、それを感じさせない砕けた口調だ。研修中に彼女の面倒を見た関係で、今でも相談に乗ることがある。 「せやけど、次元世界を股にかけて活動するなんてできるんですか?」 「まあ、普通は無理だろうな。だが、奴らはおそらく独自の次元空間航行船、いや要塞を持っている。本局レベルのものをな」 「そんな……」 それほどの組織が何故、今活動していないのか。疑問は尽きない。 「連中のテクノロジーは管理局と同等かそれ以上。位置を悟らせない何らかの仕掛けがあるんだろう。組織も局と違って一枚岩だ」 「何でナカジマ三佐はそんなに詳しいんですか?」 はやての疑問は当然のことだろう。一介の部隊長が知っていることではない。 はやても今まで聞いたことすらなかった。 「昔……ちょっとな」 「はぁ……」 僅かにゲンヤの顔が曇った。が、すぐに笑って誤魔化した。 「ともかくだ、八神。鉄甲龍という名を覚えておけ。だが、できればこのまま忘れることができればいいんだがな……」 「わかりました。ありがとうございました、ナカジマ三佐」 「いや、休みだってのにこっちから呼んで悪かったな」 「いえ、今日は話せてよかったです。失礼します」 鉄甲龍――店を出た後もその言葉が頭から離れなかった。 その日、ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマはいつもの休暇を満喫すべく、街に繰り出していた。 ウィンドウショッピングに買い食い等々をたっぷり楽しみ、さあ帰ろうかという頃。既に太陽は落ちかけ、街は朱に染まろうとしている。 二人乗りのバイクを走らせていると、懐かしい姿を見つけた。向こうも驚いてバイクを急停止させる。 「美久!?」 彼女は確かに氷室美久だった。二人の魔法学校の同期生。流れるような美しい栗毛、大きな瞳はまるで卒業当時から変わっていない。顔立ちも髪の長さもそのまま、背だけが少し伸びただろうか。 「スバル……ティアナ?」 彼女もスバル達を見て驚いているようだ。 「うん!久しぶりじゃん!」 スバルはつい懐かしくて手を握る。すると彼女も昔のように微笑み返してくれた。 「ほんと、久しぶりね。二人とも元気そう」 「まぁ、元気じゃなきゃ勤まらないしね」 「そうそう。身体が資本だから」 そんな他愛ない会話を交わす。それは15の少女らしい姦しいやり取りだった。 「そういえばさ、美久って確か本局勤務じゃなかったっけ?」 「何かミッドに用でもあるの?」 「あ……うん。そうなんだけどね……」 その話題になると急に歯切れが悪くなってしまった。困った顔で俯いてしまう。 「(ちょっとスバル。あんまり聞かないほうがいいかもしれないわよ。辞めちゃったとかかもしれないし)」 ティアナがスバルに念話を飛ばす。 「(あ、うん。そうだね、ごめん)」 スバルはこういったことに少々疎いので、ティアナのフォローはありがたい。 「いいよ。また今度、都合が合えば同窓会でもしよ?」 スバル達が気を使ったのがわかったのか、美久はほっとした顔で微笑む。 「うん、そうね。ありがとう」 そう言って彼女達は別れる。後はこのまま隊舎に帰り、残り少ない休日を楽しみ、明日に備えて眠る――はずだった。 「ティア!あれっ!」 二人の背後に輝いていたはずの太陽が突如、覆い隠される。 スバルの指の指す先には巨大な翼を開いた白いロボット、50mはあるだろうか。 「なに……あれ?」 バイクを横転しそうな勢いで止めたティアナはそう呟いた。いや、それだけしか話せなかった。 「どこだぁ!!ゼオライマー!!」 ロボットは訳のわからない言葉を叫びながら降下した。 足元の建物を踏み潰しながら、肩からは竜巻を放出しながら物や人を巻き上げていく。 街はあっと言う間に悲鳴に包まれ、人々は逃げ出した――しかし、どこへ逃げればいいのか?それもわからず、ただ、あのロボットから少しでも遠くへ逃げようとしている。 「と、とりあえず報告しよう!」 「そ、そうね!指示を仰がないと!」 その当然の答えにたどり着くのさえ、時間を要した。報告をしようとした時、上から自分達を呼ぶ声に気付く。 「スバル、ティア!」 「なのはさん!」 スバルとティアの上司、高町なのは一等空尉である。彼女は既にデバイスを発動させ、バリアジャケットをその身に纏っていた。 「なのはさん!何なんですか、あれ!」 「落ち着いて、二人とも!」 すっかりパニックになりかけている二人をまず落ち着かせる。 「あのロボット、こっちの呼びかけには全然答えようとはしない。私とフェイトちゃんは戦いに出ようとしたんだけど、上から強力なストップがかかったみたいなの。だから今は避難誘導を急ごう。二人も手伝って!」 「は、はい」 それぞれのデバイスを構え、 「マッハキャリバー!」 「クロスミラージュ!」 「セットアップ!」 『Standby,Ready』 同時に二人はデバイスを起動、バリアジャケットを纏う――瓦礫の撤去や障害物の破壊、攻撃を受けた時のためだ。 「それじゃあ、よろしく!」 なのはは再び飛び去り、スバルとティアナは顔を見合わせ頷くと走り出した。 なのはは避難誘導を急ぐ。 だが、何故上からのストップがかかったのか。それだけは気になって仕方がなかった。 こうしている間にもロボットは建物を吹き飛ばし、踏みにじっているというのに。 だが、その答えはすぐにわかった―― 「っ!公園が!?」 近くの公園が割れ、大きなゲートが開く。中からせり上がってきたのは、同じく巨大なロボットだった。 暴れているロボットとデザイン的には近い。各所に突起があり、特に頭部の突起は一際目立つ。 最大の特徴は、両手の甲の丸い球。同じ物が頭部中央にもある。 「またロボット?」 現れたロボットはぎこちない動作で手足を動かした後、背部のバーニアから青い炎を噴出しながら空へと飛び上がる。 「現れたか!ゼオライマー!」 暴れていたロボットは、現れたロボットに反応し、同じく空へと飛び上がる。形状から見て飛行に適しているのだろう。 間接の駆動音を響かせ、翼のロボットが殴りかかる。金属がぶつかり合う轟音は、周囲の悲鳴さえも掻き消す。 殴られたロボットは大きく飛ばされ、車、建物――人を破壊しながら地面を滑っていく。 爆音は更なる悲鳴を呼び、炎は薄暗くなった空を照らす。 倒れたロボットは再度飛び上がるが、風に煽られバランスを崩す。そこに敵の攻撃を受け転倒。 それを何度か繰り返し、やがて完全にロボットは沈黙した。 「何と呆気ない……これが天の力か……?」 エンジンが止まったのか、両手と頭の球体の光も完全に消えてしまっている。 「なのはちゃん!たった今、上から命令が下された。避難完了まで、できるだけ時間稼いで!」 「了解!」 はやての通信にも疑問が残る――この事態に攻撃にストップをかけておいて、ロボットがやられると今更戦えと言ってくる、上の指揮には明らかに不自然な点があった。 だが、今はそうも言ってられない。すぐにその考えを振り払った。 「時空管理局です!直ちに攻撃を停止し――っ!」 最後まで言い終えないうちに突風が真横を通り抜ける。ロボットは完全になのはに向き直っていた。 「邪魔をするな!管理局の魔導士!」 「そっちがその気なら……!」 なのはもレイジングハートを構える。 あれだけの巨体だ。殴られただけでも完全に防ぎきることはできないだろう。だが、懐に入ることができれば――。 『Accel Shooter』 高速で接近しつつ光弾を発射する。無数の光弾は尾を引きつつ、全てが着弾した。 「駄目っ!威力が低すぎる!」 アクセルシューターではかすり傷程度しか負わせることができない。 なのはの弱みはそれだけではなかった。 自分とロボットの下には未だ多くの市民が残っている。 彼女はロボットを市街地から引き離そうとも試みたが誘いにも乗ろうとはしない。余程もう一体のロボットから離れたくないのか。 それとも市街地の上なら全力の攻撃もできないと考えているのか――。 (距離を取って、全力の砲撃で撃墜できたとしても、あの巨体が落下して爆発すれば被害はかなりのものになる……!) それがなのはの攻撃を鈍らせている。 「邪魔をするなら、貴様から死んでもらうぞ!デェッド!ロン!フゥーン!」 ロボットの肩から六つの巨大な竜巻が放出され、外から内へ、囲むようになのはを包みこんでいった。 「きゃあああああああ!!」 竜巻の中では上下左右の感覚すら失われる―― フィールドやバリアジャケットが削られていくのを感じる―― (このままじゃ……!) なのははできる限り最大のバリアを張る。 そのことでダメージは軽減され、竜巻の中で体勢を立て直すこともできた。 レイジングハートを構える。 「ディバイン……」 狙いは一点、竜巻の隙間から見えるロボット、その肩。 魔法陣が杖を囲む――意識を集中させ、掛け声と共に一気に解き放つ。 「バスター!!」 収束された桜色の魔力光はロボットの右肩の、風の噴射口に突き刺さり爆発した。 「ぐぅぅぅぅぅ!!」 突然の反撃に驚いたのか、ロボットは肩を抑えて仰け反る。 弱まった竜巻を突破したなのはは再びロボットと対峙した。双方とも中距離で睨み合う。 一触即発の空気が流れる。下はまだ避難する市民や車の、悲鳴やクラクションでうるさいのに、上空は不思議な程静かだ。 「さっきは随分とやってくれたようだな……」 それを引き裂いた声は―― 「小さい……?」 「ゼオライマー!?」 なのはとロボットは同時に驚きの言葉を口にした。 「八卦……『風のランスター』か……」 なのはとロボットの間に浮かんでいるのは確かにさっきやられたはずのロボット――否、ロボットの形をした鎧だ。なのはと大きさはそう変わらない。 若干角が丸みを帯びているが、全体のシルエットは全く変わっていない。違う点といえば、両手の甲の球体が金色に光り、胸部の穴に光が灯っていることくらいか。 「やはりデバイスの形に切り替えたのは正解だったようだ……。ハリボテのゼオライマーとはいえ、十五年間『鉄甲龍』と管理局の馬鹿共を釣る餌くらいにはなってくれたようだな」 鎧の中から聞こえてくるのは若々しい少年の声だ。だが、その響きはとても冷酷なものに思えた。 「貴様がっ!真のゼオライマーだとでも言うのかぁ!!」 激昂したランスターが鎧に対して拳を叩きつけるも、拳は彼には届かなかった。 「バリア!?」 巨大な拳を受け止める程の強力なバリアが展開されている。 「そうだ……これこそが真なる『天のゼオライマー』!!」 冷酷で、それでいて心底楽しそうな声。 (この人……自分の力に酔っている……!) 「その証を見せてやろう……!」 ゼオライマーは右手をランスターへと向ける。手の甲の光球が光を増す。 そして光球から、ゼオライマーの何倍もの大きさの光の帯が走った。 「ぐうっ!!」 光はランスターの右腕を付け根まで消滅させる。 「次元連結システムは正常に稼動……。小型化しても威力に大差はなさそうだ」 次元連結システム――なのはには聞き覚えのない言葉だ。 ゼオライマーは左腕の光球をランスターへと向ける。 「次は……これでどうだ?」 光球が一瞬輝くと、ランスターの右足が爆発し、地面に落下する。 またランスターもバランスを崩して落下していく。 「クックック、貴様に同じ台詞を返してやろう。"何と呆気ない"」 そう言って、また彼は笑った。まるで地を這う蟻を見下すように、天から人を見下す神のように―― 「では……そろそろ終わりにするか……」 ゼオライマーは両腕を高々と天に掲げた。両手と胸の光は更に輝きを増す。 これ以上は危険だ。 「止めなさい!もう決着はついてます!」 なのははレイジングハートを構えた。 それは直感的な行動に過ぎない。後々罰を受けるかもしれない。 それでも――この光は止めなければならない。 彼はなのはを見ようともせず、 「ふんっ」 軽く鼻を鳴らしただけだった。 「ディバインバスター!!」 彼が鼻を鳴らすと同時に放ったディバインバスター。 彼はランスターの拳をバリアで受け止めていた。そのことを考慮して、制限があるとはいえ、全力全開のディバインバスターを放った。 しかし、ディバインバスターが当たる直前にその姿が一瞬幻影のように掻き消え、再び現れた。 「そんな!?」 「冥王の力の前に――」 両手と胸の光はもはや直視できないほどに輝いている。 「負けられんっ!この戦だけはぁぁぁぁぁ!!」 ランスターはなんとか身を起こし、『天』へと手を伸ばす。 「駄目ぇー!!」 「消え去るがいい!!」 なのはの叫びも空しく、ゼオライマーは両手を胸の前で突き合わせる。輝きが最大に達した時、地上に光が生まれた―― 地を覆い尽くす光は、ランスターを中心に家を、街を飲み込んでいく。『天』を見上げる数百の人々と共に―― その光は見る者全てを恐怖させた。それは指令所でモニターを見ていたはやて、少し離れていた場所で部下に指揮を出すフェイトも同様に。 身体が小刻みに震えるのを抑えることができない。厳密には、それは力への恐怖ではなく、多くの罪も無い人々を躊躇いなく消滅させることのできる者への恐怖――。 それはもはや人ではなく、まさしく――『冥王』。 「クックックッ……アーッハッハッハ――!!」 ならば今、なのはの前で笑っているこの男は――。 「そうだっ!ティア!スバル!聞こえる!?応答して!」 念話にも返事は返ってこない。 「まさか……」 眼下に広がる光を見る。広範囲に渡って街を包むそれは、まだ一向に消える様子はない。 この日、時空管理局は大規模な次元震を観測した―― 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2554.html
「ケロ……あのー我輩のこと見えているでありますか?」 場をごまかすかのように作り笑いを浮かべ、ケロロが男性に尋ねると男性は「ああ。」と首を縦に動かす。 やべー。現地生命体に見つかっちゃったー。 顔から汗が吹き出し、精神が張り詰めてくる。 どうやってこの現地生命体から姿を消すか……。アンチバリアの存在をど忘れし、脱出の名案を出そうと考察し始めた。 が……よく、辺りを見回すと研究室と思わしき広い空間。 その空間の壁に立つ柱。 そして、生命体が手元の寝台で寝かせている誰かの身体を見てケロロは思考が停止した。 誰かは裸で……胸が膨らんでいていて身体も幼かった。そのことから女性だと認識する。 が、問題はそこではなかった。 女性の身体の一部がメスで開かれて機械が剥き出しているのだった。 「……どうした?」 カエルと思える物体が固まっているのを察し、男性は妖しく眼を細めて尋ねる。 しゃべるということは、このカエルは誰かの使い魔か……。 と考察し、男性は始末してしまおうと判断した時。 「わー、すっげー!改造人間じゃんカッコイイー!」 「へ?」 第1話「ケロロ、めぐりあい研究施設。であります!」 新しく現れたテレビのヒーローを見ているかのような興奮した声に男性は邪念が霧散してしまう。 意外な言葉をもらい、反復しながら眼の前のカエルを見遣る。 カッコイイ? 確かに自分の中の最高の技術で生み出したこの戦闘機人に愛を注いでいるが、他人からそう言われたことなど今までになかった。 その為、男性は嬉しさで気分が高揚していたことを自覚した。 褒められて……うれしいのか。私は……。 「カッコ……イイかい?」 「左舷、何をバカなこと言ってんの!? こんな『出たなショッカー!』みたいなのとか『キカイダー!!』みたいなヒーロー、ヒロインほど男の心を擽るものはないであります。これは造ったのでありますか?」 「ああ、戦闘機人と言ってね。この娘だけじゃなく。あっちのカプセルに入った娘もね。」 柱のように立ち並ぶカプセルの中を男性が促して示すとカエルはらんらんと輝きを放って中に浸かっている少女達を見回して叫ぶ。 「ゲロー!なんじゃありゃぁ……あれ全員ショッカーライダーに変身するんでありますか!?」 カプセルにはそれぞれ数字がNo.5から順番にプレートに刻まれており、ケロロにはそれがまるでライダーシリーズに思えてしまう。 「いや、変身はしないけど。あらゆる状況での闘いを想定して調整している。」 「やべぇよ。アンタ……男の中の男であります!」 きっぱりと崇高の眼差しできっぱりと答えるカエル。 そんな彼に男性は興味が湧きはじめていた。 このカエルは……認められなかった自分の技術を褒めた。自分を認めた……。 ただそれだけ……。 それだけでもスカリエッティにとっては充分な感情である。 ふわふわと、気持ちが柔らかくなって。知らないうちに自然と口元は緩んでいた。 「ありがとう……。」 「ケロッ、自信を持った方が良いーであります。」 にこにことこちらが照れてしまいそうになる輝かしい笑顔を見せてくれるケロロ。 そんな彼に男性はまだ自己紹介を済ましていないことに気付き、口を開く。 「ありがとうカエル君、まだ名乗っていなかったね。私はジェイル・スカリエッティ、科学者をやっているんだ。」 おっ、自己紹介は宇宙共通の最初のコミュニケーションでありますな! とスカリエッティと名を告げた彼にケロロは気を良くし。ビシッと両手をを腰に沿え、右手を斜めに額にくっつけて名を名乗る。 「ケロッ!我輩、ガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹であります。」 「宇宙……それは興味深いね。軍曹君と呼べば良いのかな?」 「ノンノンノン!コミュニケーションに遠慮なんて無しだって~。好きに呼んで良いであります。」 スカリエッティの尋ねに「わかってないなぁ。」というかのように肩を浮かせてその小さな緑色の右手をひょっこりと差し出す。 「だから我輩も、スカ殿と呼ぶであります。」 ケロロの言葉にスカリエッティは彼の右手に自身の右手を重ねて握手を成立させる。 スカ殿か……。 初めてあだ名ような呼び方を付けられ、嬉しそうに微笑んで小さな彼の名を呼ぶ。 「よろしくね、ケロロ君。」 「よろしくであります。」 冬の寒さを溶かしていく澄みきった春風のように純粋な心のまま成長した科学者と宇宙人が出会った。 そして、ミッドチルダの世界に嵐を巻き起こす……のは後の話。 「ねー、スカ殿。この娘の名前おすぇーてー。」 ぴょこっと寝台に飛び乗り、横たわる少女を見遣りながらケロロはスカリエッティから名を尋ね。 教えられる。 その名は 「ああ、彼女はNo.4・クアットロだ。」 伝説のアノ人の仮の名前にケロロは更に興奮したのか目を皿のように丸く広げ、クアットロへと敬礼をする。 まさか、メガ・バズーカ・ランチャーを限界まで撃ったお方に会えるなんて……我輩感無量であります!! 「ケロ!4番目とかマジでカッケェェ!最高じゃん!」 「そ、そうかい?」 ケロロは真っ直ぐいて白と黒の美しい配色の眼から涙を溢れていた。 そんな彼に「何故泣いているんだ、ケロロ君は?」とスカリエッティは聞きたかったが彼から熱い何かを察し、言葉をかけれない。 「ねーねー、早くクアットロ殿起動しないでありますか?」 「え、軽っ。」 今の今熱い何かは何処へいったのか、けろっと雰囲気が切り替わり。ケロロは急かすかのようにスカリエッティに尋ねてきた。 が、スカリエッティも新しく出来た小さな友人の楽しそうな笑顔を見たくもあり……彼から少し離れて近くのコンピューターへと歩み寄る。 あれだけの反応だ……他の娘達にも会わせてあげたい。 「ケロロ君、クアットロは起動できないから先にNo.1から3までの娘達を紹介するよ。」 「マジ!?会わせて会わせてー!」 意外であったスカリエッティの言葉にケロロは。 プロトタイプからG-3も居んの!?と驚きと喜びが心を高揚させる。 そして、手元のコンピューターに設けられた通信機器にスカリエッティが誰かの名前を呼び。すぐに三人の女性がケロロ達の居る研究室へと到着した。 「まず三人共紹介しよう。彼はケロロ君、私の宇宙の友人だ。」 スカリエッティからの紹介に三人は同じタイミングで頷き、ケロロを認識して一人の女性が先だって挨拶をし始める。 「No.1、ウーノです。よろしくお願いしますケロロ君」 「彼女は情報処理や私の秘書を務めている。」 スカリエッティと同じ紫色の長い髪を揺らし、ぺこっと頭を下げる彼女に続き、金髪の女性と紫色の短髪の女性が前に出てケロロと握手を交わす。 「そして次はNo.2とNo.3。No.2は潜入や隠密行動を特化してNo.3は高速戦闘に特化している。」 「名前はドゥーエ、よろしくねケロちゃん。」 「トーレだ。よろしく頼む。ケロロ。」 そんな彼女達にケロロは元気よく笑顔を浮かべ、昴ぶった心が影響して震えた右手で敬礼をする。 やべぇよ……これならケロンはあと10年は闘えるであります……ゲロゲロリ。 「ウーノ殿、ドゥーエ殿、トーレ殿。よろしくであります。我輩こんなにガンダムに会えるなんて夢みたいであります!」 その笑顔は輝かしく、まるでさんさんと大地に恵みをもらたす太陽のように明るい。 彼の笑顔を見る者にさえ恵みをもたらすように……。 スカリエッティから紹介され、知り合ったばかりの戦闘機人の彼女達も彼の存在は好印象となって焼き付いた。 「ガンダム?」と三人は同時に首を傾げたが。 とくにトーレはケロロと左手で握手したまま、彼の姿に見入ってしまっている。 なんて、つぶらな瞳なんだ……可愛い。 「…………。」 「ケロ?トーレ殿どうしたでありますか?」 トーレの顔を見上げると彼女の瞳は潤みを帯び、頬はほんのりと赤く染まっていた。が、ケロロはその反応が分からず。?を浮かべて尋ねた。 「ああ、いや、そ、そのだな。」 ケロロからの尋ねにトーレは途端に慌ててしどろもどろになってしまう。 そんな妹の態度を姉二人は何と無く理解していた。 ウーノは、可愛いもの好きだから……。と ドゥーエは、スイッチ入ったわね。と 「可愛いからってトーレ。ケロちゃん一人じめしないでよ。」 「あ、す、すいません。ドゥーエ姉様。」 注意をされ、名残惜しむようにケロロを見遣りながら彼から少し離れ、今度はウーノとドゥーエがケロロの頭を撫でたり抱きしめたりしてくる。 「ケロロ君、ウーノお姉ちゃんって呼んでね。」 「ウーノお姉様ズル。なら私もお姉ちゃんで良いわ。」 「ケロっ、お姉ちゃんでありますか?」 なかなかに彼女達に受けが良い彼にスカリエッティは口元に手を沿えて笑みを零してしまう。 思ってたよりも、ケロロ君とこの娘たちの相性は良いみたいだ…… 待てよ。ケロロ君は宇宙から来た。ということは船でか……。 彼の言葉に推測し、スカリエッティはその疑問を口に乗せる。 「ケロロ君、君の宇宙船を見せてくれないかな?」 「良いでありますが。」 ウーノに抱きしめられたままケロロは不思議そうに「ケロ?」と首を傾げてそう答えた。 「ハッ…………。」 が、そこで彼は船と仲間達、洞窟を壊してしまった事を直感的に思い出す。 あ、忘れてた……みんな脱出したかなぁ。 「ゲロォ……。」 途端にげんなりと、痩衰えるケロロの表情にスカリエッティは?を浮かべてしまう。 「どうしたんだいケロロ君?」 「ケロ……そのぉ。とっても言いにくいのでありますが。」 「?」 その場にいた一同が「なんだろう。」とケロロの言葉を待つ。 そして 「入口壊しちゃった♪」 てへっ。とケロロはキャップを被ったような頭に両手を沿えてぶっちゃけた。 そんな彼を見て、ついに我慢出来なくなったトーレがウーノ、ドゥーエに囲まれていた小さな宇宙人に抱き着く。 「きゃわいぃぃ!!」 「ゲロッ!?」 その力は半端なものではなく、愛の篭った怪力で抱きしめられ。 次第にケロロの緑色の肌が赤く染まり、青くなって意識が薄れていく。 ケロ……ああ、見える。時が見えるでありまーす。 〔りまーす〕 〔まーす〕 〔まー〕 何故か心の中で語尾が反響する。 そしてケロロはぐったりとトーレの腕の中で気を失った。 「ちょっとトーレ、ケロロ君死ぬから!!」 「唯一のマスコット殺さないでよね~。」 姉二人からの指摘にケロロの可愛さにスイッチが入っていたが、ハッと我に返り。 ケロロを見下ろすとケロロは白目を向いて口から魂が立ち上っていた。 「ぁあっ!大丈夫かケロロ!?」 そんな娘達やケロロの光景をスカリエッティは嬉しく思っていた。 これは良い出会いだ、何となくだけどこの施設にいるのが楽しい……。 慌ててケロロを介抱しているトーレ達を面白いそうに眺め、そっと笑い声を零す。 「さて、入口の確認とケロロ君の船を見てみるかな……ふふ。」 ケロロ「さて、次回のリリカルケロロ軍曹STSは−−」 ギロロ「まて貴様、何を忘れてくれてたんだ!!」 タママ「ひどいですぅ!」 クルル「まぁ、好き勝手出来るから良いけどな。クーックックック」 ケロロ「まぁ、よくある事じゃんドンマイドンマイ。 第2話「ケロロ小隊、散らばっちゃった。であります!」てことで……どすか?」 ギロロ「ごまかすなぁ!!」 ケロロ「ゲゲ~ロ。」 ゼロロ「あれ……皆は何処?また、僕一人……ぼっちなんだ…………。あはは、そうなんだ。そう……だよね。うん、分かってたよ。」 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/574.html
覚悟君が戻ってきた。 新暦0074年10月。 あの日の約束を、ぎりぎり果たしたその日に、や。 そうは言うても、わたしだけの力とちゃうねんけどな。 わたしかて、ヘタな謙遜をする程度の日々を送ってきたつもりはないねんけど、一人じゃ単なる小娘やんか。 聖王教会の…カリムの強力な後押しがあって、ほんっとに辛うじてこぎつけた結果やな。 完成した隊舎の執務室にやってきた覚悟君と向かい合ったら、 おっきくなった背に、いろいろ言うてやりたくなったわ。 けどな、うち、覚悟君の言葉、しっかり覚えてるねん。 せやからな…戦士に、敬礼や。 覚悟君も、わたしに敬礼してくれた。 「…………」 「…………」 結局、それだけやった。 そのまんま、三十秒くらいして。 「じゃあ、みんな…呼ぶな?」 「頼みます、八神二等陸佐殿」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第八話『対超鋼・機動六課』 「みんなそろったところで、状況を整理してみよか」 「うん、そうだね」 「行き違いがあったりしたら、困るもんね」 「了解した」 今、いるのは、わたしとなのはちゃん、フェイトちゃん。 うちの子らはガジェット退治の応援その他に駆り出されてて、来週までは戻ってこられへん。 リィンも今は、そっちについていってる。 覚悟君とすぐに会わせられないのが残念やけど… あ、ちなみに、他人行儀は即刻禁止したで。 覚悟君だけそんなことやったら、なのはちゃんやフェイトちゃんにも、遠回しにそれ、押しつけることになるねんな? …それにな。 『勘違いしたらあかんて。 わたしらを結びつけるのは上下関係やない。 おんなじ、願いや。 戦う理由や…違うか? そう思うから、戻ってきてくれたんやろ、覚悟君』 『…相違なし。 謝罪する』 まあ、三年前は嘱託魔導師待遇(魔法使えないのにヘンな話やけど)で、わたしらの仕事、手伝ってもらってたから、 管理局の組織に正式に組み込まれることを自分で選んだ手前、組織の仕組み、ないがしろにできん思うたんやろな。 でもそれは、中身をしっかり守ってくれれば、形なんかどうでもええねん。 なのはちゃんにフェイトちゃん、シグナムたちもそうしとるみたいにな。 「…まず、どうしてカリムの、聖王教会の後押しが強まったのか? これは覚悟君が詳しいはずやな」 「強化外骨格、雹(ひょう)の発見ゆえに!」 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、息を呑んだ。 わたしだって、カリムから聞いたときは、同じやった。 あんなことが、あった直後やったから… 「野生の火竜が丸呑みにしていたものを、おれが回収した」 「それってつまり、この世界に飛ばされてきたのは、覚悟くんだけじゃなくて…」 「呼ばれたのは、強化外骨格そのものであるかもしれぬ」 なのはちゃんに応える覚悟君の目つきは、鋭かった。 「強化外骨格に宿るは、理不尽に蹂躙されし魂なれば。 カリムの予言の一節に符合せし部分あり」 古い結晶と 無限の欲望が 集い交わる地 死せる王の元 聖地より彼の翼が蘇る 死者達が踊り 中つ大地の法の塔は空しく焼け落ち それを先駆けに 数多の海を守る法の船は砕け落ちる 「踊る死者達、これ強化外骨格の瞬殺無音を意味するならば… ミッドチルダに吹き荒れるは、大殺戮の嵐!」 「地上本部への…」 「強化外骨格を使った…」 「毒ガス攻撃!」 真っ昼間の晴天なのに、雷が轟音を立てて落ちてくるのを、わたしらは確かに聞いた。 本部からの事情聴取では知らぬ存ぜぬで突っ張り通したけど、 わたしは確かに知ってる。 瞬殺無音がなんなのか、零(ぜろ)から聞いて、知ってる。 十秒足らずで都市ひとつ根こそぎ鏖(みなごろ)す。 姿無く、音も無く、匂いもせず、ただ瞬間的にやってきて、あとは原型をとどめない…化学兵器、戦術神風(せんじゅつ かみかぜ)。 「強化外骨格は…零(ぜろ)は、悪用されるの?」 「断じて否。 下郎にその身を許す零(ぜろ)ではない! 雹(ひょう)もまた我が父、朧(おぼろ)の超鋼なれば、不仁を為すこと、決してありえぬ」 「お父さんの?」 重々しく頷いて、覚悟君は続ける。 「零(ぜろ)、雹(ひょう)がこちらに存在する以上…現人鬼(あらひとおに)の纏(まと)いたる霞(かすみ)もまた在ると考えるべき! 外道に堕ちくさった散(はらら)ならば、強化外骨格の力、罪なき人の抹殺にふるったとて、何ら不思議なし」 フェイトちゃんが、ちょっと痛々しそうに目をそらしとる。 お兄ちゃんのことを「鬼」って呼んで、討つべき悪としてにらみ続ける覚悟君や。 たとえ冷たくされたって、虐待されたって、 それでもお母さんのこと信じ続けたフェイトちゃんには、やりきれないものがあるかもしれへん。 「でも、それをやるのが散(はらら)さんて決まったわけやない」 「だが、そう考えねばならぬのだ、はやて」 「これ見いや」 ウインドウを起こして、映像を再生する。 百聞は一見にしかずやて。 「これは、玩具(ガジェット)」 「三週間前の、ヴィータの戦闘記録や」 その日、現れたガジェットは、たった五体。 せやけど、その分、特別製やった。 数でタカをくくった地上部隊三十人が、あっさり片付けられてもうた理由は、 ヴィータがグラーフアイゼンで殴りかかった瞬間に、すぐわかった。 「…これは、まさか!」 さすがの覚悟君の顔色も、これには変わって当然やな。 あれの意味を知らなかった、なのはちゃんとフェイトちゃんだって、同じ顔したんやもん。 「わかるか、展性チタンや。 展性チタンの装甲を持った、ガジェットや」 ブースターで噴射しながら正面からぶち砕く、ラケーテンハンマー。 あれをくらって、吹っ飛ばされておきながら、ガジェットは表面が一瞬へこんだだけで。 装甲表面全体をぷるんと震わせた思うたら、元通りの形になって、元気ハツラツでミサイルを撃ってきた。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)で魔力が消されてまう上に、 通った威力、衝撃もこんな風に散らされるんじゃ、苦戦するのも当たり前や。 最終的に、ひとつ破壊している間に、残り全部に逃げられて。 「…わかるか、これがどういう意味か、わかるか?」 「展性チタンは、強化外骨格の装甲にのみ用いられし素材」 「せや。 強化外骨格の技術を解析してる、何者かがいるっちゅうことや。 もっと、聞くで? これ、放っておいたら、この先どうなるか」 「瞬殺無音の暴露…」 「わたしは、もっとおそろしいこと考えとるねん」 正直、口に出すのもイヤな可能性やけど、 目をそむけるのは、絶対にあかんねや。 だから、言う。 「強化外骨格の、量産や」 覚悟君の息が、数秒間も止まったのを感じた。 なのはちゃんとフェイトちゃんには、あらかじめ伝えておいた、一番悪い予想。 もしも…もしも、色々とタガの外れた人が、それを使って何かやらかすのなら。 そこから描かれる未来図は、この世の、破滅や。 「覚悟君だけの問題とちゃうねんて。 もう、とっくの昔に。 せやからな、探そう? 一緒に…止めなきゃいけない人達を」 「…了解。 おれの拳ひとつでは、因果は届かぬと認識した」 「うん、ええ子や」 一人で背負い込もうとするんは、覚悟君の一番心配なところ。 何も、覚悟君は、人類最後の戦士やあらへん。 支え合って、わたしらは、もっと強うなれるんや。 「…で、次は、一体、どこでそんな技術を解析しとるのか、って話になるんやけど」 「言いにくいけど、一番最初に思いつくのは…」 「零(ぜろ)だね」 なのはちゃんの後を、フェイトちゃんが引き継いで、はっきり言うた。 「ロストロギアに匹敵するものなら、管理局で解析するのは当然だから…問題は、その後」 「管理局から悪漢どもへ情報の漏洩ありと?」 「そうだとしか思えない。 そうでなければ、別の強化外骨格を… 覚悟の言っていた、霞(かすみ)を持っていると考えるしかなくなる」 「であれば…散(はらら)か」 覚悟君の拳が、きりりと握られた。 考えるな、ちうても無理なんや。 それは多分、覚悟君にしか背負えないものやから。 外野から、とやかく言えることと違う。 違うんやけど、でも、一人で背負い込むのは反対やし。 もし、対決に立ち会うようなことがあったら、わたし…何をしてあげられるんかなあ? …あかん、あかん。 今考えることとちゃうで。 「散(はらら)さんより現実的な危険は、獅子心中の虫やで、覚悟君。 姿も形もない霞(かすみ)より、現にある零(ぜろ)や」 直接的な表現を避けつつ、覚悟君流にむずかしい言葉をまぜてみる。 我ながら上出来やな。 「覚悟君、言うてくれたやんか。 零(ぜろ)は征くべき場所に打って出たのだ、って」 「…うむ」 「じゃあ、管理局外部に漏れてる展性チタンの技術。 これは、零(ぜろ)が撒いたエサとちゃうか?」 「!!」 ふふん、目つき、変わったやんか。 せやせや、男の子はくさってちゃダメやて。 「そろそろわたしらが、零(ぜろ)の声に応える番やて」 「敵の技術、零(ぜろ)ではなく、霞(かすみ)に由来していた場合は?」 「もし、そうなら…零(ぜろ)を取り戻す、立派な大義名分やんか。 そのときは、零(ぜろ)と覚悟君の、全力全開であたる時や!」 一人で行かせるとは限らへんねんけどな。 わたし、策士やねん。 覚悟君、それに気づいてるのかいないのか、わからへんけど… 「はやて」 「ん?」 「命令を! 機動六課が葉隠覚悟に!」 こういうツボ、しっかり心得てるとこ、ホンットにニクイわ。 覚悟君の場合、完っ璧、これが天然やから、なおさらや。 あのシグナムでさえ、なんと古風な…とか言うて笑うんやで? でも、闘志がわく。 「違うで、覚悟君」 「違う?」 「古代遺物管理部、機動六課が正式の名前や。 せやけどもうひとつ、わたしらにだけ見える三文字がある。 わたしらの背負う役目と同じように」 思い切りもったいぶって、気を引いて、 そして、力いっぱいに、名乗る。 「『対超鋼』! 『対超鋼』機動六課(『たいちょうこう』 きどうろっか)や!」 「対超鋼、機動六課!」 「たとえ相手がロストロギアだろうと、強化外骨格だろうと、 わたしらは一番最初に立ち向かって、一番最後まで立っている。 機動六課は、そういう部隊や」 居住まいを正す。 八神はやて、上官モードや! 「葉隠覚悟陸曹」 「はっ」 「貴官は本日より機動六課中枢司令部、ロングアーチに所属。 わたし、八神二等陸佐の直属として、対超鋼戦術顧問を命じる!」 「対超鋼戦術顧問、拝命いたします!」 「うむっ」 覚悟君の敬礼に、わたしも敬礼。 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、敬礼。 一人前の仕事をするには、まだまだ時間がかかるねんけど、 生まれたばかりの機動六課は、今、確かに歩き出してる。 (グレアムおじさん…見てて、な) 空の彼方に、そっと、祈った。 「是非もなし」 なのはが指揮する『スターズ』分隊の配属候補、二人の話になってすぐ、 覚悟はそう言って、なのはの選択を全肯定した。 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。 私となのはみたいに、ずっと、二人でやってきたっていうコンビらしいけど。 「両名すでに、恐怖超えたる器なり。 錬磨おこたらねば一廉(いちれん)の戦士たるも夢ではなし」 「さすが…直接見てきた覚悟君はひと味違うね。 でも、びっくりしなかった?」 「何が」 「スバルちゃんのこと」 覚悟にとっては、この世界での全ての始まりだったはずの女の子。 火事の中、生命を賭けて助けたこの子が今、機動六課に名前を連ねようとしている。 少しだけ、黙ってから…覚悟は、うなずいた。 「できることなら、平和の中に生きてほしかった」 それを聞けて安心したよ、覚悟。 戦いだけで頭が埋まっているような男の子じゃないって、三年前から知ってはいるけどね。 覚悟のあの強さは、聞けば五歳のときから仕込まれてきたものだっていうから。 …私も、境遇としては似たようなものだった。 だから、三年前、聞いたんだ。 辛くなかったか、って。 そうしたら。 『おれを宝と呼んでくれた父上の顔は、辛き日々を乗り越えし成果。 あの顔を見たくて、おれは頑張り続けていたのだと、あの時に知ったのだ。 おれほどの果報者、そうはおるまい』 私がついに手に入れられなかったものを、覚悟は手にいれることができて。 でも、一緒に辛いことを乗り越えてきたはずのお兄ちゃんに、そのお父さんが殺されて。 忘れろだなんて、言えるわけがない。 でも…それでも、私は、思うんだ。 大好きだったお兄ちゃんのこと、悪とか、殺すとか、そんな風に思い続けるなんて、哀しすぎる。 散(はらら)さんがどういう人か、まだ私は知らないけれど、戦いになるようなことは、できれば止めたい。 だけど、ね。 「だが、戦場にて勝てぬ大敵を前に一歩も引かなかった事実。 決意を身をもって示す者を前にして、おれに何が否定できよう」 小さく笑うなのはみたいに、私の意見も、覚悟と同じ。 『覚悟』に余計な口ははさめないんだ。 今は、何も言ってあげられそうにない。 「…採用、決定だね」 「二人の教練、くれぐれも抜かりなきよう!」 「何を言ってるのかな? 覚悟くんも教官になるんだけどなあ」 「む…」 「覚悟くんぬきじゃ、意味ないよ? 対超鋼戦術顧問さん?」 「…了解、未熟ながら死力をつくそう」 「うん、いいお返事。 じゃあ、まずはわたしに教えてね」 なのはが席を立って、覚悟もそれに続く。 三年ぶりの、話仕合(はなしあい)に行くんだね。 最後のあれは、確か… 『後の先を狙い続けて膠着状態に陥った場合、いかに敵を崩すか?』でもめたときだったっけ。 「零(ぜろ)は無くても、大丈夫?」 「あなどるなよ! 当方にカリムより賜(たまわ)りし爆芯『富嶽(ふがく)』あり!」 「そうこなくっちゃ! …フェイトちゃん、どうする?」 いきなり話をふられて、今までずっとぼんやりしてた私はちょっと反応が遅れたけど。 「うん、行くよ」 バルディッシュを握り締めて、私も立つ。 私の率いる『ライトニング』分隊、二人の資料をファイルにしまって。 エリオ・モンディアル。 キャロ・ル・ルシエ。 私の養子、二人。 『真に我が子を思っての決断なれば良し』 覚悟は、そうとしか言わなかった。 …言われるまでも、ないよ! レリック関係だけじゃなくて、私達が追うのは今や、強化外骨格に、謎の生物兵器人間… 死の危険が飛躍的に高まってきたのは、肌で感じる今日この頃だから。 そのために、私がいる。 なのはがいる。 むざむざ死ににいかせるような教練なんか、絶対にしない。 私も、エリオとキャロには、もっと安全に生きてほしかったけど、 二人の選んだ道には、きっとゆずれないものがあるはずだから。 だから、道半ばで倒れたりしないように、最後まで戦える力を、しっかりあげるんだ。 ―――『対超鋼』機動六課、動き出す日は、すぐ近く。 前へ 目次へ 次へ